第5話薄幸
ごくり。
味は特にしない。
ごく普通の薬といったところだ。
「おぉーちゃんと飲んでくれた^^」
相変わらずの笑顔。
感覚が鈍って段々と何も感じなくなってきた。
というか、この人は良い人だと思い込み始めてきた自分がいる。
「それじゃあ家に帰ってもいいからね^^」
「はい。」
僕は立ち上がった。
「入口まで案内するよ^^」
従業員専用の部屋を出て入口まで歩く。
改めてみると店内は普通の薬局だ。
待合室、薬を説明する所、奥に調剤室もある。
何処にでもある薬局だろう。
そういえばピンク髪の少女は何処に行ったのだろうか。
忘れていた。
でももういい。
おそらくここにはもう来ないだろう。
そう考えているうちに入口まできた。
「あ、雨やんだね^^」
入口から外を見ると確かに雨は止んでいた。
「じゃあ、またね^^」
「あ、はい。ありがとうございました」
内心もう来ねぇよと思い。
頭を下げた。
一応感謝はした。
外に出た。
薬剤師は笑顔で手を振っている。
今日は奇妙な体験をした気分だ。
結果的には雨宿りをさせてもらい餅までご馳走になった。
謎の薬は飲まされたものの。
警察には突き出さず見逃してくれた。
今日は幸運な日だ。
なんだか空気が澄んでいる。
数分程歩き、後ろを振り向き薬局を見た。
薬剤師はもういない
店内の明かりも消えている。
時計を見ると3時半前だ。
24時間営業ではなかったのか。
とりあえずいつも通りに歩く。
いつもとは違うルート、それだけでなんだか新鮮。
遅い時間というのもあるが、雨が降った影響で歩いている人は居ない。
チャリンチャリーン
「おっと、こんばんわー。君何歳?」
前言撤回だ。
署に連行された。
「君の事調べたんだけどさ。」
「はい。」
「常習犯でしょ?」
「はい。」
「以前の履歴を見たんだけど、ご両親の電話番号はこれ?」
「はい。」
「とりあえず、ご両親呼んだから待ってて。」
「はい。」
僕にとってはもう流れ作業だ。
最初補導された時は、署まで連行はされずに注意と軽い聴取だけで終わっていた。
それが、初めて署まで連行された時は流石に緊張した。
しかし、それも最初だけ。
段々と慣れていき警察の人も「またか」のような顔をするまでになっていた。
しばらくして、父親が来た。
父は頭を下げながら愛想よく振舞っている。
「以前の履歴から息子さんよく深夜に補導されているようですが。大丈夫ですか?」
「一応、息子には注意しているんですが....本当にすいません!」
「なるほど、そうなんですか」
「うちの勇樹が本当にすいません!」
「いえいえ分かりました。勇樹君の歳でこの時間帯は危険なので気を付けてください。」
「分かりました!うちの息子がご迷惑掛けて本当すいません!」
「分かりました。気持ちは伝わるのでそんなに謝らないでください。」
嘘だ。
父はそんな事一切考えていない。
その場しのぎの謝罪。
どうせ後で殴られる。
なんの解決もしていない。
「ほら、勇樹行くぞ。警察の人に頭下げろ」
頭を掴み強制的に頭を下げさせられそのまま駐車場にある父の車に乗せられた。
父も運転席に乗り、署を出た。
そして、父の表情が変わった。
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