1-13. 解析の指輪
”間引き”の騎士が訪れる日。黒髪と相対したザクロは内心で冷や汗をかいていた。
「(野郎、この数日で何があった……? 完全に別人じゃねぇか!)」
外から来た冒険者の女が言っていた”悪魔”の正体。
コイツだろうとは予測していた。
しかし数日前、確かに格下だったガキが纏う気配は、既にこの街最強の男に近い。
それは即ち、自分一人ではかなわないということで。
「そんな……そんなわけあるか!!!」
徒党が壊滅しようとプライドは残ってる。
手が痙攣するほどに槍を強く握り締め、あの日、勝負を決めた槍技を放つ!
が、結果は空振り。
スキルによって強化された突きは、今の黒髪の身体能力で避けられる程度の速さしかなかった。
「有り得ねぇ!有り得ねぇんだ!!!」
「お前じゃもう無理だ。」
「……っ!!」
いつかの言葉。
怒りで前が見えなくなりかけたが、剣が顔前まで迫ってきたところを辛うじて避ける。
「……舐めんじゃねぇぞ!!」
黒髪が振り下ろした剣が空ぶったことで、ザクロが勢いづく。
しかし、黒髪はそんな油断を狙っていた。
「―――豪剣。」
視覚外の下から上への斬撃。
ザクロの腹から肩にかけて大きく切り裂く。
「な……ッ!」
まさかの状況に目を見開くザクロ。自身が斬られたという事実を受け入れるまでに時間がかかったのか、斬撃の勢いを殺さず、受け身も取らず、仰向けに倒れる。
「は……俺が……っ!?」
信じられないといった表情だ。
何か言いたげだったが、回復能力を持たない上に傷も深かったので、彼はすぐに息絶えた。
「悪いな。才能の差だ。」
「おい!そこで何やってやがる!!……ザクロッ!?」
目を見開きながらも殺気を向けてきた相手はそこらの雑魚じゃない。
その気配はザクロに近かった。
それも当然だろう。そこにいたのは例の獣人ガルトを除く3人のトップ連中だったのだから。
「お前、あの時の……ちっ、ガマの野郎、死んだとか適当言いやがって。」
「あれが”アメンボ”を潰した……やけに、恐ろしいな。」
「気をつけろ。コイツは間違いなくザクロを殺してるんだ。」
全員がその手に武器を持つ。
「3対1か。」
「なんだ不満か? でも残念。暴れ過ぎなんだよ、お前。ここで確実に殺す。」
少し考えたあと、黒髪が足元から手に取ったのは槍。ザクロの槍だった。
右手に剣、左手に槍。
「何の問題もない。これで2対3だ。」
「……ッ! 計算もできねぇガキが……言うじゃねぇか。」
リーダー達は学のない黒髪に少し安心していた。1人の頭を殺すだけの剣の技量を、槍を持つことで死なせたと考えたのだ。
「今日中にこの街を出ていく。急ぐぞ。」
ヴェンの中で、強大な戦力同士が交差した。
◆◆◆
時は少し遡る。
「……は? ヴェンで人が死んだ?」
「はい。パルシュタイン公爵のご子息が、亡くなられたと。」
日が落ち暗いとある一室に、沈黙が降りる。
「……何故だ? 確かにご子息の実力は賊の頭たちに劣るだろうが、奴らは肥溜めの中では賢い方だ。我々には手を出さん。気負いなく遊べたはずだ。」
「それが……報告をしてきた者によると、資料にない人物の犯行ではないかと。現場に到着した時、『解析の指輪』を持ち去る影を見たそうです。」
「……であれば、真実かもな。」
パルシュタイン公爵が息子を溺愛しているのは公然の事実だ。彼が息子の誕生日の贈り物として稀少なスキル『解析』が込められた指輪を渡したという話は、息子当人から広まっている。
だからこそ今回の遊びも許可されたのだが…
「公爵の様子は?」
「これからご子息の手がかりの、指輪の捜索を行うそうです。それが終われば街を焼くと。」
「妥当だな。まあ、あの街の役目を考えれば、焼くことはできんだろうが。」
ヴェンに住む者の数は、1万~2万人。
自分たちから武器を持って入った結果の死だが、死んだのが貴族なら『全てを燃やしてもいい理由』には十分だ。それはこの場にいる二人も疑問を抱いていない。
しかしヴェンには役割がある。怒りに震える公爵の言葉だろうと、それは実行に移されない。
「どうせ使われないだろうが、火属性の魔道具を用意しておけ。公爵と良好な関係を作る良い機会だ。」
運は自分に向いている。男はそう確信すると、暗闇の中で笑うのだった。
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