2枚目(表) パレス

 トウマが自分のデッキを組んでから一夜が明けた。この日も変わらず学校へと向かう事には変わりないが普段とは確実に違った日常である事には変わりない。


『何をジロジロと』

「…昨日のアレは夢じゃないんだなぁと」


 登校しながら手元のカードと自身と並列する霊体を交互に見ながら独り言のように呟く。端から見ればかなり怪しい光景だろう。一人で呟きながら挙動不審な動きをしているのだから。だがトウマにだけは信じられないものが見えているのだから仕方ない。


 遡ること昨夜のこと。霊体は突然現れた。何かの見間違いかと思われたがどう見ても意思疎通が出来ており、一度睡眠を挟んでも平然と現れていた。一度消えたと思えても平然と再び現れる。


 そんな幽霊に取り憑かれながらトウマは学校へと到着し、時間と共に授業を受ける。授業の間にも常では無いが霊体は存在したが誰も其れについて言う事も無ければ騒ぎになる事もなかった。トウマは昨夜にその事を聞き出していたが本当だったのかと内心で驚いていた。


 そして昼休み。


「本当に何なんだよこのカード…」

『失礼なものだな。まるで呪物のように』


 昼になって周りは昼食へと移っていく中、トウマは授業の片付けはしても昼食を用意しないまま一枚のカードを出して悩んでいた。授業中もずっと気になっていたのだから仕方がないのかもしれないが。


「おい今日はどうしたんだ?授業中も余所見ばっかしてたじゃねえか珍しい」

「…ちょっと構築を考えはじめたんだよ」

「そういう風には見えなかったが……まあ其処まで打ち込んでくれたんなら良いことは無いな。さ、飯にしようぜ」


 ヒロが近くの椅子を借りて座り、買ってきたのだろう昼食を食べ始める。其れに釣られるようにカードを出していたトウマもようやく事前に買っていた昼食を食べ始める。


「…改めて見れば意外と居るんだな」

「何がだ?」

「GCしてるやつ」


 昼食を食べながら二人の視線は教室の中の生徒へと向けられている。流石に全員という訳ではないが、少なくとも一人二人はGCの話をしていたりカードをちらつかせていたりしている。今迄は興味の問題かあまり気付いてはいなかった。


「場所は限られてるから見なくて当然じゃないか?向こうに行けばそこそこ居るぞ」

「向こう?」

「ほらホールだよ。校長の趣味の一品」

「あー」


 この学園には少し変わった所がある。

 中高一貫校なので敷地は通常の高校よりも広く用意されており、その中には授業に関係の無い校長の方針で作られた物が存在している。この学園の校長はカードゲームに理解がある。それどころかカードゲームを交流の一要素として考えており、とある伝手の協力の下に其れ専用の場所を校内に作り出した。校舎では制限を掛けられているがその場所ではカード類は自由に出して良いとされている。その建物の造形が体育館等とは異なる事から生徒からはパレスなどと呼ばれている。


「専用の設備もあって派手なゲームが出来るから殆ど向こうに行くだろうし」

「行った事あるのか?」

「おう。噂通りすげえ設備でゲームが出来てさ。カードゲームっつうよりGCの為にあるって言っても過言じゃねえぐらいに」

「へえー」


 偶にそそくさと姿を消す事のあるヒロだが、どうやらパレスへと行っていたようだ。


「そういえば行った事無い」

「なら、これ食ったら行こうぜ。今でもやってる奴は居るだろうし」


 授業や休み時間の関係でパレスは昼休みから公開されている。後の授業もあって大抵は放課後に訪れる者が多いが、昼休みにも人は居ることは居る。


「いつか誘おうとは思ってたんだ丁度良い」

「お前がバトりたいだけだろ」


 そんな事を言いながらも二人は昼食を片付けてはデッキを持ってパレスの方へと向かった。


 パレスは学校に在籍していれば入る事ができ、学生証を使って建物内へと入る形となっている。二人はパレスの入り口のゲートで学生証を照らし入場許可を得て中へと入る。


「すげーだろ?」

「…雰囲気が学校とは思えないんだけども」


 トウマは口をあんぐりと開けながらパレス内部を見渡す。外見としては校舎との協調性を見せていたのだが中に入ってみれば校舎どころか教育機関という枠にもズレたような内装をしていた。中心に大きめの吹き抜けが用意されておりその周りに階層が連なっている。行われている事も加えて、控えめに言ってショッピングモール、派手めに言ってどこぞのカジノという雰囲気が生まれている。


「この異様に広い真ん中の空間は…?」

「真ん中に台があるだろ?此処で一番でかい設備さ。…今は整備中で使えないみたいだけど」


 パレスの中心には大きめのテーブルが置かれている。そのテーブルは催し用として設置されているもので、対戦に使われる事もある。ただ今は整備員であろう大人たちが囲んでいて生徒は近付けないようにされているが。


