1-4. 老人

「それじゃあ遊戯にならんじゃろ、小僧。」


「ジ……ジジィ……………」


ぼやける視界では、相手の顔を伺うことはできない。しかし声から、現れたのが最近付き纏ってきていた老人であることがわかった。


足がないのにどうやってきたのか、何故死にに来たのか、ここに来るメリットのない彼の出現に疑問は尽きない。


しかし次の瞬間、そんな疑問が吹き飛ぶほどの叫びが響いた。


「お、おいっ!それは、隊長がつけていた解析かいせきの指輪だっ!何故お前が……!!答えろッ!!!!」


老人の右手の指に嵌る小さな輪っか。黒髪にはそれが何かは分からないが、騎士の動揺から本来老人が持っている筈のない代物だと理解する。


そして愕然とする騎士に老人は言葉を返す。


「何故?この街の常識に則ったまでよ。殺した獲物の持ち物を漁る、というな。」


「ば、バカを言うな!!お前みたいな老いぼれに、隊長がやられるか!!」


「かかっ!隊長? 権力だけのお飾り階級じゃろうに。まぁ、信じなくても構わんよ。しかし……かっかっか!!!小僧、お主……そういうことだったか!道理で……いや、今はそれどころではなかったの。さて。」


老人は真顔になり、告げる。


「外の騎士よ。今のワシは機嫌が良い。消え失せろ。さすれば見逃そう。」


「な、何を……っ!」


言い返そうとする”間引き”の騎士。しかし、老人が殺したらしい相手は余程の実力者だったのか、反抗する気は失せてしまうようだった。


やがて口を開く。


「……わかった。今回は見逃してやる。」


その高くなり過ぎたプライド故、自分が見逃すということにしたらしい。外の常識からしてヴェンの住人を見逃すなど有り得ないので、黒髪たちのことを上に報告することもないだろう。

自分の恥を宣伝するようなものだ。


つまりこのまま騎士が帰った場合、老人の情報が流れることも無い。


隊長とやらが死んだのなら、その件は明るみになるだろうから、再度別の敵は来るだろうが。


「かかか。まぁ、それでええわい。」


騎士は一歩後ずさりし老人と黒髪をひと睨みした後、逃げるように駆け足で去っていく。


その間、黒髪たち2人に会話はない。

騎士の後ろ姿が見えなくなった頃、ようやく老人は口を開いた。


「……消えたか。……よかったわい。」


全身から脂汗を浮かばせ、呼吸すら危うくなりながら。

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