第50話 貴方の望む未来を(2)

「ぎしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 気が付くと、祭壇から少し離れたところで巨大な悪魔とエルフたちが戦闘を繰り広げていた。

 セシリアは慌てて自分の手を見つめ、手を握ってみる。

 すると、手はセシリアの思った通りに動いた。


(身体が動かせる……じゃぁ、レヴィンはもしかして……)


 悪魔化したシャルネに視線を移す。


(レヴィンもメフィストもシャルネの体に移動したとしか考えられない)


「セシリア!!大丈夫か!?」

 

 突然の悪魔の出現に混乱する中、駆けつけたディートヘルトがセシリアの手を掴んだ。


「ディートヘルト様」


「ここは危険だ、早く逃げ……」


 そう言いかけた、ディートヘルトだが、後から階段を上ってきたものの姿を確認し剣を構える。

 気が付くと緑髪の神官が、階段を登って二人の前に立ちふさがったのだ。

 この神官は枢機卿亡きあと、シャルネに付き従っていた神官だった。


「貴様っ!シャルネの手の者か!?これはお前らの仕業か!」


 ディートヘルトが吠えるが、セシリアは、ディートヘルトの剣を降ろすように手で彼の手を掴む。


「セシリア?」


「貴方には見覚えがあります、確かレヴィンとよく一緒に居た……」


 神官服で最初はわからなかったが、緑髪の神官は、レヴィンと商談に来ていたレヴィンの片腕の商人だ。


「お久しぶりです。セシリア様。

 説明するまでもありませんが、いまあの方は、あちらにいます。意味はわかりますね?」


 緑髪の神官は視線を悪魔化したシャルネに移す。

 その言葉にセシリアは頷いた。


「あの方より最後の伝言を預かっています。……どうか、あの方の最後の願いを、叶えてあげてください」


 そう言って、緑髪の神官服の男はよろよろと近づき膝をついた。


「お願いします、あの人の努力を、あの人の想いをもう、これ以上踏みにじらないでくだい。

 無駄にしないでください」


 ぼろぼろと涙を流して祈るようにセシリアにこう。


 レヴィンの片腕だった神官からしてみれば、公爵家にいたときのセシリアはあまりにもレヴィンに不誠実にしか映らなかっただろう。

 そして実際、セシリアは不誠実でしかなかった。


 こんな最低な女に尽くす彼(レヴィン)に、この人どんな気持ちで付き従ったのだろう?


 きっと何度もやめろと進言したのだろう。それでも彼(レヴィン)はやめなかった。

 そしてそんな彼(レヴィン)でも、最後まで忠誠を誓うほど、この人は彼(レヴィン)を慕っていた。


 それだけレヴィンは人望があった。

 セシリアの隣で、セシリアを守ろうと気をはっているディートヘルトを見ればわかる。

 彼はいつも人を引き付ける。そして仲間と認めたものには誠実だ。

 きっと彼の事だから部下にも仲間にも慕われていたのだろう。


 ――私なんかに人生を縛られなければ、彼(レヴィン)は幸せに暮らせていたのに。


 申し訳ない気持ちで胸が張り裂けそうになる。

 泣いて、言い訳をして、逃げたくなる。

 けれど泣いていたら駄目だ。

 ここで逃げたら本当に自分は最低な女で終わってしまう。

 最後くらい彼の愛してくれた頃の「セシリア」になってみせよう。


 どんなものにも立ち向かい、レヴィンを守ろうとした強かったころの「セシリア」に。

 

 私が報いることができるとしたらもうこれくらいしかない。


 だから、立ち止まらない。前を向いて、今できる事を。


「……わかりました。誓います。あの人の想いを決して無駄にしません。

 だから伝言を聞かせていただけますか?」


 緑髪の神官とおなじく膝をつき、視線を合わせる。


「はい、最後の伝言は……悪魔が空に力を放った瞬間。金色の力で悪魔を浄化してくれと」


 そう言って神官は泣き崩れた。

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