1枚目(裏) トウマ VS ヒロ

 お互いの守護ガーディアンが決まった事により戦いは始まりへと進んでいく。


 互いに山札となるデッキの上から五枚を手札として取り、更に山札から十枚をライフとして山札の反対側に並べて置く。この十枚がプレイヤーの生命を表わしておりライフが全て無くなれば続行不能として敗北となる。


「おっし、先攻後攻は此れで決めるか」


 ヒロが自身のポケットから硬貨を取り出して其れを上へと弾く。「表が出れば自分だ」と言いながら硬貨を手の甲の上で止める。そして結果を知らす。硬貨が表を向いていた事でヒロは気合いを入れてカードを構えた。



トウマ

G 〈隻角の魔女グリア・ハート ティアメア〉

ライフ 10

手札 5

ロスト 0


ヒロ

G 〈森の調停者〉

ライフ 10

手札 5

ロスト 0



「そんじゃあ早速、〈マルピヨコ〉と〈虚勢のビッグ・マウス〉をコールだ!」


 このゲームではお互いに自身の番にユニットカードを展開する事が出来る。ユニットカードには位を表わすランクが記されており、プレイヤーは各ターンにランクの合計が三になるまで手札から任意で出す事が出来る。


〈マルピヨコ〉 

ユニット / Rank Ⅰ 

属性 〈自然族〉 

エナジー 1000 / 1 


〈虚勢のビッグ・マウス〉

ユニット / Rank Ⅰ

属性 〈自然族〉

エナジー 6000 / 3



「〈マルピヨコ〉の出た時能力を発動して1枚引くぞ」


 ユニットカードにはそれぞれ能力が記されており、それもまた戦況を変える一要素。


 ヒロは一枚引いてそのままターンを終わらせる。先攻の一ターン目は出来る事が限られている故に其処まで劇的な変化は起こらない。

 そして順番が変わってトウマのターン。先攻とは違って山札から一枚引いてのスタート。


「遠慮無く行くぞ。〈駆け出し冒険者〉、〈マルピヨコ〉、〈穢れた亡者〉の三枚を出す」


〈駆け出し冒険者〉 

ユニット / Rank Ⅰ 

属性 〈人族〉 

エナジー 2000 / 1


〈マルピヨコ〉

ユニット / Rank Ⅰ

属性 〈自然族〉

エナジー 1000 / 1


〈穢れた亡者〉

ユニット / Rank Ⅰ

属性 〈魔族〉

エナジー 1000 / 1



 トウマが出したのはヒロと同じ〈マルピヨコ〉を含む三体。〈駆け出し冒険者〉は〈マルピヨコ〉と同じように出た時に一枚引く事が出来る能力を持っている。其れによりトウマは二枚引き、三体出ているのに手札が開始時と同じ枚数となる。


「其れじゃあアタックフェイズだ」


 二ターン以降は相手を攻めるアタックフェイズが可能となる。アタックフェイズではスタンド状態縦向きのカードをレスト状態横向きにする事で相手ユニットもしくはプレイヤーを攻撃する事が出来る。しかし相手の場にスタンド状態縦向きのカードがある場合はプレイヤーを攻撃出来ない。動けるから邪魔出来るというイメージである。


「〈マルピヨコ〉で〈マルピヨコ〉を攻撃」


 ユニット同士の戦闘を行う場合、お互いのエナジーを参照するが、攻撃側は攻撃力として使い、防御側は体力として参照する。要は相手から自分をマイナスする引き算であり0になれば撃破となる。


「其れから〈駆け出し冒険者〉で〈虚勢のビッグ・マウス〉を攻撃だ」

「馬鹿めっ!今の数値では〈虚勢のビッグ・マウス〉は倒しきれない!」

「分かってて言ってない?」


 などと言いながらヒロは〈虚勢のビッグ・マウス〉を使い終わったカードを置くロストゾーンへと移動させる。撃破されたのである。

 〈虚勢のビッグ・マウス〉はランクに反した高い数値を持っているが肝心な時には本性が現れて大幅な弱体化が起こるのだ。トウマは何度も試運転を手伝わされているだけあって知っていた。


「〈穢れた亡者〉でプレイヤーへ」

「一点ぐらいくれてやらぁ」


 プレイヤーへの攻撃が通ってヒロは自分のライフゾーンのカード一枚をロストゾーンへと移動させる。残りライフは9。こうして全て無くなれば勝敗は決する。


「まだまだこっからだ」


 またターンが移ってヒロが山札から一枚引く。ある意味此処からが本番だろう。ヒロは再びユニットを展開する。


「〈群れなすウルフェン〉を出して能力を起動!――――――――外れかよ!」


 新しく出たユニットは山札を数枚確認してその中の仲間を呼び出す能力を持っている。しかし今回の確認では同名は見つからなかったようだ。だが其れでも次の一手が来る。


「其れならやり直しだ。此処で〈森の調停者〉のGSガーディアンスキルを起動する!〈群れなすウルフェン〉と同じランクの〈穢れた亡者〉をそれぞれの手札に戻す」


 ヒロが使用したのは守護ガーディアンとして指定したユニットの専用能力。ガーディアンの時しか使えない代わりに条件さえ満たしていれば序盤から使用出来るこのゲームの軸と言えるものである。

