第9話 見送り隊選抜試験 後編

「そうなんだ、君……ごめん名前知らない」

「メンテです」

「メンテ!」

「よし、覚えた。兄弟ってことでいいのかな?」

「えっと、自分初めて聞きました」

「そうなの?っていうか思ってたよりクソ親父なんだけど」

「浮気しすぎだよな」


 ナサとノサの悪口が止まらない。イサは苦笑し、ユサはメンテとまだなにか話している。テサは、名前を庭の地面に書いて覚えている。


「こら、ダーリンはそこまで浮気性じゃないわよ。っていうか馴染みすぎだろお前ら。我が息子ながらどうした」

「衝撃的すぎた!」

「あ、そう……。で、彼はダーリンの子供じゃなくて、甥っ子ね。実はダーリンお兄さんがいたんだけど、城飛び出して、今はトレジャーハンターしているらしいわ。で、まだ城にいる間に侍女と作ったのが、そこの彼」

「母さんも結構切り替え早いよ」

「うるさいわね」

「というか、結構多いの?父さんの血縁者」

「そんなわけ無いでしょ。その時にひどい目に合って、女性恐怖症になったらしいわ」

「え……叔父上が?」

「そう。困った兄弟よね、ホント。女性が怖すぎて城から逃げ出したのよ?」

「似てるね、兄弟」

「私はあんたたちも似たようなものだと思うわ」

「ひどっ!息子だろ?」

「なによ、あんたらの構成要素ほぼダーリンじゃないの。ルサちゃんぐらいよ例外は」

「いやルサだってきっと父さんの血引いてるよ。だって男の子だもん」

「あのね……。男の子は王家以外にも生まれるのよ」

「あ、そっか。いやでも引いてるよ」

「まあ、そうでしょうね」

「うん。っていうか父さんだけってどういうことだよ!?何?侮辱?」

「いや、父親に向かってどういう言い草よ」

「母さんこそ自分の息子だろ!?」


 親子喧嘩は、たった今衝撃の事実を言い渡された衛兵をほったらかして白熱する。


(俺の父親、そんなにだめなのか)


 だいぶ衝撃的だった。話は聞いていたが、身内でこんな話になるレベルだったのだろうか。


「ごめんなさいね。じゃあ、明日、お披露目だからよろしく」

「えっ?」

「さあさあこちらへ。従兄弟なんだから仲良くしよう」

「え、あの、皇子様方!?」

「君は今日から衛兵改め文官見習いだ。頑張り給えよ」

「えっ……ちょっ、え……?」


 ♡♡♡


「はい、国民の皆さん!おはようございます!」

「え、あの、真っ昼間ですけど」

「「「「「「おはようございます!」」」」」」


 国民が元気に言った。もうお昼時である。


(大丈夫かこの国)


 国民に見えないように舞台の上を覗きながら、メンテは結構本気で案じた。


「みんなー、ルサの見送りがしたいかーーー!」

「「「「「「「「「「「おーーー!」」」」」」」」」」」


 その声は、エクスピリア帝国まで轟いたという……。


「よし!ならこれから出てくる3人の中から、ルサの血縁者を当てろ!」


 そうして、メンテは執事、文官Bと共に壇上に登った。


「では、これからここにいる三人に演説をしてもらう。それを聞いて、ルサの血縁者だと思った人に投票すること。声が似てるとか、ヒントは沢山あるので、注意して聞くように」


 この演説は、メンテが苦労して勝ち取った企画である。彼は頭を働かせ、この現状をどうにかしようと考えていた。


 先ずは執事が演説しだした。内容は総てルサ可愛いなので、カットする。次の文官Bも以下略である。


 じゃんけんで負けたメンテは大トリだ。緊張しながら前に出た。そう、右手と右足、左手と左足、両方同時に出してしまわないか不安で不安で仕方なかったのである。


「えー、皆さん。確かにルサ様は可愛い。可愛いですが、正気に戻ってください。国全体が一体感に包まれていること、これ自体が良くないとは言いません。支持率が高いのも悪いことではありません。ですが、真っ昼間におはようございますと言われて、そのまま返すのはどうなのでしょうか。皆さん、現実を見ましょう。こんなに大挙して帝国に押しかけたらどうなりますか?帝国を威圧することになるのは勿論、国内が空っぽになってしまいます。正気に戻って、健全に、ルサ様を愛しましょう。狂気を以て愛するのは、ルサ様にとってもよろしく無いと思います」


 その演説に、広場は静まり返った。


 その後投票が行われ、……国民のほぼ全てがメンテが肉親であるとした。


(何故こうなった!)


 頭を抱えるメンテの背中を、ポンと叩き慰めるものがあった。


「イサ様」

「こういう場所だから。色々メチャクチャなんだよ、この国。予想とか不可能だから。諦めよう」

「はい……」

「まあでも、そう気を落とすことはないよ」

「え?」

「君に投票しなかった人物もいるんだ。その人たちは、まともなんじゃないか?」

「なるほど……ん?」


 メンテの演説に賛成しなかった時点で、本当に大丈夫な人物なのだろうか。


 首を傾げつつ、イサが招集した、非メンテ派に会いに行った。


「おはようございます」

「……こんにちは」


 苦い顔をしつつ、しっかりこんにちはと訂正する3人の男女。知り合いではないっぽい。


「君たち、ルサを見送りたいか?」

「もちろんです!」


 そこは見送りたいらしい。なんかもう、国民全滅である。全員ルサの虜である。もうどうしようもないんだな、といい加減メンテは気づいた。


「そうか。しかし君たちは、国民の中で唯一彼、つまり正解を選ばなかった」

「え……ではやはり、この方がルサ様の肉親なのですか?」

「その通りだが」

「あの、一つだけ、無礼を承知で申しますが一つだけ、よろしいでしょうか?」

「なんだ?」

「まともな話ではあったんですが、最後の方にルサ様への思いがだだ漏れていました。あれでは多分、皆気づいたかと……」

「あ」


 メンテは思い返し、絶望した。自分すら、無自覚なうちにちょっとヤバいことを言っていた。


 もう何だ、あれだ。


「イサ様」

「ん?」

「ルサ様のためにも、見送り隊のメンバーは必要な国の重鎮と、帝国に隙を見せなさそうなこの3人と、兵士五百人くらいが妥当だと思います」

「うん。そうしようか」


 こうして、波乱の見送り隊選抜試験は、いかにも普通そうで、しかし実際のところ微妙な形に収まった。


 常識的に考えると、兵士五百人は多すぎるのである。

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