第29話 栄光と没落と(5)
「ディートヘルト様!!凄いです!!本当に育ちました!!伝説の花テーゼの花が!!」
厳重に管理された塔の中の花壇一面に咲いた花に魔導士が歓喜の声をあげる。
「もしこの花の栽培に成功さえすれば、エリクサーによって利権を独占している神殿を見返す事ができます!!」
花を愛おしそうに見つめ、言う魔導士の言葉にディートヘルトは頷いた。
「それが故、危険でもある。もしこの花を本格栽培に踏み切った場合神殿が我々をつぶしにくるだろう。
それにこれが本当にエリクサーの原料になるか確認しなければならない。
どれくらいの効能の薬になるか検証してくれ。栽培していることは絶対知られてはいけない」
その言葉に魔導士は頷くと、複数の魔導士たちを連れて花を大事そうに摘んでいく。
(聖女セシリアがいたなら、神殿と戦う事も可能だろう―――)
セシリアの紹介してくれた商人達はテーゼの花の種から育て方、そしてご丁寧に販路まで整えていてくれた。
どこまで信用できる人物か調べる必要があるが、それでもなんのコネもなかった時に比べれば、かなりやりやすくなっただろう。
もし花の栽培に成功した場合、神殿の権威が及ばない東国への販路を用意してある。
海によって離れている東国は帝国の権威も神殿の威厳も通じない。
それ故神殿は手出しできない。売る相手としてはちょうどいい。
かの国なら自国で使うと買い取り、何食わぬ顔で違法な方法で帝国国内で売ることも平気でやってのけるだろう。
セシリアの紹介してくれた商人たちの話では、商人たちは種や栽培方法を確立していたが必要な魔力量が膨大で魔石を大量に使っても一年に10本作るのが限界だといっていた。
その花がこうも簡単に芽吹き、花開いたということは、この地は魔力が溢れすぎている事をも意味していた。
放置しておけば、人間が魔力にあてられ病にかかったり、魔物が沸きはじめ土地を去らなければいけない可能性がある。
これから大規模に花を育て、魔力を大量消費する必要があるだろう。
聖女セシリアがいなかったらこの地を捨てなければいけなかったかもしれない。
(まるでこの地を救うために現れた天使のようだ――)
いつか二人で月夜を見ながら話した時、月を背景に微笑む彼女の顔が浮かぶ。
「初代教皇がこの世界を救うためにつくった神殿はエルフの血を貴族に取り込むことしか考えていません。
富と権力を独占して、人々を不幸にしています。
私はいまの神殿の体質をかえたい。ついてきてくださいますか?」
淡く月に照らされるその姿は美しく、もしセシリアがディートヘルト達を騙し利用するつもりだったとしても――。
現時点では利害は一致している、そしてディートヘルト達には領地を救ってもらいそれだけの恩義があるのだ。
セシリアがいなければ魔瘴に呑まれ、ゴルダール領とともに滅びを迎え、先などなかった。
セシリアに付き合って滅ぶのならそれはそれで悪くない。
(彼女にとことんつきあってやるさ。例えどのような道だったとしてもな)
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