第49話 パルティアとの別れ
「えっ、それじゃあフェンさんたちはもうこの街から出て行っちゃうんですか!?」
「さ、寂しいですぅ~!!」
何度もお世話になった職業コミュニティセンターの受付嬢、モモ&グリン姉妹に別れを告げにいくと、二人は涙目になりながら俺の服の裾を掴んだ。いや、縋りついた。
「ま、まあね。元々ここには長居する予定じゃなかったからさ。それにモンスター素材の売却も無事に終わったし?」
というか、彼女たちは俺に懐きすぎだと思う。そこまで好かれる要素、あったかなぁ。
「ぐすん……だって、あんな大量に素材を持ってきてくれる都合の良い人なんて、フェンさんぐらいしかいないですよぉ……」
「私たち、あの一件で職セン内の評価が一気に爆上がりしたんですから!」
いや、それって君たちの都合じゃん。
たしかにモンスター素材のドロップ率増加というチート級アビリティを持っているのは、俺以外にはそこまで居ないとは思うけどさ。
「それに最近では魔人の動きが活発化したせいか、モンスターも強くなっているみたいで……」
「積極的にハンター活動をしようとする方が減ってしまっているんです」
あぁ、なるほど。自分の命を懸けて戦うんだ。
たしかに普通の危機感を持っていたら、様子見をしたくなるのは当然のことだろう。
「特にパルティア南部の方面には、ダンジョンのあるフォーセインの街があるのですが……」
「そのダンジョンも、最近じゃ高ランクの冒険者しか入れなくなっているみたいです」
「ダンジョンで取れるアイテムや素材の量が減ると、パルティアの商業まで影響が及ぶのです……」
うーん、そうなるとますます俺たちが出ていく理由になるよなぁ。
「それでなんですけど。もしよろしければ、フェンさんがダンジョン産のアイテムを大量にゲットして、このパルティアまで売りに来てくれませんか!?」
「お願いします! フェンさんのような優秀な人材が必要なんです!!」
「えぇー……」
「「報酬はもちろん、はずみますから!!」」
どうしよう。正直言って、かなり魅力的な提案ではあるんだけど……。
「二人はどう思う?」
少し返答に困ってしまった俺は、マリィとアンジェの二人にも
「良いんじゃない? フェンだって、ダンジョンで魔法を覚えられるスクロールが欲しいって言っていたし」
「アンジェはフェン様に従います……」
ふぅむ、二人とも賛成らしい。
「じゃあ、そうしようかな」
ということで俺たちはフォーセインにあるダンジョンへ赴くことになったのだった。
「うーん。こうしていざパルティアを離れるとなると、なんだか寂しいなぁ……」
南門を出たあと。フォーセインの街へと続く道を歩きながら、俺はそんなセリフを吐いた。
「私たちの村も無くなっちゃったしね……何だか第二の故郷って感じがするかも」
右隣を歩くマリィも若干うつむきながら、そう呟く。
たしかに滞在していたのは一週間程度だったけれど、いろんな人にも出会えた。
西門の門番長であるグリッジさんに、彼の妹で宿を貸してくれたラニさん。
守護神であるラキィ様や教会騎士団の人たち。そして職センや『銀翼の天使団』の面々。
本当にたくさんの人と仲良くなれたのはかけがえのない宝物だ。
一部の教会関係者はアンジェを敵視していたから、相変わらず嫌いだけど。
まぁそいつらはともかく、あの街に愛着が沸いてしまったのは事実だ。
「アンジェは……フェン様さえいれば、どこでもいいよ?」
「あ、うん。ありがとう?」
アンジェはパルティア出身だから本来の意味での故郷なんだけど、そこに郷愁の念は無いらしい。
まぁ、良い思い出なんて彼女には殆どないだろうしなぁ。
「でもあんまり悲観することもないか。無事にダンジョンでスクロールをゲットできたら、またここへ戻るだろうしな」
「そうよ。そうしたら次の目的地は魔法都市ミネルヴァでしょ? どっちにしろパルティアの東にあるみたいだし、また皆にも会えるわよ」
マリィにもそう励まされ、俺は少しだけ元気を取り戻すことができた。
よし、頑張ってダンジョン攻略をして、ついでに大量のモンスター素材を売り捌こうじゃないか!! そんな決意を固め、街道をひたすら歩き続ける俺たち。
そうして地道に旅を続け、一週間ほどが経った頃。前方に、巨大な建造物が見えてきた。
「あれがフォーセインの街か……」
「大きな壁ね。まるで城壁みたい」
「もしかして……この街が、ダンジョンの近くにある街……?」
「あぁ、そういうことだろうな」
たぶんダンジョンが街のすぐ傍にあるので、ああして高い外壁を作ってモンスターの侵入に備えているのだろう。
さて、早速フォーセインの街で情報収集といきたいところだけど、まずは腹ごしらえかな。
「よし、それじゃあさっそくフォーセインに入ろうぜ!」
「そうね。私もそろそろ、ちゃんとした料理が食べたいわ」
「お腹すいた……」
正直言って、俺たちはあんまり料理が上手じゃない。
村にいた頃は取り敢えずお腹が満たされればそれでいい、という考えだった。
しかしパルティアの店でちゃんとした料理を味わってしまった俺たちは、どうも舌が肥えてしまったらしい。
俺たちはそのままフォーセインの入り口へと向かい、検問所を通り抜けようとしたのだが――。
「――ん? お前たち、止まれ!」
そこでなぜか、俺たちは衛兵に引き止められてしまうのであった。
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