第46話 錬金術師になりたい女の子
「えっと、つまりグリンちゃんは、錬金術師の人から依頼されて用意したモンスター素材を、ミスでダメにしちゃったってこと?」
「ひゃい……」
職業コミュニティセンター利用者用の個室で、グリンちゃんは椅子の上でエグエグと涙を流しながら頷いた。
しかしなぁ、こっちも収納ポーチの情報を得ようと職センへとやってきただけなんだが。
それでいきなりグリンちゃんに泣きつかれてしまったし、俺の膝上に座るマリィも思わず苦笑いを浮かべている。
「その人がメチャクチャ怖いとか、違約金を払えっていうのなら、ある程度は職センが職員を守ってくれるんですけれど……」
「事情が違うってこと?」
「はい……実はその錬金術師の方は私たち姉妹の友人でもありまして……」
グリンちゃんはそう言うと、グシグシと涙を拭いながら話を続けた。
「その人はアリューちゃんって言うんですけどね。先代から継いだ、パルティアでも歴史ある錬金術のお店を経営している子でして。だけどジョブがちょっと普通の錬金術師とは違っていて……」
「なんだろう、親近感を覚えるな」
《すみませんね。でもそろそろフェンさんも慣れてください》
脳内でルミナ様が少しだけ嫌味な声で答えた。最近、ずっと出番が無かったせいか若干拗ね気味なのだ。
いやでも、神様と会話できる方が異常だとは思うんだけどなぁ。
それに【童貞】なんてジョブを貰ってしまった男の気持ちも理解してくれ。
「アリューちゃんはなんと【調理人】なのに、錬金術をしているんです! しかも料理までとっても美味しいんです!」
「……それってもしかして、かなりすごい人なんじゃ?」
「そうです! 私のモモお姉ちゃんは大ファンでもあるので、とても仲が良いんです!たぶん料理の腕なら、このパルティアで一番だと思いますよ!」
自信満々に答えるグリンちゃんだったが、俺が「それならむしろ、料理店を開いた方がお金を稼げるのでは……?」と尋ねると、大きな溜息を吐いて俯いてしまった。
「私たちはそれでも良いと思ったんですが、あの子ったら凄い頑固者でして……『アタシは絶対に錬金術師として生きていく!』と言ってきかないんですよ」
そのアリューさんいわく、『神様がくれたのはあくまでもジョブという名の祝福であって、その人の人生を決めるためじゃない』だそうで。
与えらえれた職業ではなく、生き方は自分で決めなければ駄目だからと、錬金術の店を辞める気はまったくないのだとか。
《凄いですね、その子。私、感動しました。アリューさんほど神の意志を理解している人間は大変珍しいですよ》
俺の脳内でルミナ様は嬉しそうにそう語る。
というか、神様はソレで良いんだ? てっきり怒るのかと思ったけど。
正直俺もアリューさんと同じ意見で、勇者になれなくてもマリィを守れるようになりたいという夢があったぐらいだし。
……まぁそれはともかく、話を戻そうか。
要するに、グリンちゃんと友人であるアリューさんは、お互いの立場を尊重し合い、これまで上手く付き合っていたそうだが、今回ばかりはどうしても譲れない部分があるらしく、それで揉めているそうだ。
「お店の経営の方は正直言って、あまり上手くいってませんでした。そりゃあ錬金術向きではないジョブなので、良い商品もできずにお客さんも段々と減っていってしまって」
まぁ調理師なんてジョブなのに、錬金術をやろうとしているのだから、上手くいくはずがない。
むしろ失敗作でも商品が出来たことの方が凄いと思う。
「……それが、グリンちゃんのミスとどう繋がるの?」
それまで静かに聞いていたマリィが首を傾げた。
「実は……最後の命運をかけて、収納ポーチの開発をしようって話になって。だけど私がミスをして、必要な素材とは違う物を発注してしまって……」
「ああ、だからそのミスを取り返したいってわけか」
「はい。幸いにもこのパルティア近くのモンスターのドロップ品があれば事足りるので……そうすればきっと、アリューちゃんも私を許してくれると思うんです……! あと、そろそろ職センでの私の評価が最底辺になって本当にクビになっちゃうので……」
セリフの後半は消え入りそうな小声だったが……正直、この子が俺に助けを求めた理由のほとんどがそっちなんじゃないのか!?
――だが、仕方がないか。
「分かった。そういうことなら、俺もアリューさんたちに協力するよ」
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