 ヒロはGSによって場のカードを手札に戻してもう一度〈群れなすウルフェン〉を呼び出し、能力を起動する。


「おっし、二枚目の〈群れなすウルフェン〉をコールして二枚目も能力を起動だ!」


 そして更に増える〈群れなすウルフェン〉。流石に三枚目の能力は失敗したものの一枚が三枚まで増殖して戦力が大幅に増える。更に追い打ちのようにもう一枚ユニットを呼び出してあっという間に四枚が並ぶ。


〈群れなすウルフェン〉

ユニット / Rank Ⅰ 

属性 〈自然族〉 

エナジー 2000 / 1 


〈群れなすウルフェン〉

ユニット / Rank Ⅰ

属性 〈自然族〉

エナジー 2000 / 1


〈群れなすウルフェン〉

ユニット / Rank Ⅰ 

属性 〈自然族〉 

エナジー 2000 / 1  


〈軍隊ハウンド〉

ユニット / Rank Ⅰ

属性 〈自然族〉

エナジー 2000 / 1



「さて一掃だ!」


 そう言ってヒロは攻撃を行う。トウマの場にスタンド状態のカードが存在しない事でプレイヤーへと攻撃出来るがヒロはユニットを優先して排除していく。ダメージよりも手数を減らす事を優先した手だ。

 そして残った二枚によってトウマのライフは二枚減らされる。


「さて、次はどう出るんだ?」

「どうだろうな」


 一枚引く。トウマの手札は潤沢にある。巻き返せる可能性は十分ある。


「そっちも使ったしこっちも使うか、〈隻角の魔女 ティアメア〉のGSを起動」

「来るか…!」

「ライフ一枚をロストゾーンへ」

「何!?」


 自分のライフをコストとする代わりに溜まったロストゾーンの中から一枚のカードが拾い上げられる。撃破された〈駆け出し冒険者〉が再び場に現れる。そして能力で更に手札が増える。


「こんなに有ったら流石に引くよな。〈グレムリン〉、〈突貫竜 バルジャス〉をコール」



〈グレムリン〉

ユニット / Rank Ⅰ

属性 〈魔族〉/

エナジー 3000 / 1


〈突貫竜 バルジャス〉

ユニット / Rank Ⅱ

属性 〈竜族〉

エナジー 4000 / 2



「更にエフェクトカード、〈ワイド・ショット〉を発動。〈軍隊ハウンド〉のエナジーを四千下げる」


 ユニットとは別の使い切りの効果を及ぼすサポート用カード。其れにより〈軍隊ハウンド〉のエナジーは0を下回り、ロストゾーンへと送られる。


「更にエフェクト〈亡者の行進〉。ロストゾーンからRankⅠユニットを二枚まで場に出す」


 ロストゾーンから更に〈マルピヨコ〉とライフから落ちたであろうユニットが場に増える。あっという間に戦況は逆転していた。



〈グリーディー・ハンド〉

ユニット / Rank Ⅰ

属性 〈魔族〉/

エナジー 1000 / 1



「おいおい、ホントに即興デッキか!?めちゃくちゃ回ってるじゃねえか」

「そうか?数は揃っても質は其処まで良くはないけどな」

「即興で其処まで回れば十分だろ!」


 召喚権は使い切ったとはいえ、ヒロのユニットは三枚、トウマのユニットは五枚に加えて手札も同じぐらい持っている。攻撃性の高い能力は少ないとはいえ展開力と手札のリカバリーは大いに発揮している。


「もしかして削りきれるか?」

「流石に無理。それじゃあアタックフェイズだ」


 トウマはダメージを優先して全てのユニットでプレイヤーを攻撃した。〈突貫竜 バルジャス〉が二点、他のユニットが一点ずつで合計六点のダメージ。其れによってヒロのライフカードは三枚となった。


 何とか首の皮一枚繋がったヒロは一枚引いて逆転の手を考える。


「これ下手に残したら負けるな…仕方ない。もっかいGSを起動だ!残ってる〈群れなすウルフェン〉一枚と〈グレムリン〉を手札に」


 中途半端な攻めも守りも出来ず、トウマの展開を上回らなければヒロに次のターンは回ってこない。其れを理解してヒロは何とか次に繋げようと動く。


「そして此処でガーディアンコール!〈森の調停者〉をユニットゾーンに!」



〈森の調停者〉

ユニット / Rank Ⅱ

属性 〈自然族〉/〈妖精〉

エナジー 4000 / 1



 ガーディアンユニットは召喚制限に関わりなく任意の状況で場に出す事が出来る。その場合使える能力はGSからユニット能力へと切り替わる。


「〈森の調停者〉の能力だ!相手ユニットの数が自分より多い時にライフ1枚をコストとする事で、相手は自分のユニットの数と同じになるように自身の場のユニットを手札に戻さなければならない!」


