第18話 欺きと策謀と(4)

「これは……」


 転がるランベールたちの死体を見ながらゴルダール騎士団の兵士たちがつぶやいた。魔法の鑑定士の判定では聖女の力で全て心臓を一突きで殺されているという

 聖女セシリアはランベールに切られたという傷口を鑑定士に鑑定させてから治療を受けたはずだ。

 この世界の魔力を持つ者は常に身体から魔力を放っており、カップをもっただけでも、その魔力の痕跡が残る。

 そしてその魔力は一人一人細かい数値が違う。

 それゆえ魔力鑑定は犯罪を調べるうえでも重要な位置を占めていた。

 傷口にも剣で切った相手の魔力痕が残るため、あれだけ魔力を込めた剣で切られたのならば聖女セシリアを誰が切ったのかはすぐ判明するだろう。


 聖女セシリアの話では、突然馬車が襲われ、神官とともに魔物からの逃げたあと、神官が助けを呼びにいっている間に木の上に隠れていたらランベールたちに襲われたと言っていた。

 騎士団に助けを求めにきた神官とも証言は一致しているのでまちがいないだろう。

 ディートヘルトの言う通り、神殿は聖女セシリアを殺しにかかったが、思いのほか聖女セシリアが強く、失敗したというところだろう。


「聖女様、申し訳ありません! 我々の到着が遅かったばかりに」


「いえ、助けにきていただいて感謝しております」


 そう言って笑うセシリアだが、騎士団達の行動の一挙一動に目を配らせているところを見ると、ゴルダール騎士団も信用はしていないのだろう。

 信用されないというのはさみしくもあるが、警戒心が強かったからこそ、彼女の命が無事だった。

 もし普通の令嬢であったなら、最初の魔物の襲撃で殺され、騎士団の主であるティードヘルトが聖女を守れなかったその責を問われ窮地に陥っていたのは間違いない。

 彼女の警戒心に感謝すべきだろう。


(……それにしても)


 死体を見下ろし、その死体の状態に驚愕する。

 心臓を迷うことなく貫いている思い切りのよさと、動いている対象物を狂うことなく狙った場所を貫ける魔法の精度。これだけの事をできるのは優秀な魔法使いでもそうそういないだろう。

 それだけ魔力のコントロールは難しいのだ。


(訓練された騎士複数人相手に正確に魔法をコントロールしすべて倒した。

 確かに聖女修業は厳しいと聞くがここまでできる聖女はそうそういないだろう。

 ……これだけの実力なら、我らと前線で戦えるのでは?)


 騎士団長はくるりと振り返り、傷の手当てを受けているセシリアに視線を向ける。


(もしかしたら、あのお方は……本当に我らを救ってくれる救世主になる可能性を秘めているのかもしれない)


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