第4話

 列車が漸く動いた。七瀬は幕張駅で降りた。南口に降りた。京成幕張駅、千葉県企業局 幕張庁舎、千幕張駅前交番、花見川消防署幕張出張所、幕張コミュニティセンター、千葉市幕張公民館、放送大学などがある。旅番組の芸能人みたく宿探しをした。スマホの充電が10%しかないので焦った。『幕張・宿』で検索した。5件ある。『ポセイドン』ってホテルを調べてみた。ここから10分くらいだ。電話番号をメモしようとしたが、ペンもメモ帳も持っていなかった。電話番号を必死で暗記した。


 しばらくすると神社が現れた。秋葉神社だ。七瀬はスマホアプリ『魔界クエスト』で遊んでいた。神社などのパワースポットでは回復することが出来る。今は充電があまりないので出来ない。

 神社以外にも秋葉山として祠や寺院の中で祀られている場合もあるが、ほとんどの祭神は神仏習合の火防ひよけ・火伏せの神として広く信仰された秋葉大権現あきばだいごんげん(現在の遠州秋葉山秋葉山本宮秋葉神社と越後栃尾秋葉山の秋葉三尺坊大権現別当常安寺の二大霊山を起源とする)である。一般に秋葉大権現信仰は徳川綱吉の治世以降に全国に広まったとされているが、実際には各地の古くからの神仏信仰や火災・火除けに関する伝説と同化してしまうことが多く、その起源が定かであるものは少ない。


『ポセイドン』は神社のすぐ近くにあった。フロント係が倉木麻衣くらいまいに似ていたので驚いた。『Secret Of My Heart』は高校生の頃によく聴いた。

 部屋は407号室だ。カードキーを久慈くじというマイキー似の女性から受け取った。

 エレベーターで4階まで上がり、カードキーでドアのロックを解除した。緑色のランプがピッ!と、点滅して鍵が開いた。室内に入る。隅々まで清掃が行き届いている。

 ベッドサイドのラジオをつけた。

 ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンの『悲愴』が流れている。


 正確な作曲年は定められていないものの1798年から1799年にかけて書かれたものと考えられており、スケッチ帳には作品9の弦楽三重奏曲と並ぶ形で着想が書き留められている。楽譜は1799年にウィーンのエーダーから出版され、早くからベートーヴェンのパトロンであったカール・アロイス・フォン・リヒノフスキー侯爵へと献呈された。本作は作曲者のピアノソナタの中で初めて高く、永続的な人気を勝ち得た作品である。楽譜の売れ行きもよく、気鋭のピアニストとしてだけでなく作曲家としてのベートーヴェンの名声を高める重要な成功作となる。


『悲愴』という標題は初版譜の表紙に既に掲げられており、これがベートーヴェン自身の発案であったのか否かは定かではないものの、作曲者本人の了解の下に付されたものであろうと考えることができる。ベートーヴェンが自作に標題を与えることは珍しく、ピアノソナタの中では他に第26番『告別』があるのみとなっている。『悲愴』が意味するところに関する作曲者自身による解説は知られていない。標題についてパウル・ベッカーはそれまでの作品では垣間見られたに過ぎなかったベートーヴェンらしい性質が結晶化されたのであると解説を行っており、ヴィルヤム・ビーアントは「(標題は)気高い情熱の表出という美的な概念の内に解されるべきである」と説いている。


 ミュージカル・タイムズ誌に1924年に掲載された論説は、本作の主題にはベートーヴェンも称賛を惜しまなかったルイジ・ケルビーニが1797年に発表したオペラ『メデア』の主題と、非常に似通った部分があるとしている。他にも、同じくハ短調で本作と同様の楽章構成を持つヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトのピアノソナタ第14番の影響も取り沙汰される。とりわけ、第2楽章アダージョ・カンタービレの主題はモーツァルトの作品の第2楽章に見られるものと著しく類似している。また、未完に終わった交響曲第10番の冒頭主題が同主題に類似したものだったという研究成果が発表されている。グスタフ・ノッテボームは本作の終楽章が構想段階ではヴァイオリンとピアノのための楽曲であった可能性を指摘している。


 このピアノソナタはベートーヴェンの「ロメオとジュリエット」期の心境、すなわち「青春の哀傷感」を写し取ったものと表現される。描かれているのは後年の作品に現れる深遠な悲劇性とは異なる次元の哀切さであるが、そうした情感を音楽により伝達しようという明確な意識が確立されてきた様子を窺い知ることが出来る。劇的な曲調と美しい旋律は本作を初期ピアノソナタの最高峰たらしめ、今なお多くの人に親しまれている。


 イグナーツ・モシェレスは、1804年に図書館でこの作品を発見して写しを取って持ち帰ったところ、音楽教師から「もっと立派な手本を基にしてスタイルが出来上がるよりも先に、そんな奇矯な作品を弾いたり勉強してはならないと注意を受けた」と回想している。ベートーヴェン自身は持ち前のレガート奏法を駆使し、あたかもその場で創造されたものであるかのように弾いたとアントン・シンドラーは証言している。その様子は既によく知られていた本作と同じ曲が演奏されているのかと耳を疑うほどであったとされる。


