第3章 冥界からのそよ風
第50話 フォーセインの街と新たなアクシデント
「あぁ、すまない。ちょっとお前たちに訊ねたいことがあったのだ」
フォーセインの入り口にて。
茶色の皮鎧を身に着けた衛兵の男が俺たちを引き留めた。
「お前たちがこの街に来た目的は、ダンジョンか?」
「えっと……はい。そうですけど」
嘘を吐く必要もないので、素直に答えた。
すると男は少し困ったように頭をガリガリと掻きながら、とんでもないことを言い放ったのだった。
「そうか。実は数日前、ここから少し離れたところにあるダンジョンで、大規模な崩落事故が発生したらしくてな」
「……えっ!?」
ダンジョンで崩落事故!? それって結構ヤバいんじゃないのか……!?
まさかまた魔人が何かやらかしたとかじゃないよな……。
「それで調査隊として派遣された三級ハンターたちが行方不明になっているんだ。おそらく、もう生きてはいないだろうと言われているんだが……」
三級ハンターと言えば、中堅から上級に差し掛かったあたりの腕前を持つ。
剣聖であるミレイユさん率いる『銀翼の天使団』は一級というとんでもない実力者たちだったが、三級でも十分に凄い。
俺たちもパルティアでハンターの登録はしておいたんだけど、まだ六級という底辺だ。
「見たところ、お前たちはまだ初心者だろう? だから下手にダンジョンに入らないよう、注意喚起をしていたんだ」
なるほど、そういうわけだったのか。
しかしまさか、そんな事態になっていたとはなぁ……。
「分かりました。気をつけます」
「うむ、そうしてくれ。では通っていいぞ」
街へ入ること自体にはなんの問題もないというので、俺たちは無事にフォーセインの街に入ることができた。
だがこれはかなりマズイ状況かもしれないぞ。なにせ俺たちの目的はダンジョン産のスクロールなのだから。
「……マリィ、アンジェ。今からでも引き返す?」
一応二人に訊いてみたが、返ってきた答えは意外なものだった。
「私たちが戦える階層で、レベルアップだけでもしておいた方が良いんじゃない? またいつ魔人が襲ってくるかわからないし、少しでも強くなっておいた方が良い気がする」
「アンジェも早く魔法を覚えたい……!」
二人ともやる気に満ち溢れているみたいだ。
仕方ない、こうなったら俺も腹を括ろう。それに俺にはマリィの体を取り戻すという目的があるのだから。
「分かった。じゃあ行こう!」
「でもその前に……!」
「ご飯が食べたい……!!」
ソ、ソウダッタネ……。
ぐぅ、と鳴るお腹を両手で抑えた女の子二人に強く訴えられ、俺は肯くことしかできなかった。
ということで、とりあえず食事処を探すことにした俺たちなのだった。
それから約二時間後、俺とマリィとアンジェの三人は、フォーセインの大通りを歩いていた。
昼食を食べ終え、まずは買い物へ向かうことになったのだ。
というのも、ダンジョンへ潜るにあたってまず必要になるものが幾つかあるらしい。
その一つとして挙げられたのが地図だ。
「フォーセインのダンジョンは地下に続く洞窟のようになっていて、とても入り組んでいるらしいね」
昼食を食べた街の定食屋で、隣のテーブルにいたハンターらしき人物にエールを奢ったら、気前よくいろいろと教えてくれたのだ。
なんでも彼は四級の先輩ハンターらしく、すでに何度もダンジョン探索をこなしているそうだ。
「地図があれば、迷わずに探索できるもんね。絶対に買わなくっちゃ!」
マリィもうんうんと頷く。
俺も初めから気付くべきだったのだが、ダンジョンのどこが自分たちに適した階層なのかを知るすべがなかった。
地図の階層分によっては高価になるそうだが、なるべくなら危険は避けるべきだ。
ちなみにその先輩の話では、ダンジョン内には罠が仕掛けられていることもあるらしい。察知できるスキルを持つ仲間がいれば良いが、残念ながら今の俺たちでは無理だ。
だからそういったものを避けるためにも地図は必須というわけだ。
そんなわけで俺たちは街の北側にあるという地図屋を目指す。
フォーセインの街は全体的に石造りの建物にあふれ、多くの人々が通りを行きかっていた。
もちろん、そこで生活している人たちが大半なのだが、どこか戦い慣れしているような顔ぶれを多く見かけた。ダンジョンで稼ぐためにやってくるハンターたちのようだ。
だけど一部の人は暗い顔をしていたり、逆に飲んだくれて陽気になっていた。やはりダンジョン崩落の影響がでているのだろうか。
「あった。あれが地図屋か」
そんなことを考えているうちに、目的の場所に到着したようだ。
他の建物と同じく石造りのお店で、前面の壁に大きく地図の絵が描かれている。入り口の前に置かれた看板にも、この国の言葉で『ヨーリの地図屋:ダンジョンの地図あります』とある。
「でもなんだか……」
「随分とお客さんが少ないね」
「ガラガラで店員も暇そう……」
両開きの入り口は大きく開かれた状態なのだが、店内に見える客はほとんどいなかった。
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