1-3. 毒蛇と間引き

「はぁ、はぁ、はぁ……ッ!」

「おーい、待てよ。悪いようにはしねぇからさぁ、なぁ? おーい!」

「信じ……られるか………ッ!」


ニヤニヤしながら追いかけてくるのは”毒蛇”のガマ。騎士の1人バルメラはいない。


身体能力では騎士に大きく軍配が上がるが、ここはヴェン。


舗装されてない道に、あちこちに空いている壁の穴。地形を知っていなければ住人に追いつくことは不可能だ。


だから騎士は毎回何チームにも分かれて行動し、住人が逃げられぬよう挟み撃ちをする。


”毒蛇”の連中も、その気になれば容易に騎士を撒けるだろう。


「んま、そうだよな。だから……チェーン。はい、おしまい。」


得体の知れない力――魔法によって、黒髪の両腕が突然拘束される。黒髪はバランスを失い、前に倒れた。


「いいだろ?この力で俺は”毒蛇”に入ったんだ。無属性?の魔術らしいぜ。この街じゃまずお目にかかれない…お前じゃ外せない鎖だ。」

「ぐ、ぐぅ……くそッ!!」


鎖などなくても元より両腕には力が入らない。黒髪に抵抗する術があるはずがなかった。


「なっさけねぇなぁ。まぁ、独りでここまで生きられたんだ。運を使い果たしたと思え。」


「う、うぅ……がはッ!!」


仰向けで呻いていると、腹をぐりぐりと踏まれる。弄んでいるのだ。


しかしここで。


「騒いでくれてありがとうよ。見つけたぜ。」

「お前ッ、”間引き”の……ッ!!」


現れた第三勢力”間引き”の騎士。

手に握っているのは、前に黒髪から金を奪った少年の首。血が滴っている。ついさっきまで生きていたのだろう。

一瞬で自分の不利を悟るガマ。

思考した後、逃げることを選択する。


「リーダーには怒られちまうが……しゃあねぇわな。」


そう言うと、すぐ横の道に逃げ込む。騎士に追う気は無さそうだ。追っても撒かれると考えているのだろう。何より、横たわったままの黒髪玩具がすぐそこにいる。


「ははは、見捨てられちゃった。さて、どう殺してやろうかな。」


グリグリと足で黒髪の頭を地面に押し付けながら、”間引き”の騎士は言う。


「決めた! 遊戯にしよう! 投石遊戯だ! ここに石があるだろう?俺の腕力なら、投げればお前の体に穴を空けられる。しかし俺はどうにも、投げるという動作が苦手でね……だから何投目でお前が死ぬか、自分の中で賭け事をすることにした! 面白いだろ!? 面白いって言えよ!!!おい!!!」


パンッ!と顔面を蹴り飛ばされる。


「まだ死ぬなよ?お前がいてくれるだけで、俺は気分がいいんだ!倍率の高い抽選を通って、ようやくで遊べるんだからな!しかもお前はガキ!殺せば金まで貰えるんだから、もう最高だよ!ははははははっ!!」


騎士は黒髪を引き摺り壁にもたれかけさせると、自分は少し離れたところに立つ。


「よし!じゃあ……1投目!!」


―――シャッ!!!


頬を掠める。皮膚は抉れ、血がダラダラと流れた。抉れた部分は痛くない。ただ熱い。


「う……うぅ”ぅぅぅ”ぅ……ッ!」


前のめりに倒れる。


「あっ!おいおい、倒れるなよ。的が小さくなるだろぉ?」


めんどくせぇな、と言いながら、騎士は近づいてくる。


「毎回倒れられたらダルいし……飽きたわ。殺そ。」


(考えておくんじゃな。遺言でも。)


思い出すのは老人の言葉。


「そんなもんねぇよ……」


「それじゃあ遊戯にならんじゃろ、小僧。」


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