1-5. 力の理解

「おい、どうした!? ジジイ!」


いつも余裕綽々といった様子の老人の、弱っている姿。先程までの姿が虚勢だったと知る。


「……どうしたもなにもない。限界が来たというだけじゃ。両足が無くなってから五年……体力は随分と落ちた。たった一度の戦いで、こうなってしまうほどにな。」


「………」


黒髪は黙って聞く。


「ワシの右手についている……指輪を取れ。そして流れる魔力を感じ、眼に集め……ワシを見ろ。するんじゃ。」


普段なら反発するが、今回は言われた通りにする。指輪から感じ取れる力を眼に集めた。


――――――――――――――――――――

名前:リオ

種族:人族Lv.21


HP:6/622

MP:266/266

物攻:161

魔攻:77

物防:136

体力:119

魔防:56

敏捷:60


スキル

体術Lv.3 HP自動回復Lv.1 奇襲Lv.1

平民Lv.3 下民Lv.1

――――――――――――――――――――


「HPとは……その者の生命力を示す。0になれば死に、ワシは今6………お主と騎士の前に出た時は、8じゃった。」


黒髪に学はないが、生きるために数字を数えることくらいはできる。老人の言いたいことは分かっていた。


「死ぬんだな、ジジイ。」


「あぁ……そうじゃ。」


老人は話を続ける。


「お主には……悪いが、ワシの予想の全てを話すにはあまりに時間が無い。ワシが死んだら己を解析するといい。それだけで……開かれる未来がある。だが、その前に……」


老人が黒髪に決意の目を送る。


「ワシを殺せ。お主の手で。」


「……は? どういうことだ?」


「お主がこの地獄から這い出るには……ワシを殺すしかない、というだけじゃ。なに、このまま放っておいたら勝手に死ぬんだ。それに、殺しに躊躇するような男ではあるまい?」


「……分かった。殺せばいいんだな?」


必要なら、恩人であろうと殺す。

それがヴェンでの生き方であり、本人からの要望なら尚更だ。この街の住人にしては意外なことに殺人は初だが、黒髪の眼に迷いはなかった。


「うむ。だが、お主の腕力では剣は通らん。首を絞めろ。抵抗はしない。」


それは、ここでは体力の消耗がもったいないという理由で使われない手段。

老人の首に手をかける。


「じゃあな、ジジイ。」


黒髪は握り潰す勢いで首を握った。

HPが6から5、4、3、2……と減っていく。


「かっ……かぁ……っ!!」


老人はビクンビクンと何度か跳ね、やがて制止した。HPは0だった。


そして。


「ぐ……ぐぅ……ッ!!!」


これは黒髪の呻き。心臓が熱を持ち、息が苦しくなる。不快感はない。あるのは、全能感だ。


「……自分を指輪で見ろって言ってたな。」


この街で近しい者との死別は日常だ。黒髪にとっては多少珍しくはあったが、特に罪悪感も悲しみもない。

老人が最後に言っていたことを思い出し、行動に移す。


――――――――――――――――――――

名前:

種族:人族Lv.14


HP:31/646

MP:478/478

物攻:147

魔攻:134

物防:113

体力:105

魔防:105

敏捷:132


スキル

殺奪 体術Lv.3 HP自動回復Lv.1 奇襲Lv.1

平民Lv.3 下民Lv.1

――――――――――――――――――――


何故だか老人のソレと非常に似通っている。

画面とにらめっこをしていると、突然切り替わった。スキルの詳細が見れるみたいだ。


大体想定通りだった『体術』と『HP自動回復』、『奇襲』を除き、記載されていた内容は以下の通りだった。


――――――――――――――――――――

『殺奪』

殺害した対象のスキル経験値を全て奪う。

不要なスキルの獲得拒否可。

スキルの自力獲得不可。


『平民』

Lv.1ごとにパラメータ合計が+60される。

一定水準の生活を続けると獲得できる。


『下民』

Lv.1ごとにパラメータ合計が+30される。

一定水準の生活を続けると獲得できる。


――――――――――――――――――――


「………あぁ。」


6つ並ぶスキルの中で、一際目立つ『殺奪』。


「殺せばスキルが手に入る……」


老人が持っていたスキルを全て持っている理由がこれだ。自力でのスキル獲得不可という今までの人生が地獄だった理由デメリットもあるが、それ以上に未来メリットがある。


「ふふ……はははは………ッ!」


身体能力で1歩も2歩も劣ることになった『平民』や『下民』も手に入った。


「ははははははははははははははッ!!!」



力を得た怪物が、世に解き放たれる時は近い。









――――――

学がないのに文字は読める矛盾。

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