愛用品
キスをするために必要なモノ。
セックスをするために必要なモノ。
優越感を得るために、矜持を保つために、フェミニストを気取るために、必要なモノ。
孤独を見下すために、必要なモノ。
他人の愛用品として摩耗するだけの私は、愛がどこにあるのかを未だに知らない。
「椿……?」
行為の最中に物思いに耽る女に、彼は幻滅したのかもしれない。目の前にある火照った顔に、疑念の色が微かに混ざる。
「……ん」
重なる彼の身体を抱き寄せ、その首筋に唇を這わせる。
謝意と敬意を示す行為。殺がれかけた彼の劣情が熱を取り戻すのを身体の奥で感じた私は、少し安堵して脱力する。
規則正しく揺れる身体と、荒く乱れた息遣い。快楽に染まる思考の水底にある冷えた感情を悟られないように、彼の律動に感度を合わせる。
汗ばむ肌から伝わる熱も、身体の奥で感じる熱も、私の名を呼ぶ熱を帯びた声も、私の底にあるそれを溶かすには至らなかった。ただ身体だけが彼の激情に耐えきれなくなり、不器用な嬌声を上げ始める。
溶けた身体と爛れた心が、拒絶する本能を引き裂いていく。
彼が私の名を苦しげに呼ぶ。
私は無様に絶頂した。
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