1-14. 獣人ガルト
「う、嘘だろ。俺たちが………」
「当然の結果だろ。さっさと死ね。」
自信を喪失し呆然としている男の頭を、槍技『刺突槍』で貫く。傍には既に事切れた2人の死体が転がっていた。
「殺すと奪える……これで更に……」
ザクロ戦を経由しなければ、この1対3は負けていた可能性が高かっただろう。
ザクロを含めた1対4なら、勝てる見込みは薄かった筈だ。
「ああ、十分集まった。」
次がこの街での最後の一戦。
このヴェンを出るのだから、倒すべきだろう。どうせ血の匂いに誘われて向こうから来る。
「そうだよな、ガルト。」
「何がだァ!? 小僧ッ!!」
騎士の血でできたレッドカーペットを、獣人ガルトが通る。
前回と違い殺気の矛先は黒髪に向いており、それは矛を交えてすらいないにも関わらず、強敵として認められている証でもある。
「なんでもない。挨拶代わりだ――剛剣!」
ウォーミングアップ終わりで調子はいい。
肉体の性能を活かし切り、技を繰り出す。
「斧技!かち割りィ!!」
質のいい剣と斧のぶつかり合い。ガシャァァン!と音を立てる。吹っ飛ばされたのは黒髪の方だった。
「チッ、馬鹿力が。」
「フハハハッ!!いいな!いい威力だ!」
正面からではやや分が悪い。が、勝算はある。
「悪いが、気持ちのいい戦いをするつもりはない。超えておくべきと思っただけなんでな。」
「んん!?何言ってんだ!?お互いまだ立ってんだ、殺し会おうぜェ!!!」
ガルトはやはり王道、正面から向かってくる。
何度も繰り返す剣と斧の鍔迫り合い。
その中で見えてくる、ガルトの本質。
(豪快そうに見えてなかなか考えてやがる)
ここでトップを張っているのだ。当然ではあるが、無鉄砲な攻撃が一切ない。
技で塗り固められた攻防だ。
速さで勝る黒髪の攻撃を予測し、一瞬早く動いているように見える。
未来を見るようなスキルは所持していないので、これは黒髪に不足している戦いの経験値。
スキルを奪うだけでは辿り着けない境地というわけだ。
「右!左!……ふはは、分かりやすいフェイントだな!小僧!」
踏み込んだ地面は足の形に凹み、鋭い一撃に繋がる。
だが、剣だけで戦うことで生まれたおだてに乗って気分をよくしている時点で、黒髪の勝ちだ。
「そうか、じゃあこれは予測できたか?」
「むッ!? ……がァッ!!?」
黒魔術。低レベルなので元々の威力は低いが、MPを込めれば補える。
高い魔力で生成され多量のMPを込めた魔術の球体は、足元からの不意打ちとしてガルトの右足を貫いた。
「俺みたいなのが使うと思ってなかっただろ。」
警戒心の強いザクロなら避けただろう。豪快な相手にはいやらしい攻撃が刺さる。
黒魔術という存在は知っていても、ヴェンで生きる者が使うことは想定していなかったのだ。
たまらず膝をつくガルトを、魔球と名付けた魔術が襲い続けた。
「グァァ゛ァァッ!!……こんなもん……どうやって……ッ!この街じゃ……ヴェンじゃまともに学べねェ゛はずだ!」
「知らない。今日まで生きていたからかな。」
頑丈な身体だ。常人なら死んでいる傷で、まだ話す余裕がある。
「気持ちのいい戦いができず悪かった。外に出るつもりなんだ。ここで命は張れない。」
そもそもハイエナの多いこの街で、死闘を演じる者はいない。
ガルトを除くザクロたちトップ同士が戦わないのもそういう理由だった。
「じゃあな。俺は行く。」
最早声も出せないガルトの首を撥ね、その場を去る。めぼしいアイテムは物色済みだ。
こうしてヴェンは、一日で勢力図を変えた。
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