外れの森の探索
俺とハルカナさんは、森に向けて駆けていた。
「外れの森ってのは、どういう所なんですか?」
「村の近くにある森なんだけどー、魔物の巣があるのよー。神父さんが追い返してくれた狼たちも、そこから来てるんだとおもうのー!」
午後からハルカナさんの弟たちが消えた。
彼女が賢明に探したが、村の中のどこにも居なかった。
護衛任務をしている時などは、村の他の大人たちが見てくれる。だが、基本的に村の子供たちは自由だ。
みんな魔物が危険なことは知っているから、外に出ていくような事はしない。しかし、今日に限って、村のどこを探しても影も形も見当たらないのだという。
「どうしよう、どうしようー、あの子たちが食べられてたらー!」
ほかの子供たちから、ハルカナさんの弟と妹――レオンとリーシャというらしいが、森の方へ向かうのを見たという証言が得られた。止めたけれど、ふらふらと村の外に出ていったと。
「あの子たち、なんで言いつけを破ったのー!? 行っちゃ駄目っていつも言っていたのにぃ!」
ハルカナさんの声に焦りがにじむ。
幼い子供が、魔物の巣に迷い込めば、どうなるかはだいたい決まっている。
「急ぎましょう。少し前に出ていったんならきっと間に合う」
指定 構築 実行 をワンアクション。
素早さを重点的に体を強化する。通常の活性化よりも極端な調整になるが、時として有用だ。今みたいに早く走りたい時とかな。
俺達の速度が一段上がった。
「ちょ、ちょっとまってなにこれー! 足が、足が止まらないけどー!?」
ぐんぐんとハルカナさんの走るスピードが上がる。強化された体がコントロールが追いつかなくなるのは、過剰強化のあるあるだ。
「もっと前傾姿勢で走って! このスピードで転ぶと大けがします!」
「そ、そんな無茶を言わないでぇぇぇぇぇええええ!?」
草原にあぜ道を作りながら、俺たちは森へと急いだ。
◆◆◆
「レオーン! リーシャー! どこー!? お願いだからでてきなさーい!」
森の周囲は静まりかえり、人の気配はどこにもなかった。
だが、何かおかしい。違和感がある。
外縁を散策すると違和感の正体はすぐに知れる。人の踏み荒らしたあとがそこら中にあるのだ。
「これは野営をした跡だ」
『誰かいたってこと?』
俺達の捜索を固唾をのんで聞いていたミトラが口をはさんだ。
「ああ。それも大人数。おそらく軍隊だと思う」
村長は、魔物の駆除隊はしばらく出ていないと言った。ならば、魔物の住む森に軍が何のために訪れたのだろうか?
「森の外にはいないみたいー。やっぱり中に入っちゃったのかもー……」
「中を探しましょう。村の周りはほかの人たちが探していますし、森で見つからなければ見つからないで一つ懸念が減る」
外れの森は魔物の巣になっていると聞く。軽々に入るのはリスクがあるが、人命第一だ。そして、あとは――
(クラリオン、そこにいるか?)
意識を向け、心で語りかけた。
『うん、いるよ。ボクの力が必要かな?』
(そっちから遠見で森の中を探してくれ。多分、ミトラだとうまく使えないんだろう?)
