第4話 これが皇子様のお仕事だ!

 ルサは王妃に任せ、皇子たちは会議室に集まった。


「私達はルサの願いを叶えるべく、かっこいいお兄ちゃんになろうと思う」


 皇太子という立場から司会を務めているにも関わらず、慰められるだけの普段とは違い、イサは堂々としている。十分にかっこいいだろう。


「何か、意見があるものは?…よし、ノサ」


 いつもはやる気のかけらもないのだが、今回ばかりは違う。ノサは自主的に手を挙げた。


「やはり皇子として、国政に関わることをすることが大切かと」

「やっぱそうだよね」


 満場一致で決定された。


「国政って言っても何をする?」

「そうだなあ。やっぱり、悪徳貴族の粛清でしょ」

「この機に乗じて普段の仕事を減らす腹黒いお兄ちゃん…これは良いな」

「うん」


 果たしてそれがルサに受けるかは疑問だが、しかし皇子たちはそれで納得したらしかった。


「じゃあ、情報収集だ。一時間後、またここに集まろう」


 短い会議だった。しかしそれが、このルーアン公国に所属する数多の貴族たちの命運を分けることになるのだ。


 ♡♡♡


 一時間後。


「バッチリだよ、イサ」

「よし」

「随分多いね。じゃあ、どの手で行く?」


 ナサの問いに、皇子たちが考える。


「まあ、手を汚さないのが一番良くない?」


 最初に発言したのはテサだ。テサはこれで、一番頭の回転が速い。全ての手をシュミレーションした上での発言だろう。


「了解。どこからやる?」

「小さな領地からだな。だんだん大きくなっていくほうが、かっこいいだろ?」


 イサの言葉に、皆頷く。優先すべきは、かっこよさだ。


 それに、小さいものから始まる方が、今回の作戦は効果が高かった。


 イサは、結構腹黒い。


「じゃあ作戦を開始しよう」 


 ♡♡♡


 皇子たちが立てた作戦は、簡単なものである。


 悪徳領主たちの悪い噂を、集めた証拠とともに領内で流す。ただそれだけだ。


 しかし、効果は絶大だった。

 ちょうど反乱を起こしそうな元気な若者たちに証拠をそれとなく掴ませ、反乱を起こさせる。


 そうすれば統治がなっていないということで、簡単に潰すことができるのだ。


 手を汚さないというのとは若干違うが、しかしやることは殆どない。しかも、領民としては悪い奴らを追い出してくれた英雄にもなれるのだ。


 もちろん、公国がこんな貴族を領主にするから!という方向に意見が進む可能性もあるが、それは貴族家を潰すときに謝ればいい。以後気をつける、とかなんとか、もっともらしいことを言えばなんとかなるだろう。


 言い方は悪いが、この時代において民と貴族とは月とスッポンも同然である。そんな貴族、しかも皇子が謝ったとなれば、民たちの怒りは収まるのである。


 そして、成果は確実に出ていた。


「ホクホクだね。さーて、ルサにアピールしてこよっと」

「あ、それは俺の役目だ!」


 …喧嘩で城を壊さなければ、誰が見てもかっこいいお兄ちゃんなのだが、しかしそれが彼らである。


 たっぷりと王妃にお仕置きされた。


「全く、せっかくいい教育になるんだから、品性の面でも手本になりなさい」


 ルサに悪影響が出る、とはっきり言われた皇子たちは、トボトボと図書室に向かった。


「ルサ?いるか?」


 一応ノックしてから入る。


「兄上たち!ちょっとまってくださいね」


 ルサは、ドアを開けて出迎えてくれた。可愛すぎて死にそう。


 とまあそれは別として、後ろで一つに結ばれた髪がほつれている。


「ルサ…。まさか、一昨日からずっとここにいるのか!?」


 最初のうちは余裕があり、ルサの様子をちょくちょく見に行っていた。


 しかし、反乱の報告が入るようになると忙しく、しばらく見に行っていなかった。


「実はそうなのです。本は面白いですね」


 ルサが可愛い…ではなく、ルサが心配だ。本が好きなのは大変結構だが、しかし体を壊すのは耐え難い。


「本が好きなのはいいことだが、根を詰めすぎるのは良くないぞ」

「すみません。今後はしっかり休みます。それで、今日はどうしたんですか?」


(あ、そうだった)


 ルサに夢中になりすぎて…ではなく、ルサが心配で忘れていた。


「ルサがかっこいいお兄ちゃんを見たいといっただろう?その経過報告さ」

「そんなこと言いましたか?」


 お兄ちゃんは死んだ。せっかく頑張ったのに…と、泣いている。


「冗談です。とても興味がありますよ」


 そう言って笑うルサは、天使だった。美の女神だった。美そのものだった。可愛かった。


「実はね」


 と、それはそれは得意げに語り始めた。その様子は話している内容のかっこよさを全てぶち壊していた。


 しかし、ルサにとってそれは全く関係ないらしい。


「とっっっっっってもかっこよかったです!僕もそんなふうになりたいです!」


 キラキラした目で兄たちを見つめた。


(今日だけで、何度死んだかな…。っていうか何回死ぬのかな…?ガクッ)


 ♡♡♡


 その日から、皇子たち全力の英才教育が始まった。ついでに、武術も学ばせている。


 全ては、ルサに悪い虫がつかない為…ではなく、ルサが望んだからだ。


 と、そんなある日。


「ねえ、面倒な手紙が来たよ」


 ユサが大きい声で言った。そのため、寝ていたノサも起こされてしまった。


「何?」

「イグノーベル領の領民からの意見書だ。他の領地の反乱を見て、俺らも、と思ったらしい。しかし、蜂起する勇気もなく、俺たちに意見書を送ってきたらしい」

「へえ。うわ、領主の弟主導?無視できないやつじゃん…。いやでも、ここ普通だよね?っていうか善政に近いよね?」

「コイツラにはそれがわからないらしい。税も軽くて娯楽の多い他所の領地と比べてる」

「うわあ。…いや待てよ、ここはかっこいいお兄ちゃんポイントでは?」

「なぬ?…おお、たしかに!」


 テンションが一気に跳ね上がった。


 反乱軍にお礼を言い出す始末だ。


「おっしゃー、いいとこ見せてやるぜ!」


 それをルサが見ることはないのだが、彼らはそれに気づかない。

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