第34話 神議会(5)
どよめく会場をよそに、セシリアは、悲し気にため息をつき、発言をするために挙手をする。
「発言を許します。セシリア」
教皇の発言で注目がセシリアに集まった。
「それを私が使った証拠というのなら……神議官、そして鑑定士の方々のお仕事の取組み方について疑問しか浮かびません」
セシリアは被告席に立ったまま、悲し気にうつむいた。
「な、なんだと!?私たちを侮辱する気か!?」
神議官が反論するが、セシリアは首を横に振り
「考えてみてください。私は聖女の儀を終えて『白銀の聖女』になりました。ここまで言ってわかりませんか?」
にっこり笑って言う。
「白銀の聖女になったからといって魔力痕が変わるわけではありません。見苦しい言い訳です」
今更何をといいたげに神議官がこめかみを抑えて答えた。
「それではあなたのそのペンを貸していただけますか」
その言葉に神議官が眉をひそめて、セシリアの前にくるとペンを置いた。
そのペンにセシリアが指先で触れると
「それではこれの魔力痕の鑑定をお願いいたします」
と、手を放す。
「それがなんだという……」
そこまで言いかけて、神議官の顔が青くなった。
そう、神議官もやっとセシリアの言いたい事に気づいたのだ。
「神議官、彼女の言う通りだ。
それは聖女セシリアが使ったという証拠というよりも、むしろ、『聖女セシリア』を陥れようと捏造した証拠だという証明に他ならない」
教皇がやれやれと言った感じで、神議官を見下ろす。
「お待ちください、どうしてそのような事になるのでしょうか!?」
事態が飲み込めない枢機卿が発言し、傍聴席もそうだ、なんでだ?とざわめきが起きている。
「白銀の聖女になったセシリア様が それに本当に触れてたうえに魔力をこめて使用したというのなら、商人と侍女の魔力痕など残るわけがないのだよ。
魔力量が違いすぎ、白銀の聖女セシリアの魔力痕に全て打ち消される。
使用人はまだセシリア様が使った後うっかり触れたという言い訳ができるが、死んだ商人はどう説明する?
セシリア様が使ったあとに魔力痕をつけられるわけがない。亡霊になってでてきたというつもりか?」
今まで沈黙を守っていた、ディートヘルトが発言し、その言葉に会場がざわついた。
魔力痕はその魔力の強さで相手の魔力を打ち消してしまう。
聖女セシリアはその魔力が強く、平民程度の魔力痕など跡形もなく上書きしてしまう。
だからこそランベールからの傷も、魔力痕が残るように、相手の全力で、しかも魔力痕が残る程度の傷を負わなければならず意識を失うという失態をおかした。
聖女セシリアが「魔族契約の石」を使ったなら、レヴィンと使用人の魔力痕など残るはずもないのだ。
そう、あり得ない物が存在している。それこそ誰かが偽装しない限り。
★★★
『なんだかやり返す証拠やら用意してきたのに、あっちの手落ちで勝手に勝っちゃいそうじゃん』
メフィストが混乱し、ざわついてる会場横目に脳の中で話しかけてくる。
『言うな。さすがにこれは予想外だ。
こんな頭の悪い偽装を本気でしてくるとは私はシャルネ達を過大評価していた』
心の中で言いながら、ちらりとシャルネを見るが、センスで顔を隠して表情を見えないようにしている。
偽造証拠を複数でっちあげたために、その証拠の一つ一つの信憑性チェックがおろそかになったのだろう。
『相手が頭悪すぎて、相手を陥れるための証拠を用意していたのに出す前におわっちゃいそうだけどいいの?』
問うメフィスト。
『……よくない』
つい素で答えるレヴィン。相手を絡み取るための何重にも糸を張り巡らせた蜘蛛の巣を準備をしていたのに、蜘蛛の巣に届く前に勝手に全速力で走ってきて勝手に転んで勝手に死んでもらっては困る。
レヴィン時代寝る暇も惜しんで用意した手札の数々をまだ一つもだしてない。
商人時代死ぬ前にこの裁判をも想定していた。
わざわざ魔族と契約したと偽った魔方陣の上で干からびて死に、裁判でやり返すため罠となる偽装した証拠や証言をぬかりなく何重にも準備してきた。それなのにどれ一つ披露することなく、相手の自爆で終わるのは納得いかない。
『いままでだって、用意しても使わなかったものもあるんでしょ?別にいーじゃん』
メフィストが薄目でいうが、
『どれか一つの罠にかかって、他が駄目になったのと、罠にかかる前に勝手に自爆してしまって一つも使えなかったのでは話がちがうっ!!』
と、レヴィンがよくわからないこだわりで全力で抗議してくる。
『まー、悔しむ方向性がおかしいけど、君でも年相応に悔しがることがあるんだね。安心したよ』
と、メフェストがざわめく会場を見下ろしながら、肩をすくめた。
そして――
「神議長、私達から新たに提出したい証拠があります」
場の騒ぎを収束すべく、最初に動いたのはディートヘルトだった。
手をあげ教皇に訴える。
「それは証拠品として神議委員に提出していないものを提出するということかね?」
教皇がディートヘルトに問う。
「はい。見ての通り、確実に「聖女セシリア」を犯人に貶めようと証拠すら捏造する存在があります。
それ故我々はその証拠を提出できませんでした」
「わかりました。認めましょう」
「神議長!!!」
神議官が抗議の声をあげるが教皇はそれを一瞥する。
「神議官。君はここで退出を命じる。
君は、聖女セシリアを犯人にしようとしていると疑われても仕方ないほど、誘導が一方的だ。
そして今回の証拠の捏造、神議会のなかに内通者がいないと難しいものだ。
あとは言わなくてもわかるだろう?」
冷たい声で言う教皇の瞳は突き放すようで、神議官は言葉につまる。
そう――証拠捏造にお前もかかわっているのではないかと、疑われているのだ。
実際関わっているのだから、この後調査がはいってしまえば、神議官は裁かれるだろう。
がくりと、力なくうなだれたところを、神兵たちに連れていかれる。
「ありがとうございます。それでは、私たちの用意した証人はこちらです。
殺されたといま審議されている使用人のテアとマリアを証人として出廷させます」
そう言ってディートヘルトの言葉とともに現れたのはこの裁判の根本的原因。裁判上ではセシリアに殺されたはずの侍女頭マリアと侍女の二人だった。
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