2枚目(裏) トウマ VS 高校生
トウマ
G 〈
ライフ 10
手札 5
ロスト 0
取り除き 0
高校生
G 〈紅蓮の鼓動 バルハザード〉
ライフ 10
手札 5
ロスト 0
取り除き 0
お互いにガーディアンを指定するとシステムによってプレイヤーの後ろに輪郭や色調が半透明なユニットの姿を映し出される。トウマの後ろには黒い女性型の影が現れ、高校生の後ろには人間サイズだが人間らしくない特徴を持った亜人の影が現れる。サイズも合わさって前段階には無い演出である。
『…妙な気分だ』
「(其れでも喋れるんかい…)」
影であるにも関わらず私語を飛ばす〈ティアメア〉にトウマは周りを気にして心の中でツッコミを入れる。周りに聞こえているかは定かでは無いが、この状態の異様さが出ていた。対する高校生のガーディアンも似たような動作なので逆に正常かもしれない。
「お、今度はアイツがするのか?」
「普段とガーディアンが違くね?新デッキか?」
「相手は誰だ?」
大設備を使っているだけあって観客が次々に増えていく。高校生の方は此処では其れなりに有名なのか知られているような言葉が多い。対してトウマの方は想定通りと言うべきかガーディアンに注目が集まっていた。騒がれるのは当然と言えば当然であろう。
「…此処まで多いと視線が痛い」
『軟弱者』
「(うるせぇ)」
二人の準備が整うと、二人の間にコインの映像が表示される。そのコインにはお互いの位置を表現したカラーリングが施されており其れによって先攻後攻を決める仕様となっている。
コインが動き出す。そのコインは上へ下へと動き、結果を表示する。
「君からのようだ」
コインが表示したのはトウマだった。
トウマは慣れない設備に戸惑いながらもカードに手を掛ける。
「じゃあ、手札から〈マルピヨコ〉と〈呪いのスカル〉をコール」
呼び出すとユニットに応じた大きさで眼前に姿が現れる。
現れたのはどちらもエナジーが一〇〇〇のユニット。
トウマのデッキは初めて組んだ時よりも少しだけ改良されている。と言っても所持カードの都合で大きな変化は無いが、ガーディアン能力を意識してかデッキ内のランクの低いユニットの比率を上げている。
「一枚引いて、更に二枚目の〈マルピヨコ〉をコール」
二枚目の〈マルピヨコ〉の能力で更に一枚引いてトウマはターンを終了した。壁としての質は低いが数は揃えて次の相手のターンに備えた。それに対して相手は「成る程」と静かにカードを引く。
「さて、まずは面倒なものから崩していくか。〈強襲のワイバーン〉をコール」
〈強襲のワイバーン〉
ユニット / Rank Ⅱ
属性 〈竜族〉/
エナジー 4000 / 1
呼び出されたのは一頭の飛竜。その飛竜は出現と同時にトウマの方へと攻撃を開始した。
「〈強襲のワイバーン〉は場に出た時に相手ユニットのエナジーを二千削る事が出来る。〈呪いのスカル〉は退場してもらう」
突然の襲撃によって〈呪いのスカル〉のエナジーが削り取られて場から消滅する。〈呪いのスカル〉にはバトルで倒された時に山札を削る能力を持っているのだが、高校生にはそう簡単にはいかない。
「更に〈レッドオーブ・リザード〉をコールして、ユニットに総攻撃だ」
追加で呼び出されたユニットはエナジーが一〇〇〇と低いがトウマのユニットを削るには十分。二枚のユニットはそれぞれ〈マルピヨコ〉を撃破していく。
ターンが切り替わる。トウマはカードを引きながら考える。
「(多分相手は攻撃的なユニットが多い。其れなら下手にユニットを相手していてもキリが無い。其れならライフを優先するか?だけど其れだと―――)」
一ターン相手の動きを見て相手のデッキの方向性を考えるトウマ。
相手が使ってきたユニットはどれも〈竜族〉のカード。〈竜族〉には攻撃的なものが多い事から山札の中身を統一しているのならかなりのパワーを出す事が出来る。悠長に手数が揃うのを待つのは危険であるが、だからといって攻め急ぐのも危険。