 その能力によりトウマは〈マルピヨコ〉を手札に戻す。

 何とかユニットの数は同じになったもののヒロの窮地には変わりない。


「こっちも〈ワイド・ショット〉だ!〈突貫竜 バルジャス〉を除去。でもってこいつをコールだ!」


 そうして呼び出されるのは大型ユニット。



〈森林のアース・ドラゴン〉

ユニット / Rank Ⅲ

属性 〈竜族〉/〈自然族〉

エナジー 7000 / 2



「アタックフェイズだ!二枚の〈群れなすウルフェン〉でユニットを攻撃」


 これによってトウマの場に展開されていたユニットは一枚残らず処理された。ヒロの場にはまだ数値の大きいユニットが二枚残っている。しかしヒロは攻撃しようとしない。


「此れでターンを終了だ!」


 どうやら守りとして残すようだ。確かに此処まででトウマが使ったユニットは大抵が数値の低いものが多く、二枚のユニットを越えることは出来ない。二枚をどうにかしなければプレイヤーへ攻撃は出来ない。しかし、ヒロは忘れている。


「ガーディアンコール」


 直前まで知らなかったカードの事を。


「〈隻角の魔女 ティアメア〉」


 ユニットとして場に出た件のカード。数値としては低く、〈群れなすウルフェン〉すら倒すのは難しい。だけど――――


「能力発動。相手ユニット1枚をロストゾーンに置く」

「は!?」


 対象として選ばれたのは当然ながら〈森林のアース・ドラゴン〉。高い壁として置いていたのだからヒロが驚くのも無理は無い。


「だ、だがまだ〈森の調停者〉があるし」

「そういえばさっき処理された〈グリーディー・ハンド〉の能力で」

「あ!」


 先程撃破された〈グリーディー・ハンド〉であるが、真価は落ちてからにある。何とロストゾーンから自身を取り除く事によって相手ユニット一枚を強制的にレスト状態に出来るのだ。こうしてヒロを守れるユニットは居なくなった。


「〈グレムリン〉をコール。プレイヤーに攻撃」

「あ」

「〈ティアメア〉で攻撃」

「あああああああ!」


 ヒロの最後のライフカードが取り除かれた。これにより勝敗は決した。







 カードバトルを終えて、二人は長居は店の邪魔だろうと販売店を後にして帰路に付いた。二人が別れるまでそう長くはないがその間の話は当然ながら先程の対決について。試運転という意味合いが強かったからかヒロは思った程悔しいという感じではないようだった。


「展開手段は悪くなかったんだけどなあ…ガーディアンを変えてまた試してみるか…?」

「そのガーディアンの能力合ってなかったな」

「てか、お前の!出てくるだけで問答無用で除去ってくるとかキツすぎるって!」

「一応条件はあるみたいだけども」

「其れでもヤバいって!」


 現在のGCのカードプールにも少なからず除去手段は存在する。だが大抵は数値に干渉して対処するものが多い。其れを思えば、状態や数値に関係無く除去する効果の異常性も分かるだろう。

 ちなみに、除去能力の条件はガーディアンとして出てきた時である。手札から出てきた場合では発動しないので、正真正銘の奥の手というところである。


「じゃあな」


 ヒロと別れてトウマは自身の家へと帰宅する。


 夕食も済ませて夜も更け、トウマは自身の部屋で寛ぐ。そのお供のように今日作ったばかりのデッキから一枚のカードを取り出す。


「〈隻角の魔女 ティアメア〉…」


 現在流通しているカードの中ではレアリティも然る事ながら能力も強力の部類に入ると言える。ヒロさえ物欲しそうにするぐらいだ。だからこそ何故このようなカードが送られてきたのかと謎が深まる。


『何か言いたげだな』

「!?」


 突如として声が掛けられる。しかし部屋の中にはトウマしか居らず部屋の扉を開けられた様子もなかった。だがトウマが部屋中を見渡すと視界に奇妙なものが移った。


「…!…!」

『不愉快な反応だ。何度見ようと変わらぬぞ』


 幻覚や幻聴の類いなどではなく部屋の中に 。正確には幽霊のように半透明な姿で浮かんでいるというのが正しいが、問題は其処では無い。


「なんだ此れはぁ!?」

『…どうやら本気で気付いていなかったようだな』


 現在時間を気にしないトウマの叫びが響く中、〈隻角の魔女 ティアメア〉が呆れたのような視線を返していたのをトウマは忘れないだろう。





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