そ、そんなことないよ!? とミトラの抗議する声が聞こえたが黙殺する。
心配するわりに自分から何かしようとしない所から、自由に遠見を扱えないのだろう事はバレバレだ。
『ま、まだ操作に慣れてないんだってば!』
本当だろか。どうにもこの神は不器用のように思える。
くっくっく、とクラリオンも笑っている。おそらく図星だったのだろう。サポートをするというならミトラにももっと頑張ってもらわないとな。
『わかったよ。先行してぐるっと見てこよう。何かあったら伝えるよ』
(たのんだ)
それっきり、女神たちの声は聞こえなくなった。
◆◆◆
外れの森はそれほど大きくはないものの、人を迷わせるには十分な広さがあった。鬱蒼とした木々は日光をさえぎり、至る所に人の目の届かない影を作る。
膝近くまで伸びた草が足元を覆い隠す。繁みの中に何かが隠れていたら見つけるのは至難の業だろう。
「レオーン、リーシャー! どこー!?」
ハルカナさんは声を張り上げ子供たちに呼びかける。こっちから見つけられないのなら、出てきてもらうのが手っ取り早い。
しかし、こういうフィールドで騒ぐというのはだいたい敵の襲撃を招くことになる。――ほら、早速おでましだ。
「グルルルルルゥ……」
と、低く断続的な唸り声が四方から聞こえた。気配は複数。周囲からこちらをうかがっている。正確な数はわからないが一匹二匹という事はないだろう。
「ハルカナさん、グレイウルフです。行けますか」
「ん、大丈夫。私だって鍛えてるんだからねー!」
頼もしいことだ。知り合ってまだ間もないが、ハルカナさんは結構手練れだ。今でも、冒険者なり出来るくらいには槍の腕前がある。そんな人と一緒に戦うなら俺だって張り切ろうと思えるものだ。
指定・構築・実行
「あそこのしげみに、魔法を打ち込みます。飛び出してきた敵を各個撃破。背後を取られないように注意して」
「ん。いつでもいいよー」
指定 構築 実行
天罰魔法以外で数少ない攻撃用の術を撃ち込んだと同時に、数匹のウルフが飛び出してくる。咆哮とともに、周りからも狼が殺到する。
そうして俺たちの戦闘は始まった。
「とっ、はっ、やー!」
ハルカナさんの三段の突きが、的確に急所を捉え、グレイウルフを血だまりに沈ませる。
隣で、飛び掛かる狼の首を断ち切った俺は、返す刃でハルカナさんの側面を襲おうとしていた狼を切り伏せた。
「やー、神父さん、なにかなそれはー?」
ハルカナさんが目を丸くし見つめるのは、俺が握る光の刃のことだろう。大きさは大振りのナイフ程度だ。刀身だけでなく全体が淡く光っている。
「これは、護身用のペーパーナイフです」
答えながら迫る爪を弾く。
ペーパーナイフと言われ、ハルカナさんが、呆れた表情を見せる。
隙を見せた狼の腹に光のナイフを差し込む。血にまみれた腸をまき散らし狼が転がった。
「村の神父様はそんなの使ってなかったよー?」
まぁ、そうだろう。暁光聖教の神官は普通こんな技は使わない。
これは俺のオリジナル。その名も【光刃】という。俺の有り余るの魔力を手の先から放出、固定化し、刃と化す技術だ。
エリックにどうしても勝てなくて、試行錯誤する内に編み出した技で、バベル先生によると、魔法ではないが、魔力操作によって可能な技術であろうと言っていた。
俺は日常的に
「神聖魔法はですね、攻撃用の術が、とっても、少ないんですよ……っと!」
狼の牙を避けながらわき腹を蹴り飛ばした。ギャイン、なんて声を出して転がっていく。
指定 構築 実行
地に縛り付けられ動きを止めた狼に、光刃を投擲。わき腹に命中。確認後、固定化した魔力を一気に
突き刺さった光のナイフが小型の爆発を起こし、狼の胴体が吹き飛んだ。
「こんな感じで、戦闘の補助に使ってるんです。でも大した威力はでないんで、護身用のペーパーナイフって感じです」
「……やー、ふつう、僧侶が前衛しないよー。あと、それは大した威力っていうよー?」
そうだろうか。あのにっくきエリックはデコピンでこれぐらいの威力を出していたものだが。
「神父さんは、ほんと、変な神父さんだねー」
呆れたように、ハルカナさんはつぶやいた。
◆◆◆
狼たちの包囲を突破した俺たちは、追いすがる波状攻撃をしのぎながら森を駆ける。
『アダム、いいかい? 良いニュースだ。子供たちが見つかったよ。二人とも生きてる』
クラリオンからの連絡があったのはそんな時だ。
『悪いニュースもある。ちょっと強い魔物が子供たちの近くにいる。方向はそのまま50メテルス先の空間だ』
「わかった。助かる」
近くに魔物がいる。だが生きて見つかったのなら、十分だ。
「ハルカナさん、このまま正面、子供たちを見つけました! 突っ切りましょう」
「え、ほ、ほんとう!? よかったぁ!」
木々の切れ間から陽の光が見える。開けているのか。
俺たちは、駆け抜けた勢いのまま森の切れ間に出る。
そこで出会ったのは――
「グォオオォォオオオオォァァッッ!!」
体の芯まで響く大音声。立ち上がり威嚇する巨体。血走り睨みつける眼差し。腕の長さほどの長い爪を持つ、
大型の肉食魔物。グレイリーハウンドベアだった。
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