「(…仕方ない。)
〈
暗い穴の中から〈呪いのスカル〉が不気味に姿を現す。
「〈悪魔執事〉と〈駆け出し冒険者〉をコールして二枚の能力によってお互いの山札の上から二枚をロストゾーンに置いて、俺は一枚引く」
〈悪魔執事〉
ユニット / Rank Ⅰ
属性 〈魔族〉
エナジー 3000 / 1
〈駆け出し冒険者〉
ユニット / Rank Ⅰ
属性 〈人族〉
エナジー 2000 / 1
「もう一枚〈悪魔執事〉を場に出してお互いに山札の上から二枚をロストゾーンに置く!」
「へぇ」
「バトル。〈悪魔執事〉と〈駆け出し冒険者〉で〈強襲のワイバーン〉を撃破する。そして二枚目の〈悪魔執事〉でプレイヤーに攻撃!」
此処で高校生のライフが減らされる。まだ一枚目という事で高校生に何の変化も無くコストの事も考えれば同点であるが、格上に先制点を与えたという事はトウマにとっては良い流れである。
「ドロー。蘇生に墓地肥やしに相手の山札を削る…〈魔族〉らしい動きだ。だけど気を付けた方が良い」
そう言いながら高校生は手札から三枚のカードを引き抜く。
「まずはエフェクト〈セメタリー・バック〉。自分または相手のロストゾーンからカード六枚までを山札の下に戻す。君のロストから六枚を戻そうか」
「なっ!?」
「次に〈瘴気のブラック・ドラゴン〉をコール」
〈瘴気のブラック・ドラゴン〉
ユニット / Rank Ⅲ
属性 〈竜族〉/〈魔族〉
エナジー 6000 / 2
「そしてエフェクト〈亡者の行進〉」
「!?」
「知っているか。其れなら早いな。その能力によって君が溜めてくれたロストゾーンからRankⅠユニット、二枚目の〈レッドオーブ・リザード〉と〈小竜の格闘戦士〉を場に出す」
自身の下準備と同時に相手の山札を削ったトウマの戦法を悉く裏返していく高校生。〈竜族〉だと思っていた中に混ぜられた〈魔族〉戦術によって相手の場に〈竜族〉が次々に増えていく。
「おっと、そういえば其れが居たな。ではエフェクト〈アーススリップ〉で〈呪いのスカル〉をレストする」
此れによりトウマを守るように動くユニットは居なくなった。
「ではプレイヤーに総攻撃五点だ」
動けないユニットを通り過ぎて次々に攻撃が畳み込まれる。殆ど減っていなかったライフもあっという間に半分に。それ以上の追い打ちは無いが次にもう一度同程度の連撃を浴びせられればトウマは負ける。
「ドロー!」
ユニットは健在。本来溜まっている筈のロストも大幅に減ったもののゼロではない。トウマは何とか逆転の手を考える。
「〈隻角の魔女 ティアメア〉のGSを起動して〈グレムリン〉を場に出す。そしてガーディアンコール」
『…やっとか』
背後で半透明な影だった姿が確かな姿を得て場へと歩み出す。その姿に外野では小さくない反響が生まれていた。主に「何だアレ!」といった反応が。
「その能力により相手ユニット1枚をロストゾーンに置く!対象は〈瘴気のブラック・ドラゴン〉だ!」
此れが通る事で相手の戦力は大幅に削がれる。だが高校生の表情に焦りは無い。それどころか一枚のカードに手を掛けた。
「タダでは済まないぞ。カウンターエフェクト〈クイック・パラライ〉」
「!?」
高校生が手札から使ったのは相手の特定行動に対応したエフェクトカード。種類はまだ少なく出回っている数も少ないが相手の手を狂わせるという事で強力なエフェクト。〈クイック・パラライ〉の能力は相手の場のユニットが[自動]能力を使用した時、そのユニットがスタンド状態ならレストする。
『チッ』
〈隻角の魔女 ティアメア〉に電気が奔るようなエフェクトが生じ、その膝を突いた。〈瘴気のブラック・ドラゴン〉を能力により処理したものの、〈隻角の魔女 ティアメア〉は攻撃に参加出来なくなった。
「其れなら…!
