1-15. 彼は主役にはなれない
「な、何だお前!止ま……っ!!?」
ヴェンの外と内を繋ぐ唯一の門。そこは今、過去に一度もなかった反乱が起きていた。
ただし実行犯はたった一人。
圧倒的な個の力によって、隔離された街は一時的だろうが、解放されつつあるのだ。
当事者である黒髪は、転がる首には目もくれず、騎士の懐を漁っていく。
「大したもんがねぇな。」
万が一への備えか騎士の手持ちは少ない。
持てる数には限りがあるので執着はしないが、期待していただけに残念だ。
切り替えて、ついに念願の門を開く。
「おぉ……」
そこには自然――木々があった。
ヴェンはその性質上特定の管理者がいないので、街の周りは整備されておらず道もない。
しかしだからこそだろう。荒れた壁内とは違うあるがままの姿に、黒髪は感動を覚えていた。
「……すごいな、外は。」
そこに、水を差す者が現れる。
「グギャッ、グギャギャッ!」
――――――――――――――――――――
名前:ャ
種族:ゴブリンLv.3
HP:18/18
MP:8/8
物攻:6
魔攻:1
物防:4
体力:4
魔防:3
敏捷:3
スキル
――――――――――――――――――――
こうして邪魔が入った訳だが、黒髪に怒りはなかった。
それは、恐らく昔の自分にも劣るであろう力。
見た目も醜く、良い所が1つも見つからない。
そんな姿を見たからだろう。
世界を憎むような目をしているのも納得だ。
「まぁ、あれだ。頑張れよ。」
生まれて初めてする同情。
ポンと肩を叩くと、そのままゴブリンに背を向けて去った。
もしかして、外の世界は内側以上に地獄なのか?とも考えたが、騎士の煌びやかな姿を思い出し、それはないと首を振る。
ゴブリンは門番のいないヴェンに入っていく。
願わくば、彼の人生に幸あれ……
しかし。
「ギャギャッ!」
「またお前か。いや、何か違う……?」
さっきのやつが先回りをしてきた。
そう考えたが、手に持っている武器が違う。
最初のやつが持っていたのは真っ直ぐな木の棒だったが、こいつのは曲がっている。
「そういう見た目の生き物なのか?」
ようやく気がついた。
そして、であれば見逃す理由もない。
ゴブリンに剣を振り下ろす。
それだけで頭から股にかけて真っ二つだ。
「面白いな、外は。」
何もかもが新鮮だ。
そして、新鮮ついでにもう一つ。
「ヴェンリオだ。俺の名前はヴェンリオにしよう。」
騎士が言っていた町の名前。そして、世話になった男の名前。
この二つで強くなった。合わせてこそ、自身の名前に相応しい。
「じゃあな。世話になった。」
この世に生まれ落ちて十数年。
ついに黒髪――ヴェンリオは、歩み出した。
◆◆◆
「やばい、やばいよぉ……何なの、あれ。」
ヴェンの片隅で、体を縮こませて震える少女。
アーダレッタという名の彼女は、『宝探し』の固有スキルを持つ冒険者の少女である。
貧困街に探し物があるから、一緒に来て見つけて欲しいという公爵家からの指名依頼。
相手の権力を考えれば断れるはずがなく、報酬も莫大だったため了承した。
簡単な依頼だと聞いていた。
実際、探し物である指輪の詳細は教えてもらったので、『宝探し』持ちの自分にとって難易度はそう高くない。
そう思っていたが、結果はご覧の有様。まんまと罠にハマった公爵家の騎士数十人は隊長含め全員殺され、自分も命からがら逃げ延びた。
予め伝えられていた協力者たちも、血に引き寄せられやって来た獣人族の戦士までもが殺された。
背丈は自分とそう変わらない、黒髪の少年に。
「あれが外に……」
誰かが手綱を握れるようには見えない。
間違いなく、何かが起こる。自分では想像もつかないような何かが。
「帰りたい……」
第一章⠀完
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