1-2. 新鮮な

翌朝。

今の寝床であるゴミ箱から這い出た黒髪は、まだ薄暗い路地を探索する。

何か食べ物がないか探すのだ。

こういう早朝は、誰かが前日に食べた残骸が落ちてたりする。


「……お。」


そして見つけた。目線の先には果物の芯。

珍しく運がいい。ご馳走だ。

駆け寄って臭いを確かめる。


「まだ大丈夫だな。」


腹は強いが、万が一体調を崩すなんてことがあれば一気に死が近づく。どれだけ腹が減ってようと食料選びには慎重にならざるを得ないが、まだこれなら。


芯を手に取った。その途端。


「おいおい。どういうことだよ、ガキ。そいつは俺たちの食い物なんだけどな。」


ゾロゾロと、男達が現れた。


「…悪い。てっきり捨ててあるものかと。」


しくじった、旗色は悪い。いや、良い時などないが、今回は特にまずい。

いま目の前にいるのは、人殺しを躊躇わないグループの1つ”毒蛇”だ。ここら一帯を仕切っている。昨日の5人組とは訳が違う。

大人の実力者。


「はぁ?捨てるわけねぇだろ。どんな目してんだ? まだっ!身がっ!残ってんだろうがっ!!」

「……がっ!!?」


果物の芯の近くで立ち上がれずにいると、1人に顔面を蹴り飛ばされた。

多少は加減されていたようで、何とか普段の生活で身につけた受け身で生き延びたが、まともに食らっていれば即死だっただろう。

”頭”へのダメージが特にまずいのは、経験から学習済みだ。


「クヒヒヒヒヒ。お前くらいの歳頃が、一番うめぇんだよなァ……よーく叩いて、肉をほぐしておこう。」


「…く………そ……………。」


今更だが、嵌められたことに気がつく。

そりゃそうだ。あんなにな芯が落ちているはずがない。腹が減りすぎて頭がおかしくなっていた。

この歳まで生きてこれた、慎重さが欠けていた。から死んでいくことなんて、昔から知っていたのに。


袋叩きにあい、意識を保つことすらままならない状態の黒髪。その時だった。


「居たぞ!猿共だ!」


叫びが聞こえた。この街の人もどきにあるまじき、よく通る声。”間引き”の騎士だ。


 流石の”毒蛇”の面々も顔が強ばる。しかしその中で唯一、笑みを浮かべた者がいた。


「なんだァ? 今回は随分早かったな。数は三人……か? クヒ、クヒヒヒヒヒ。」


不気味な笑い声だが、少年とそう変わらない年齢の若い騎士達に怯む様子はない。”ヴェンの住人”という自分より下の存在を見ているのだから、当然だろう。

しかし、一方の”毒蛇”は。


「いやリーダー……不味いぜ。そいつら殺したら、もっとえれぇのが来る!そのガキ置いて、さっさと引きやしょう!」


及び腰だ。手を出せば、最終的に潰されるのは自分たちだと分かっている。彼らと戦うとは、一国と戦うのと同義なのだ。

黒髪は”国”のシステムなんて知らないが、彼らが強大な存在からの刺客であることは理解している。


「馬鹿野郎、誰がやり合うなんて言ったんだ。おいウリド!ヤツらのレベルは幾つだ!?」


「……一番右のやつが20であと2人は……すいやせん。見えやせんでした。」


「クヒッ、妨害持ちが2人もか。さーすが騎士様、豪華なもん持ってるねぇ?」


空気がひりつく。お互いが、お互いしか見ていない。


であれば、黒髪のやることは1つ。その隙を見て、騎士や”毒蛇”とは反対側に駆け出すことだ。上半身は麻痺してまともに動くこともできないが、脚は動く。


生き死にをかけた、全力疾走。

整備もされていない道を駆ける!


しかし”毒蛇”も”間引き”の騎士も、そんな子供を見逃すほど甘くはない。


「おっ!?……おいおいあのガキ。元気なもんだな。ガマ!追いかけてぶっ殺して来い!」


「ヴェンの子供か!バルメラ、ひっ捕らえて首を取れ!ボーナスが入るぞ!」


自分より遥か格上との、追いかけっこが始まった。



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