1-11. ”間引き”の騎士

敗北から3日経って。

失いかけた‎右腕も治りザクロからの逃亡生活中、ある噂が耳に入る。


「”間引き”の騎士が来る。」


外と内を繋げる門を守る騎士が慌ただしく動いているらしい。”間引き”の騎士が来る前兆だ。


”隊長”という騎士が老人によって殺されたので、その確認だろう。


そして黒髪は思う。これはザクロ達トップを倒すという目標がありながら、強くなる機会に恵まれない自分に与えられた最後のチャンスだと。


既に”アメンボ”崩壊の話は街中に流れ、ザクロ以外のリーダー達が黒髪の存在に気が付き始めている。


もう黒髪が生み出す死体は足跡と同じだ。

やって来る騎士の質や数によるが、可能なら皆殺し。とにかく少ない戦闘回数でザクロ達に届く力を得たい。得なければならない。


”間引き”の騎士に対してはヴェンの強者も、を考えて逃げの選択肢をとる。

獲物を奪われることはないだろう。唯一の懸念点は、黒髪の実力が今回こちらにやって来る騎士に届くかだ。


「……問題ない。」


騎士の戦闘は何度か見たことがある。

弱者だった頃の記憶で誇張されているであろうにも関わらず、今のザクロより遥かに弱いという評価を下せる。


今の自分と対等かそれ以下。

喰らうなら、一番美味しい相手なわけだ。


無論、前回死者が出た以上さらに強い相手が来ないとは限らないため、油断はしない。

だが。


「……はやく来い。」


いつかの恐怖心は、喜びに変わっていた。









………

……

更に時は経ち、敗北から1週間。

日が傾いた午後にようやく門が開く。


「奴らの力は………見えないな。」


過去の”毒蛇”の会話から、そういう能力を持っている騎士がいるのは知っている。

指輪に宿る”見る力”を防ぐ力。


確か、唯一持っていない騎士のレベルは20だったはず。

事前の知識に頼るしかない。


そして小汚い外套を羽織る女。

こちらのステータスは確認できた。


――――――――――――――――――――

名前:アーダレッタ

種族:人族Lv.26


HP:922/922

MP:492/492

物攻:82

魔攻:125

物防:118

体力:222

魔防:121

敏捷:274


スキル

宝探し 平民Lv.4 隠密Lv.3 逃げ足Lv.3

――――――――――――――――――――


女は解析が通った瞬間、何かを感じたようにまっすぐこちらを見てきた。


解析に勘づいた?

いいや、ザクロや獣人族ですら気がついてなかったんだ。直感もない人族が気がつくわけがない。

つまり解析したことは関係ない……可能性が高いのはスキル『宝探し』。


詳細を覗くと、「目的の物を探し出す能力」であることがわかった。

同時に、彼らの目的の物にも検討がつく。


「指輪か。」


今まさに頼った力。彼らは回収しに来たのだ。相手の能力を丸裸にする力を。

あの時逃げていった騎士が指輪を認識していたことを思い出す。


想定外の事態だ。”宝探し”のアーダレッタのせいで、騎士たちがこちらに集まってきた。


しかし。


危機的状況にも関わらず、口元はいつの間にか弧を描き、剣を握る手に力が入る。


「皆殺しだ。」


あくまで存在に気がついたのは”指輪”であって人間ではない。

奇襲を成功させるため、黒髪はヴェンの闇に紛れる――

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