 本作はピアノソナタ第14番(月光)、第23番(熱情)と合わせてベートーヴェンの三大ピアノソナタと呼ばれることもある。約100年後にロシアの作曲家ピョートル・チャイコフスキーが交響曲第6番『悲愴』を作曲しているが、その第1楽章にはこのピアノソナタの冒頭主題とよく似たモチーフが使用されている。

 

 七瀬は少年時代、ピアニストになろうとしていた。だが、父親の純生すみおがそれを許さなかった。純生はどことなくお笑い芸人の、ケンドーコバヤシに似ている。彼は自分が思い通りにならないと暴力を振るった。

 純生はアパート2階の四畳半和室に閉じこめ、連日虐待した。虐待は母の月子に行わせることもあった。去年の大晦日の未明、七瀬は隙を見て部屋の窓から路上に飛び降り脱出した。純生は鬼そのものだった。今から20年前、まだ祖父が社長時代だった頃、純生は当時は課長で出来の悪い社員を見つけては頭を殴ったりした。酷いときなんて蹴りを入れることもあった。


 夜中に凄い地震が起きて、七瀬は久慈の案内でホテルの外へ避難した。何やら狼の鳴き声のような音に誘われて、その奥にある古びた館の中へ入っていく。

 2人はそこで石棺を発見、中を見ると生きているかのような美しい美女が横たわっている。その時、突然大きな蝙蝠が飛び出してきた。驚いた七瀬は思わずピストルを発砲、その拍子に棺の上の十字架が倒れて棺ののぞき窓が割れ、七瀬は手を負傷、その血が棺の中の美女の唇に滴り落ちる。その瞬間、棺の中の美女が甦った。その美女こそ、500年前に処刑された沼子ぬまこであった。

 急いで逃げようとした2人は、屋敷の入口で沼子にそっくりの美女と出会う。彼女は沼子の末裔で冬美ふゆみと名乗る。沼子の死霊は冬美になりすまし、自分を処刑させた一族に次々と復讐していく。七瀬は冬美を沼子の魔手から助け出そうと立ち向かおうとしたところで夢から覚めた。

 ベッドサイドのデジタルアラームを見たら、01:32となっていた。怖い夢だったな〜。

 

 同じ頃、数馬も夢を見ていた。

 長野県軽井沢で楽しい休暇を過ごそうと、数馬、姉の冬美、恋人の夢月むづき、友人の弓弦ゆづると彼の恋人の瑠美るみら5人の若者たちは道中で森の小屋を訪れる。


 その地下室を物色していた弓弦は、偶然にも不思議な笛を見つけた。森に封じ込められていた悪霊を蘇らせてしまう曰くつきの笛だった。

 復活した悪霊の声に呼び寄せられて森に出た冬美は森の木々に襲われ、負傷して小屋へ逃げ戻ると、恐怖に怯えて強引に数馬に運転させ、車で山を降りようとするも途中の橋が崩落しており、やむなく小屋へ引き返す。突如、冬美が悪霊に憑依されて死霊と化し、夢月の足首をフォークで刺して負傷させる。


 弓弦は斧で反撃して冬美を地下室へ閉じ込めるが、瑠美も窓を破って侵入してきた悪霊に憑依されて死霊と化し、弓弦に襲いかかる。格闘の末、弓弦は昔、ネットで見た都市伝説を思い出した。悪霊に祟られた高校生が夜の学校で、自殺者の悪霊に追いかけられたとき、ナイフで心臓を刺したが死なず、眼球を突き刺したら倒すことが出来たのだ。瑠美の眼球をボールペンで突き刺したら、動かなくなった。弓弦は数馬と2人で瑠美を埋葬するが、自分は迂回路を探してでも帰ると数馬たちを置き去りにし、森に入ってしまう。


 小屋へ戻った数馬が眠っている夢月の様子を見に行くと、足首の傷から何かが広がり、彼女も死霊と化す。そこへ、森の木々に襲われて瀕死と化した弓弦が逃げ戻ってくる。夢月を小屋の外へ追い出した数馬は、弓弦を何とか励まして水を飲ませようとするが、彼は息絶えてしまう。


 一人残された数馬はナイフを持った夢月に襲いかかられ、彼女の背中にそのナイフを突き立てて倒すと、納屋に運んでチェーンソーで切断しようとするが、どうしても決心がつかずに外で埋葬する。まもなく、土の中から飛び出して襲いかかってきた夢月に対し、数馬はスコップで斬首する。


 小屋へ戻った数馬は、死霊と化した弓弦と冬美に襲いかかられ、弓弦に足を掴まれて動けなくなるが何者かの手によって射殺されてしまう。


 やがて夜明けが訪れ、静寂の中で数馬は小屋を出るが、彼の背後から何かが数馬に迫り、襲いかかるのだった。そこで夢が覚めた。

 ケータイの時計を見た。02:03

丑三つ時だ。この時刻は恐ろしいことが起きると昔から言われている。


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平安中将棋 鷹山トシキ @1982

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