第2話 状況整理
建物内に足を踏み入れた
繋いだリツの手が震えている事に気がついた旋は、彼女の顔を心配そうに覗き込む。
「大丈夫か?」
「たぶん、大丈夫っす……」
そう言った声も、微かに震えていた。リツはぎゅっと旋の手を握り返し、弱々しく笑う。そんな
「へへっ……旋にぃ、ありがと」
リツは照れくさそうに微笑みながら、目頭に溜まった涙を拭う。彼女は怖くて、涙をこぼしそうになったのではない。亡くなった人の事を想い、悲しくて泣きそうになったのだ。
旋が視界を遮ってくれたおかげで、焼かれて切られながら喰われる瞬間は見ていないが、断末魔と生々しい
簡単には現実を受け止めきれない状況だが、リツはなんとか気持ちを切り替えようと、深呼吸をする。
「無理はしなくていいからな?」
「うん、ありがと。……ねぇ、旋にぃ……これって、もしかしなくてもアレっすよね……?」
「あぁ……デスゲームってやつだろうな……」
映画や漫画の中だけの話だと思っていた事に、自分達が巻き込まれてしまったのだと改めて実感し、旋とリツはため息をつく。二人は手を繋いだまま、その場に座り込み、同時に天井を見上げた。
「やっぱりそうっすよね……おかしいと思ったんすよ。旋にぃはともかく、こんな裏でもなければ、アタシが
「いやいや、逆だって! リツは歌やギターの才能があるから分かるけど、なんで何もないジブンが? って不思議だったし……」
「いやいや、
そこまで会話してふと、こんな時に何を褒め合っているのだろうと冷静になり、二人は苦笑いを浮かべた。
「……流石にまだ、混乱してるんだろうな、ジブン達」
「そうっすね……他にもいろいろ思うところはあるっすけど、今はゲームのことだけを考えないと……」
優先すべきは、ゲームをクリアする事だ。そう判断した二人はまず、テンシが言っていた言葉を振り返る。
「確か
「うん。あと、『箱の中にいる契約相手と手を組め』とも言ってたっす」
「契約相手ってのはまぁ、箱を見つければ分かるとして……問題はその箱と鍵の
肝心な部分が全く分からず、旋とリツは同じタイミングで腕を組み、首を傾げた。ヒントすらなく、いきなり手詰まりになりかけている。しかし、不意にある疑問が浮かんだリツは、旋の方を見た。
「そういえば、旋にぃはどうしてこの建物に入ったんすか?」
「あ~……それがさ、ジブンでもよく分からなくて……勘? 的な……?」
「そうなんすか……」
わざわざ人の波に逆らい、更にはテンシが近くにいたこの建物に駆け込んだ理由が、旋自身も本気で分からないようだ。眉毛を八の字にして、頬を搔いている。
旋の返事を受け、リツは今いる部屋を見渡した。窓や扉の配置、天井と床……家具などが一切ないため分かりづらいが、どこかで見た事がある。そんな気がしたリツは、今いる建物の見た目や出入り口も思い返し、何かに気がつくとハッとして再び旋を見た。
「旋にぃ、ここって、保健室っぽくないっすか?」
リツの言葉に、旋は素早く部屋全体を見渡す。
「確かに……それに、この建物自体は昔の校舎っぽい見た目だったような……?」
旋の自信なさげな言葉に、リツは力強く頷く。
テンシに気を取られ、建物の全体像をしっかり把握できていないものの、校舎のような見た目はしていた。ノスタルジックなジオラマを作る際に写真で見た、一昔前の校舎とよく似ている。
旋は冷静にそこまで思い返せたところで、鍵の在処が閃く。
「なぁリツ……これもあくまで勘だけど、もしここが校舎とするなら、鍵は職員室にあるんじゃないか?」
「なるほど! 職員室の壁にたくさんかかってるイメージあるっすもんね!」
「うん。でも、ほんとにただの勘だから……」
「だとしても、とりあえず行ってみた方が良いと思うっす! 行動しないと、何も始まらないっすからね」
「確かにそうだな……よし! 行ってみるか」
このまま己の勘だけで、命懸けのゲームを進めてもいいものかと、旋は悩んだ。けれども、前向きなリツに背中を押され、職員室に向かう決心がついた。
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