亡者祭典 -かつての弱者、スキル強奪者の逆襲-

宇佐部

1-1. 生き地獄

ネーデラル王国の外れ。クズが集まりそこらじゅうに死体が転がる街”ヴェン”。


掃き溜めのようなこの場所の中で今日も、1人の少年が懸命に生きていた。


「かはっ!」


「ははッ!やっぱりあるんじゃねぇかよ!」


 黒髪の少年が落とし、転がした銅貨2枚を、少し年上の5人組が拾う。通貨の概念はこの街でも辛うじて存在した。


 彼を含む6人で似通っている箇所は、全員が服とは言えないようなボロを纏っているということだけだ。黒髪だけは、そこに今できた怪我が加わる。


「今度からは、ちゃんと献上しろよ。」


黒髪の少年に唾を吐きかけると、5人組は一目散に走って立ち去る。あくまで彼らも狩られる側だからだ。


今のは子供の、ヴェンの中でも最下層の争い。暴力を扱うことに関して彼らより上は山ほどいる。


「はぁ、はぁ……くそ。」


唸る腹の音に気が付かぬフリをして、黒髪の少年はフラフラと歩く。


街から出ることは叶わない。人殺しが日常のこの街で育つ人間は、例外なく危険人物扱いだ。外に出すなど世界が許さない。

そうでなくとも外で暮らせるような金はない。


よその街のスラムより環境の悪い”街”こそが、ヴェンなのだ。


現にこの街は、内側からは出られないような巨大な壁に囲われていて、唯一の出入口には番人ばんにんがいる。

外の世界の”騎士”だそうだ。近づいたヴェンの住人を殺すのに躊躇いがない。


「はぁ……」

「かかっ、辛気臭い顔をしておるな。まーた他のガキ共に虐められたか?」

「……うるせぇ。まだ生きてたのか。」


声をかけてきたのは両足の無い老人。

1週間くらい前から黒髪の少年の移動拠点の近くに来て、やたらと話しかけてくる。


姿が姿だから、誰も狙わない。死体は臭うから、何も持ってなさそうな置物なんて態々わざわざ殺さないのだ。

水も浴びないのに臭いのしない妙な老人は話を続ける。


「今にも死にそうな顔をしているお主が、ワシの心配か? 笑わせるわい。」

「うるせぇ……いつも付き纏ってきやがって、鬱陶しいんだよ。はやく死ね。」


そう言いながら地面に座り込み体力を温存する。

自分で殺そうとしないのは勇気がないとか、気持ちの問題じゃない。


老人が頑丈すぎて、金属の棒で何度殴ろうがびくともしなかったのだ。だから殺すことは諦めて、衰弱死するのを待っている。


「仲間は作らんのか? 頭数がいた方が効率がいいぞ。」

「いらねぇよ。信用できねぇ。」

「かかっ! ………そうかそうか。」


この街には薄っぺらい関係しかない。さっきの5人組だって見る度にメンバーが入れ替わっている。”仲間”ではない。ピンチになれば個々で逃げ出し、一番足が遅いやつが犠牲になる。

今の自分が彼らに敵うとは思えないので、共に行動をすることはできない。


「ならどう生きるつもりじゃ? お前もそろそろされるかもしれんぞ?」


「……うるせぇ。」


”間引き”。街の外の連中が、定期的にヴェンにやって来ては適当に人を殺して帰っていく


今までは子供の小さな体躯を活かして逃れてきたが、これから先はそうもいかない。

まともな栄養を摂取していないぶん一般的な同年齢よりは小さいが、それでも多少は変化しているのだ。


この街を滅ぼすことが目的なのだろう。発展途上であり街の人口を増やす原因にもなる子供は優先的に狙われる。名無しの黒髪が殺されるのも時間の問題だ。


老人はやれやれ、と首を振ると

「考えておくんじゃな。遺言でも。」

と呟きまぶたを閉じた。寝たのだ。


老人は一日の大半を寝て過ごしている。


「……くそが。」


世界は厳しい。特に、持たざる者へは。

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