第45話 嫉妬の尽きないふたり
無事に武器と防具、そして旅に必要な道具たちを買い集めることができた。
だが問題は道中における、荷物の運搬である。
「最初は俺とマリィの二人旅だったけど、アンジェも増えたことだし、必要な物は増えるよなぁ」
購入した装備は金属の剣や防具も革製などなので、中々の重量がある。
いくら俺が剛力のアビリティと収納ポーチがあるからと言っても、必要な飲食物や衣服が増えるので、どうしても収納できる何かが欲しいのだ。
「どうする、フェン。どこかで新しい収納ポーチを買ってみる?」
商業区の大通りで俺の腕の中にいるマリィが見上げながらそんなことを聞いてきた。
ちなみに今の彼女はいつものワンピースではなく、何故かメイド服姿となっている。つまりは猫耳メイド人形である。
アンジェの服を購入した際にマリィも自分の服が欲しいと言って選んだらしいのだが……。
「(うん、控えめに言って超可愛い。今すぐこのモフモフの猫耳を撫でて愛でたいぐらいだ)」
そう心の中で思いつつも口に出さずに我慢したのは言うまでもない。
まぁそんな訳で、今の彼女は俺に抱っこされている状態なのだが、左側を歩く白のワンピース姿のアンジェが頬っぺたを膨らませながら、俺の腕をギュッと握りしめた。
「……むぅ。アンジェもメイド服着る……」
「いや、アンジェはその服が似合ってるし、そのままの恰好の方が白髪のアンジェにも合うと思うよ?」
「そ、そうだよ。私はその服装のアンジェちゃんも可愛くて好きだよ?」
慌ててフォローする俺とマリィだったが、当の本人は納得していないようでぷっくりと頬を膨らませたままだ。
「ほら、それよりもさ! せっかくだし美味しいものでも食べながら収納ポーチを探そうよ? ねっ?」
「そ、そうだなマリィ! ほら、アンジェも食べたことないものが、いろんな屋台でやっているぞ?」
「……ほんと?」
そう言うとようやく機嫌を取り戻してくれたのか、こちらを振り向いて上目遣いに見つめてきた。俺は彼女の頭を優しく撫でつつ笑顔で頷く。すると嬉しそうに微笑むのだった。
そんなやり取りをしながら、俺たちは大通り沿いにある屋台を覗いていく。
残念ながら魔人襲来の事件があったせいで豊穣祭そのものは終わってしまっていたが、それでも多くの人たちが楽しそうに買い物をしている姿が目に入る。中には昼間だというのに酒を飲んで騒いでいる人もいた。
その人物が片手に持っている串焼きはとても美味しそうだ。
「よし、俺たちもアレにするか――」
そうして食べ歩きをしながら、俺たちはめぼしい道具屋を探し回る。だが収納ポーチというのは旅人必須アイテムで、どこも品切れだった。
「うーん、金の問題もあるしなぁ」
アンジェを救う為に手に入れてあった五千万G(ゴッド)。そのうち九割近くはパルティアに寄付をしてしまっていた。
というのも、ただの慈善や偽善ではない。アンジェという魔人となってしまった彼女が、街の復興に手を貸し、少しでも許されてほしかったんだ。
もちろん金を出したのは俺だし、それでアンジェが許されるとも思っていない。でもやらないよりは良いと、俺はそう思った。
「残り五百万Gかぁ……しかも装備とかを買った分を引くと五十万……」
「ちょ、ちょっと心許ないよね……」
「ごめんなさい……二人とも……アンジェのせいで……」
そう言ってしょんぼりと肩を落とす彼女。しかしすぐにマリィが頭を振って笑顔を浮かべた。
「ううん、大丈夫。お金なんて、私たちでまた稼げばいいんだから!」
「ああ、そうだな。俺たちが協力すればなんとかなるさ。それにそれが仲間ってモンだろう?」
「仲間……アンジェのはじめて……うれしい」
瞳を潤ませて見つめてくる彼女に思わずドキッとしてしまう俺だったが、それを誤魔化すように咳ばらいをする。そして改めて今後の予定について考え始めた。
「そうそう、それに私たちにはフェンがいるからね」
「たしかに。フェン様なら……きっとなんとかしてくれる……」
「え……?」
きょとんとした顔で二人を見つめるも、返ってくるのは笑顔だけだ。
どうやら俺に期待しているらしい。というか、俺がいればどうにかなるみたいな言い方だが、実際はそんなに万能じゃないんだけどな……。
◇
結局その日は何も買わずに宿へと戻った。
明日こそは絶対に収納ポーチを手に入れてやると意気込みながら――。
翌朝。早速朝食を済ませると、俺たちは南の商業区ではなく、東にある職業コミュニティセンターへと足を運んだ。
もしかしたら、あの姉妹が有用な情報を知っているかもしれないからだ。
「あのー、すみません。総合受付課のグリンさんって、こちらにいらっしゃいますでしょうか」
もはや何度も訪れている場所なので、建物内部の構造やそれぞれの課について分かってきた。
まずは困ったときに助けてくれる総合受付課に向かい、受付の男性に声を掛けたのだが……。
「あぁ、グリンなら今ちょうど他の利用者が――」
「ああああああっぁっ!! フェンさんんん!!!!」
――え?
受付の男性が最後までセリフを告げる前に、背後から聞き覚えのあるグリンちゃんの声が聞こえた。しかも切羽詰まったような涙声だ。
実際振り返ってみると、すでに目尻に大粒の涙をたたえたグリンちゃんが俺にしがみ付いてきた。
――な、何事なんだ?
「助けてください! 私、このままじゃクビになっちゃうんですうぅう!!!!」
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