第12話 スクランブルハンター


 ルクの意外な指摘に長老はバツが悪いと己を恥じ入るようだった。

 バキには詳細は伝わらないが、ルクがきっと意地悪な言い方をしただけだと思い、賢者は子供たちも同様に救ったの間違いだと付け足した。


「まぁ、そういうことにしておいても良いがな」

「まったく、コレは意地クソが悪くてスミマセンです」

「……隠すつもりでいたのですが、見抜かれてしまいました。ルクという名の魔導士には聞き覚えがあります……」


 バキがルクの躾をするようなセリフを長老に向けると、彼はルクの指摘が正論だと明かした。ルクの存在も知っていると、一言付け加えた。


「ルクを知ってるってどういうこと? ここに来るのは初なんだけど」

「はは……。面識はございませんよ。エクスダッシュの緊急討伐剣士スクランブルハンターのルク様のお名前に聞き覚えがあるという意味です」

「バキはせっかちで世情に疎いのじゃ。先に緊急討伐剣士スクランブルハンターだったのはわしじゃからの」

「そ、それではこちらの剣士様も隊員でいらっしゃいましたか」

「ヤダねぇ。これだから素人は。隊員はこのおっさんの方で、今は俺がリーダーです。お間違いなく」


 何故だか、苦笑いを見せる長老とルク。


「バキよ。目の前の長老、いくつに見える?」

「なによ藪から棒に。老人だから70は越えてるでしょ」

「若く言って頂いてうれしいです。若作りの甲斐がありました……実際は99歳になりますが」

「げっ!マジか。……若作りって、何の為に?」


 その問いに長老は、ニンマリと笑みを浮かべてバキに耳打ちをした。


「バキ様は、ピチピチギャルはお嫌いですかな」


 男だって若々しくいたい。その実はいつまでも美人にモテたいのだ。

 バキは、思わず顔を赤らめる。小さく「嫌いとは言っていない」と呟いた。

 長老なんて呼ばれる人は、もっと真面目なのだと勝手に思い込んだ自分を恥じたみたいだ。気持ちは察すると肯いた。


「わしは25でお前が18じゃな。歳の差、81の大先輩じゃな」

「く、口が悪くてゴメンなさい。人生の先輩さまっ!」


 ペコリと腰を90度にお辞儀をする。バキは長老に向かって即座に首を垂れる。


「いやいや、人生もそうじゃがの。老兵でおられるが、長老はクロニクルの元緊急討伐剣士スクランブルハンターなのじゃよ。──敬礼は正解じゃったのう」

「げげげええ──ぇっ!? マジで言ってんの? それ」


 驚いてお辞儀を解除して直立する、バキ。


「はは……。昔のことですが、ね」

「子供たちを守って戦っていたのは、この長老さんじゃよ」


 げげげ、と二度も驚嘆の声を上げそうになったが、さすがに格好悪いのでそれは押し殺したようだ。


「各国にいるとは聞いていたけど。こんな所で鉢合わせする……とは」

緊急討伐剣士スクランブルハンターとは、王下で結成が許された冒険者による最上級護衛部隊じゃからの」

「わ、わかっているさ。この方がそうだともっと早く言ってよぉ! もうルクってばぁ意地悪なんだからぁ」


 猫撫で声で甘えてみせるも、顔面は火を噴くほど真っ赤であった。


 クスクスと笑い声を堪えて、満面の笑みを浮かべる、ルクと長老。

 どの国家にも、王下直属の護衛部隊となる『緊急討伐剣士スクランブルハンター』が存在する。ルクがそこに先に所属していた。バキはルクとの出会いとその後の手柄でその座を勝ち取ったものと思われる。


「ところで、その賢者というのはお仲間なのですか?」


 異界の怪物を圧倒したという賢者の存在が気になった、バキが訊ねる。


「いいえ。私は引退して20年になります。その間、町で長老を務めておりましたので王宮にはそれ以来になりますが、あのような方のお顔は存じ上げませんで」

「──ということは。冒険者かな? 長老さんから見てどうでしたか彼の腕前は」


 バキが気になって止まないのが討伐の腕前のようだ。


「それはもう、かなりの猛者であるかと。雪の紋章の刺しゅうが施された煌びやかなライトブルーの武道着に身を包む、まだ青年でした。クリアブルーの涼しい眼差しをして、剣の鞘をギリギリと強く握り締め、苦渋の表情を浮かべて空の男を睨みつけて。それが印象に残っております」

「雪の紋章ってクロニクルのものではないのですか?」


 バキは素性が気になって訊ねた。


「バキよ、確かにここは雪原じゃが。クロニクルの紋章は蘇生の象徴であるウロボロスという竜だったはずじゃ」

「そうなの?」

「そうなのですが──。雪の紋章は確か……クロニクル以前の国家のものだったと記憶しています」

「かなり大昔のことじゃな」

「あの国は戦争でもなく、自然と滅んだはずですが……まぁどの道、私たちはその子孫になるはずですが」

「長老さんより長生きしている生き字引とか、いないのですか?」

「お前はアホだのぉ」

「なんで?」

「一番の長生きじゃから、長老じゃろうが」

「あ……」


 3人は仲良く苦笑いをした。

 さすがに子供らも笑みをこぼしていた。

 

 ルクが先ほど言ったように、この場での長話は精霊の恩恵の都合で不具合がある。

 そのことは長老も理解していたのだろう。


「ルク様、そろそろ外へ出て頂けますかな。子供たちの体調が心配なのです」

「おお、そうじゃった。では参ろうかの」


 長老に催促され、皆の身体をさらに小さくした。バキの肩に子供たちが乗り、ルクの肩に長老を乗せて大地のひび割れから脱出した。


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