第28話 栄光と没落と(4)
『テーゼの花なんて切り札をもっていたのは驚きだな。』
部屋に戻るなり、メフィストがでてきて、話しかけてきた。
『セシリア様が望めば、神殿にでも喧嘩を売るつもりだった。手持ちの札は一つでも多い方がいい』
そう闇商人時代からレヴィンはテーゼの種は取り扱っていた。
神殿にばれぬように存在を隠し内密に栽培し、何かあった場合セシリアを神殿の地位を盤石するための切り札として用意していたものの一つにしかすぎない。
(できれば彼女が生きているうちに彼女のために使いたかかったが……)
エリクサーの原料を独占していることで暴利をむさぼっている神殿の権威をそげるようにとレヴィンの商人時代に繁殖方法も栽培方法も確立している。
この栽培を知る者はレヴィンの腹心のみ。
彼らには死ぬ前に、他国に偽名で商店を立ち上げそちらに逃げるように手配し、彼らの旅立ちを見守ったので大丈夫だろう。場合によっては彼らを全員ゴルダール地方に呼び寄せるのも一つの手だ。
彼らはレヴィンへの忠誠心が厚い。事情を話せばいつでもレヴィンの手助けをしてくれるだろう。
そんなことを考えていると
『ねぇ、ひょっとしていやに魔瘴核や魔物に詳しかったのももしかして』
と、メフィストに突っ込まれる。
『もちろんセシリア様用に役立つようにと練っていたプランの一つだ。できれば自分で使うのではなく、セシリア様に使っていただきたかったが』
やれやれとレヴィン。
『なんつーか、気持ち悪いも怖いも通り越して、おぞましい』
メフィストが容赦なく突っ込むが
『悪魔からその言葉はご褒美だ』
と、嬉しそうに、レヴィンは笑う。
『もうやだ、このマゾ』
何を言っても動じないレヴィンにメフィストが少し拗ねてベッドに横になった。
『でもさぁ、そこまで用意しておいて、彼女が死ぬのを黙って見ていただけなのがよくわからないな』
『誘拐して、意に添わぬ場所に押し込めて、安全のためと言い訳しながら監禁でもしろと?』
『それだって守るにならないのかい?』
『私なら意に添わぬものに監禁され飼われるくらいなら、不幸な状況でも自ら選んだ場所で死を選ぶ』
彼女が自分の差し出した手をとってくれたなら、どんな事をしてでも、彼女の望む形で幸せにすると全力をつくしただろう。
それが金色の聖女になりたいだっとしても、他の誰かと結ばれたいという相談だったとしても。
彼女の望みなら何でも叶えるつもりだった。
だから彼女が手をとってくれた時に、どのような状況だったとしても彼女を助けられるための準備だけはしていた。
いまでも誘拐して無理やりどこかに閉じ込めて、贅の限りをつくし、ドレスや宝石を捧げて愛でていたら、彼女は幸せだったのかと考える事がある。
けれど奪われたものに対する恋慕は、呪いともいえるほど執着になる。
奪われた方法が理不尽であるほどそれがんじがらめに絡みつけてくる。
それはいまでも幼き時に守ると誓ったセシリアと理不尽に引き離され、復讐に身を置いた自分だからこそ知っている。
なにより、彼女の意思を無視して束縛することは、自分の意思を貫き、孤児の集まりを抜け出してでも自分を助けてくれた彼女を否定するような気がしてできなかった。
「だって、私の方がお姉ちゃんだもん! 守るのは当然だよ!」
あの時の笑顔をずっと支えに追いすがり、娼館に売られ、理不尽な虐めや虐待などをされても、どんな辛い状況でも耐えてきた。勝手に彼女だけを支えにして。
自分をあの時助けてくれた彼女だからこそ、自分だけは本当の彼女の強さを知っている。
彼女なら目覚めてくれると信じていた。
でも結局は思い上がりでしかなったのだ。
彼女の弱さを見抜けなかったため、彼女に自殺などという道を歩ませてしまった。
『一番に殺したい相手は他の誰でもない、彼女を知った気になっていた自分自身というのが皮肉なものだ』
『頭がいいがゆえに思い上がりってやつかい?』
メフィストに問われてレヴィンは皮肉めいた笑みを浮かべる。
『だから言っただろう?すべてを知った気になっている策士気どりの人間こそ一番愚かだと』
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