ガーディアン・コントラクト

永遠の中級者

出会い編

1枚目(表) コンタクト

 時代は流れ、世間がデジタルに染まりつつある中でもアナログというものは消えずに残り続けている。例を挙げるならばカードだ。今ではデジタルゲームも珍しくない中でも実物を使うカードゲームはプレイにしろコレクションにしろ需要を保ち続けている。その証拠のようにとある街の一角の販売店にもカードを購入する者が居た。


「おっし!此れで揃ったな」

「これは運が良いのか、悪いのか」


 販売店ショップの中に用意されたフリースペースのベンチに座る中学生ぐらいの二人の少年。一人の少年――片羽トウマが友人で同級生の都築ヒロが購入したカードパックの中身を見てその引き運に言葉を漏らす。


「積みたいカードが揃ったんだから良い方だって。やっぱお前に選んで貰って助かるわ」

「レアカードは少ないって直前で言ったじゃん」

「ぐっ…、いや俺が言ったのは最高レアって事でレア自体は出てるんだよ…最高レアなんて幻みたいなもんだからさ…」

「言い訳みたいになってるぞ」


 二人の間に広げられているのは"ガーディアン・コントラクト"、通称GCと略されるカードゲームのカードだ。GCは一枚のカードを軸として相手とバトルするゲームであり一年程前から細々と数を増やしている。世界的ヒットという訳では無いが取り扱っている店舗は増えてきているようなので人気はあるのだろう。かく言うヒロも初期からのプレイヤーである。


「…お、此れ結構面白いんじゃね?」

「見せられてもイマイチ分からないんだけど…?」

「何度かデッキ貸したから性能ぐらいは分かるだろう?」


 ヒロに比べてトウマは其程GCに打ち込んでいると言う訳では無い。ヒロの相手をしたり今のように付き合ったりと理解は持ち合わせているが、自分のカードを持ってはいない。


「なあ、トウマも始めないか?良い息抜きになるぜ?」

「気が向いたらな」

「そう言って未だに自分のデッキ組まないだろ。今もショップに居るって言うのに」

「気が向いたらって言ってるだろ。さてとそろそろ帰るか」

「まだ大丈夫だろ……ってマジか、もうこんな時間かよ」


 学校からの帰りに寄ったという事もあり滞在時間が其程長くなくとも時間は良い頃合いとなっていた。二人は広げていたカードを回収して販売店を後にする。


「じゃあまた明日な。明日また回し頼むわ」


 そう言ってトウマはヒロと別れた。…ちなみにヒロが最後に言った回しは新カードを使ったデッキの試運転の手伝いと言う事である。トウマからすれば珍しくもない事である。


 別れてから少しして自宅へと到着する。普段と変わらず家の中に入ろうとするトウマだったが、ふと何かが何かが投函されている事に気付いた。


「…差出人は不明。なんだこれ?」


 其れは封筒だった。今時投函してくるのはチラシか勧誘ぐらいだと思われていた中での其れは表面には何も書かれておらず其れどころか切手すら貼られていない。正規の配達物とは違うものだ。


 封筒を振ってみると、封筒のサイズに対して小さいものが入っているのかカタカタと小さい音が鳴る。怪しいものであるが、自分の家に送られたものという事でトウマは警戒しながらも其れを持って家の中へと入っていった。


「さて、中身は何だ?」


 少々息抜きをした後、改めて静まりかえる自室の中でトウマは封筒と相対する。トウマはゆっくりと封筒を開く。封筒には糊付けすらされておらず開くのに何の苦戦も無い。封を解かれた中の物がテーブルの上へと滑り落ちる。


「これは…カードか?」


 先程まで見ていたのだから間違う筈はない。封筒から出てきたのは一枚のカードだった。其れも、描かれている絵柄がGCと全く同じ。紛う事なきGCのカードだ。


「何でカードが…其れも一枚だけ」


 トウマはそのカードを拾い上げてじっくり見る。

 GCのカードには種類があり、今トウマが見ているカードは共に戦う者を描いたユニットカードのようで、後ろ姿の人型が描かれている。


「…ん?」


 トウマがカードを見ていると、一瞬ではあるが目が合ったような気がした。すると突然目眩のような妙な感覚に襲われた。


「ん…疲れてんのかな…」


 直ぐに治ったとはいえ、学校帰りなので疲れていても不思議は無いと深くは考えず、少しの間横になることにした。気付けば寝ていたトウマはその後に残されたカードに気付く事はなかった。





 次の日。


 普段通りに学校に登校したトウマだったが、どういう訳か学校の中が普段と違うような気配を感じた。とはいえ何かが起こるという事はない。強いて言えば原因は昨日届いたカードだろう。トウマは未だに昨日の謎のカードについて考えていた。その証拠に持ってきているのだから。