〈重魔竜 ゴルド〉をコール」
〈重魔竜 ゴルド〉
ユニット / Rank Ⅱ
属性 〈竜族〉
エナジー 5000 / 3
「ユニットを優先で攻撃する!」
〈グレムリン〉で〈小竜の格闘戦士〉を、二枚の〈悪魔執事〉で二枚の〈レッドオーブ・リザード〉を撃破。そして残った〈重魔竜 ゴルド〉でプレイヤーを攻撃。
相手から感じる底知れ無さから、決めきれないと思いトウマは相手の手数を優先して削った。そしてまだスタンド状態を二枚残したままであるがターンを終了した。
ターンの終わりに〈重魔竜 ゴルド〉はその能力によって維持コストを払わなければならないが、下手に減らせないと払わずにロストゾーンへと送られる。
相手のライフは六枚。手札は零枚。場にユニットは居ない。だけど安心は出来ない。周囲が見守る中、高校生は山札から一枚を引く。
「プレイングを間違えたな」
その言葉に周囲がざわついた。だが其れは負けを認めるものではなかった。
「二枚目だ。〈瘴気のブラック・ドラゴン〉をコール」
再び現れる漆黒のドラゴン。だがその姿からは先程とは違う圧を感じられる。
「〈瘴気のブラック・ドラゴン〉の能力を起動。ロストゾーンから八枚をリムーブだ!」
ロストゾーンにはトウマによって稼がれたカードが積もっている。黒きドラゴンはそれらをコストとして場に黒い空気を解き放った。其れによりトウマの場のユニットが次々に倒れていく。ユニット全てのエナジーを下げられたのだ。
「君に敬意を表し見せてあげよう。〈紅蓮の鼓動 バルハザード〉を前へ!」
ガーディアンコール。だが其れはトウマからすれば救いのない力。
「攻撃だ!」
黒きドラゴンの放つ攻撃がトウマのライフを奪っていく。
「トドメだ。行け〈バルハザード〉!」
『おおおおお!!』
容赦の無い一撃がトウマのライフを一つも残らず奪い去った。
◇
「この設備を使った気分はどうだい」
「…攻撃が心臓に悪い」
「慣れてないと確かにね」
ゲームが終わり高校生がトウマの方へと近付いてくる。対戦中の雰囲気は何処へやら、軽口が投げかけられる。戦った相手へのケアのようなものなのだろうか。
周りからはバトルの余波で盛り上がりを見せていたり次の対戦に詰めかけたりと動きを見せている。詰めかけるの中には対戦した二人に挑もうという者もいる。
二人は面倒事を避けるように設備から降りていく。
「出来れば君には止めないでほしい。君も運は良いみたいだからね」
他からの挑戦から逃げた先で高校生がそう言った。何が運は良いのかとトウマは疑問に思っていたが其れを問うよりも先に高校生は離れていった。一人残される。パレスの中はまだ盛り上がっている。
「…帰るか」
時間にまだ余裕はある。だけどトウマはどうにも対戦をする気にはなれなかった。そんな気持ちの中大人しく帰路に付く。
そしてその日の夜。
トウマは自室のベットに寝転がっていた。何かをする訳でもなくただボーっと。思う事が有るとすれば先程の対戦の事。其れも設備を使った迫力ある対戦ではなく対戦をした事による影響の事。
「そういえば、此れでこんな気持ちになるのも初めてか…」
トウマの中には確かに悔しさがあった。今迄は借り物のデッキで試運転に付き合っていただけだから何とも思わなかった。思ったとしても其れは動きの不備等が多い。だけど今回は手を加えた自分のデッキ。言わば自身の成果のようなもの。其れが負けたのだから何とも思わない訳はない。
「意外とハマってたのか…」
――出来れば君には止めないでほしい。君も運は良いみたいだからね――
「止めはしない…絶対見返してやる」
気を遣われたのが気に障ったというのもあれば、気になる事もある。それらをひっくるめてトウマはリベンジを決意した。まずはカードだなと思いながら眠りにつくことにした。
『あやつ…』
明かりの消えた部屋の中でぽつりと姿を現す〈ティアメア〉。先の対決の事を根に持っているのか機嫌はよろしくない様子。ゲームとなれば指揮するのはプレイヤーであるが其れでも負ければ屈辱はある。
『次はこうはいかん』
そう言い残して姿を消す。
暗い部屋の中、机の上に置かれたデッキが微かな光を放っていた。
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