第8話 見送り隊選抜試験 前編

「喜んで!」


 ルサについて行ってくれないかと頼んだところ、ナサの知っているナイルからは想像もできないほどハイテンションに喜んだ。


「よろしくお願いします、ナイル」

「はい!」


 懐いていたらしく、ルサも喜んで承諾した。ちょっと悔しい。


「ですがそういえば、男性は連れて行けないそうですよ」

「女装します。名前はルイナにしようかと」


 ナサをして初耳の情報だが、どこからか掴んできたらしい。しかも女装までする気だ。


「見ての通り女性みたいな男なので、コルセットも問題ありません。叔母上、化粧教室に私も参加させてくれませんか」

「いいわよ」


 どこから掴んできたのか。まあ、いつものことなので気にしない。


「でも、あの弟がよく許したわね?大事な跡取り息子でしょうに」

「5年で帰ってこいと。ルサ様も連れて」

「ええ……どうするつもりなのよ」

「考えた結果、帝国を我が国と併合し、ルサ様には大公の奥様として帰ってきていただくことにしました」

「帝国を統合?つまり、私達があの国を飲み込むと?まためちゃくちゃ言うのね、弟は」

「僕自身の考えです」

「あらあ。ビビリなあなたが珍しく強気なことを言うのね?」

「皆さんも御存知でしょう。ルサ様は世界をひっくり返せる可愛さの持ち主です。ですがご安心ください、叔母上、ナサ。僕はこのルサ様応援団の中では、一番マトモだと思っています。小心者は相変わらずですので」


 謙虚アピールが過ぎる。普段はビビりすぎて、ほとんど何も話さないのが、このナイルという男なのだが。


「そうだ、ナイル。ヘアアレンジは得意ですか?」

「やったことはありませんが、できると思います。どうかなさいましたか?」

「僕の髪は長いじゃないですか。とても大変なんです。綺麗に、コンパクトにというのは可能でしょうか?」

「もちろんです」


 流石というべきか、ルサの可愛さパワーで殻を破ったナイルに、不可能はなかった。


 ♡♡♡


 国王から呼び出された翌日。衝撃冷めやらぬ中、帝国の王子たちは秘密会議を開いていた。


「で、どうする。事前にジャンケンでもして決めるか?まずは皆の忌憚ない意見を聞きたい」


 主催者である長兄、フィアスト王子が口火を切った。


「私は皆で話し合って、事前に後継者を決めるのがいいんじゃないかと思っています」


 話したのは次兄、セカント王子だ。平和主義の優しいお兄ちゃん&弟である。


「俺はお姫様の顔を見てからにしたいな。もしとんでもない不細工だったり、とんでもない気弱だったり、わがまま娘だったら嫌だし」


 想像して顔を顰めるのは、三男のシアド王子。モテるのだが、皆金髪な中、一人だけ茶髪なのがコンプレックスである。


「で、フォーセは?」

「僕は……お姫様の意見を聞くのがいいんじゃないかと思う。父上が仰った以上、多分僕らの中の誰が跡継ぎでも問題ない。なら、僕たちもそうだけど、遠方からはるばる一人でやってくるお姫様に、好きな相手と結婚させてあげるのがいいんじゃないかと」


(妹は別として)末っ子のフォーセ王子。読書家で物静かだが、話すのが嫌いなわけではなく、長文だって苦ではない。


「そう言う兄さんはどう思うのさ」


 シアド王子が尋ねた。


「やっぱり正攻法はいいのでは、と思っている。それなら姫の意志も尊重できるし、気に入った、あまり気に入らなかったで、こちらもさじ加減を変えられる。もちろん、内々で譲ったりしてもいい」


 しっかり者のフィアストは、メガネをくいっと上げて言った。


「なるほど……流石は父上。私も賛成です」

「僕も……それならいいですね」

「俺はまあ、問題はないよ」

「ではそうするか」


 方針が決定した。


 あとはもう、姫が来るのを待つばかりである。


 ♡♡♡


「なあ……流石にこれは不味くないか?」


 出立も近づいた日、皇子たちはルサに箔をつけようと、見送りをする民を募集した。


「ほぼ全国民だな」


 実は一度、婚姻決定パレードということで、ルサは公国内を回った。そもそもそこまで広くないので、1ヶ月くらいで終了したのだが……。


 ルサは、国内で爆発的な人気を誇るようになった。


「うーん、じゃあルサ愛してる度で図るか」

「どうやって?」

「ナイルに聞くとか」

「良いかもね!」


 こうして、皇子たちは総出でナイルに会いに行った。ところが、部屋はもぬけの殻。代わりに、置き手紙があった。



 巻き込まないでください。私は今忙しいので余裕もありませんし、人前に出たくありません。 ナイル



「……なるほど。つまりは、ナイルが人前に出れば解決する問題なわけだ」

「ほほう。じゃあそれを推理すればいい」


 知恵を絞った皇子たちは、一つの結論に達した。


「つまり、ルサの血縁者を見分けることができた者こそ、ルサ見送り隊にふさわしいというわけだな!」


 そのアイデアを聞いた王妃は本当にこれでいいのかと心底疑問に思ったものの、まあナイルが言うならと納得した。


 しかし、大問題がある。


「僕たちはすぐにバレちゃうから当然却下でしょ。それ以外でルサの血縁者、知ってる?」

「ルサ母」

「死んでるね」

「んー、父さん?」

「行方不明だね。顔バレしてるし」

「じゃあそれ以外か。……ねえ、父さん親戚いるの?」

「いるわよ」


 黙って話を聞いていた王妃が口を挟んだ。


「「「「居るの!?」」」」

「ええ。ほら、あそこに」


 そうして王妃は、名もなき衛兵を指さした。

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