1-9. vs”アメンボ”リーダー

ついにやってきた、”ヴェン”を仕切る男の1人との戦い。

ステータス上ではほとんど差はないように感じたが、実際に始まってみるとその差は顕著に現れた。


「くっ……グハッ!!」


「ふはははッ!おい、歯応えがねぇなッ!」


黒髪を超える 物攻 に、腕力を強化するスキル 剛腕 。

一撃一撃が剣を握る手を痺れさせる。


ザクロより高い『魔攻』は魔法系のスキルを持っていないせいで宝の持ち腐れ。


つまるところ、ザクロは今の黒髪の上位互換と言っていい存在だ。


勝ち目があるとすればそれは敏捷――スピードによる翻弄。

『直感』持ちではないザクロなら、どこかしらで突ける隙が生まれるはず。


そう思いはしたものの、止まることを知らないザクロの猛攻に対して攻めへの転じは難しく、未だ防戦一方だ。


「参ったな……」

「なんだよ、今更気がついたか!? もう遅ぇぞ! 俺の手足を殺した罪、その身で償えやッ!!」


軋む身体の痛みは精神力をガリガリと削り、それは勝気を失わせていく。


しかし、希望がないわけではなかった。


黒髪がザクロに勝っている要素その2。

手数の多さだ。


槍術のみで戦うザクロに対して、黒髪は主武器の剣ほどでないにしても斧、槍、棍棒を一定の水準で扱うことが出来る。


だがそれはあくまで小細工程度。

ザクロの槍術との差を考えると、使い方を誤れば更に劣勢に立たされることになる。


チャンスは一度。

剣士スタイルを脳裏に刻み込まれている今なら、引っかかるはずだ。


多種多様な武器は、死体と共にあちこちに散らばっている。


”ヴェン”で弱者として人を観察し続けた黒髪は知っているのだ。戦士に最も隙が生まれる瞬間は、トドメを刺す時だと。


逃げて避けて、怯える弱者を演じろ。



そしてついにその時は来た。

ザクロが黒髪の剣を自らの槍で跳ね飛ばし、勝利を確信し、胸を目掛けて渾身の一撃を繰り出す!


その瞬間!


つま先で足元に落ちていた槍を目前に飛ばすと、ザクロの槍を逸らし、勢いそのまま反撃の突きを放つ!


「何ッ!?」


想定外の攻撃。

そしてその槍の練度に驚き、ほんの少し、硬直する。



――プシュッ!!



素人とは言えない威力の槍は、ザクロの喉元を掠めた。ザクロの首から血が滲み出す。


「……やるじゃねぇか。」


浅いが傷をつけた。これはほんの少し前の自分では考えられなかった快挙だ。しかし、黒髪の顔色は優れなかった。


「俺に届いたか。なら……仕方ねぇ。」


何故ならザクロの笑みが鳴りを潜め、真っ直ぐに槍をこちらに定めたからだ。




「槍技―――刺突槍」




そして、勝負は決まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る