「上に行くぞ」


 階段を上がって二階に着くと其処には幾つものテーブルが用意されており、既に何人かが使用している。GCをしている卓は勿論のこと、大富豪やポーカー等トランプを用いている卓も存在する。トランプ等の定番類は貸し出しも行っているのでその影響もあるだろう。


「お、やってる」

「やけに人が居るな…」


 二人が向かった先にはGCの対戦を行っている卓があり、観戦とばかりに生徒が集まっていた。集まっている生徒には中高と入り交じっている所からも分かるように対戦をしているのは中等部と高等部のようである。

 邪魔にならないように対戦している卓から少し距離を空けている人混みに混じってその対戦へと近付く。すると飛び込んできた光景にトウマは驚く。


「アレどうなってるんだ?」

「まあCG的なアレだ」


 現在対戦している卓では通常のようにGCの対戦が行われている。だがその卓には使われるカードに対応した演出が小規模ながらも映し出されていた。ユニットの姿を映し出したり、ライフが映し出されたりと。


「あの卓、他とは違うのか?」

「アレはGC用のシステムが組み込まれてるとかでああいう演出が付くんだよ。あの中央のやつの前段階のな」


 生徒が利用できるテーブルは只のテーブルではなく幾らか手を加えている物が多い。そして前段階というように更に改良されたシステムが中央の設備には組み込まれている。設備の規模の違いから考えれば相当のものだろう。


 設備の話は程々にして二人は対戦の方へと意識を向けた。状況を見れば高校生の方が優勢だった。中学生も善戦してはいるが高校生の作戦に惑わされているような戦況だった。


「悪いが此れで終わりにしよう」

「ぐわっ!?」


 対戦は勢いを終始維持していた高校生の勝利で終わった。高校生は変にマウントを取る事も無く対戦した中学生に感想を述べている。其れが終わると観戦していた生徒たちから「次は自分」と群がられていた。


「おっと、俺らも一回ぐらいはしようぜ。一回ぐらいは試したいだろ?」

「そう急かすなよ」


 近くで話していたからか他の学生の視線が向けられていたが気にせずに近くの卓に移動してデッキを出す。ヒロはまたデッキを変えた。トウマも気紛れに別のカードをガーディアンとして対戦を始めると、対戦に気付いた野次馬が集まってきた。其れでも二人は気にせずに時間ギリギリまで対戦をした。


 昼休みの後の授業も何とか遅れずに済ませ、時間は放課後。トウマは再びパレスへと向かう事にした。ヒロも一応誘おうとはしたが用事があるとかでそそくさと帰宅したので一人で向かう。


「それにしても…」


 パレスの前までやってきたトウマはふと幽霊のカードを取り出す。午前授業でも遠慮なく現れていた割に昼頃から全く姿を現さなくなった。小言を言われないのは良い反面、出ないなら出ないで怪しく思っていた。


 そんな事を思いながらパレスの中へと入る。昼休みよりも使える時間が長いからかパレスの中の生徒の数は昼よりも多く見られる。そして昼には整備中だった中央の設備も今は稼働中のようで絶賛対戦中であった。


「ほぉ…此れが改良型か…」


 上の階からの視線も集めている中央の対戦は昼に見た前段階のシステムよりも派手なものだった。小さかったCGもそれぞれの大きさに映し出されていて迫力や臨場感を醸し出している。

 思わず入り口付近からずっとその対戦を見ていたトウマに生徒が近付く。


「其処に居ると通行の邪魔になるよ」

「あ、すいません」


 トウマは道を空ける流れでその相手を見た。するとその相手は昼に対戦をしていた高校生だった。注意を終えてそのまま進むのかと思われたがその高校生はトウマの様子を見ていた。


「君、昼にも居たね。アレを見るのは初めてかい」

「今日初めて此処に入ったもので」

「そうかい。なら使ってみるかい?」

「はい?」


 中央の設備には他に使いたがっている人も居る中、高校生はそんな事を訊いてきた。そして当然のように高校生は自身のデッキを取り出した。


「対戦だ。昼にしていたのだからデッキは持っているのだろう?」

「まあ有りますけど…」

「其れなら行こうか」


 拒否権など内容に話が進んでいく。

 二人は中央へと向かっていく。すると、あれよあれよと自分たちが設備を使えるようになった。


「君の本気を見せてくれ」


 何かを察したかのように互いに位置に付く前に高校生がそう言い放った。静かで荒い訳では無いけれど圧を感じる言葉。そして高校生は先に設備の片側へと向かった。残されたトウマも反対側へと移動し、デッキを見る。


 どれをどう使おうと遊びであり本気である事には変わらない。だけど高校生が言っているのはそうでは無いと直感ながら察したトウマは再びあのカードを取り出した。


「さあ、しようか」


 二人は静かに起動していく設備の台にデッキを置いて、メインとなるカードを選び取る。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る