「――っていう事が有ったんだけど」


 最後のHRホームルームを終えて雑談がてらヒロに昨日の出来事を説明した。「GCにそんなイベントでもあるのか?」という意味を込めて。しかしながらそんな突然なイベントは当然ながら存在しない。


「そのカードって持ってきてるのか?」

「あぁ」


 トウマは証拠を提示するようにそのカードを机の上に出した。するとヒロが喰い付くようにそのカードを拾い上げた。


「おい此れ、見た事も訊いた事もねえぞ…てか最高レアじゃねえか!」

「やっぱレアリティ高かったんだな」


 あまりの興奮ぶりに帰りかけていた他の生徒の視線がヒロに集まる中、当のヒロは気にした素振りも無い。幻とまで言っていた最高レアを持っているせいなのか。


「くれ!いや、交換しよう!!」


 勢いのままそう言うヒロに対してトウマは言葉ではなくカードを引き抜くという行動で返した。ヒロは「ちぇっ、ケチ」等と言っているが、トウマは自分の行動でありながら引き抜いた事に内心驚いていた。


 昨日届いただけで大した思い入れも特に無い筈なのにどうして取り返したのか。その理由を分からないままカードを確認する。


「(あれ…?)」


 トウマは気のせいかと思った。カードは間違いなく昨日と同じものだ。其れなのに絵柄が少し変わってるように思えたのだ。ずっと見ていても輝きは変わっても絵柄は変わらない。きっと目の錯覚だろう。


「そのカードどうするんだよ。手放す気は無いんだろー?」

「…まぁ」

「なら折角だからデッキ組めばいいじゃん。昨日言ってた気が向いた時には丁度良いんじゃねえか?」


 トウマは少し考えた。自身でも分からないがカードを手放す気にはなれない。このまま陽の目を見ないぐらいならいっその事初めて見るのも一つの道だろうと。


「そんで、相手しろ」

「本音が出た」


 深く考える事は止め、圧しに負けたとトウマは降参の意で両手を上げる。するとヒロはまずはデッキだなと立ち上がる。


「今日もショップに行くぞ。金はあるだろ?」

「少しぐらいなら」

「なら行こうぜ。足らなかったら適当にカード貸すからさ」


 そうと決まればと、二人は荷物を持って急いで学校からショップの方へと向かう。向かっている途中も話題はGCの事ばかり。主にヒロが昨日のカードを加えて組んだというデッキの話。試運転をするつもりらしい。


 そしてショップへと来た二人は中へと入ってGCのカードパックの並ぶ棚へ。GCは他のカードゲームと比べて新作パックの出るペースは遅いが、其れでも並んでいるパックは複数存在する。


「パック毎に入ってる割合に偏りが有ったりするから狙ったのを買った方が良いけど、お前の場合さっきの一枚だけだからな、色々有った方が良いだろ。何も考えずさらっと選べ!」

「…必要枚数ってどのくらいだっけ?」

「デッキに必要なのか五十枚程度だな」

「其れならまあまあ必要か」


 幸いにも所持金に問題は無い。トウマは直感でカードパックを選び取っていく。


「少し多めに買っておいた方が良いんじゃねえか?」


 そういう言葉を聞きながらカードパックを揃える。そしてそのまま会計を済ませて昨日と同じようにフリースペースへと移動する。


「そういや、いつも貸してたからデッキの組み方を知らないよな?」

「そうだな」


 カードパックを剥いでカードを出していく隣でヒロは重要な事の説明を始めた。


 ヒロ曰く、デッキを組む上で難しい事は特に無い。ただ、このゲームはデッキの中から一枚のカードを軸として選び出して始めるが、一枚を選ぶ際、そのカードと同じカード(二枚目以降)をデッキに入れてはいけないというルールが存在する。


「じゃあ此れをメインにすれば問題はない、と」

「其れもそうだな」


 そんな事を言いながらトウマはデッキの用意を整える。


 デッキの準備が整うとヒロがスペースを確保してから自身のデッキを取り出す。


「それじゃあ始めるか。"ガーディアンセレクト"!」


 GCにおいての大事な宣言が唱えられる。

 宣言と共にヒロが一枚のカードを表向きで出す。


「此奴が今回俺を守護するガーディアンだ」


 その宣言を経てヒロは何時でも始められるように準備を整える。後はトウマも其れに応えればゲームは開始される。

 トウマも組んだばかりのデッキから一枚のカードを取り出す。件のカードだ。そのカードを二人の間に置いて宣言する。


「"ガーディアンセレクト"…〈隻角の魔女グリア・ハート ティアメア〉」


 戦いに応えた事に反応するように件のカードが輝いていた。


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