第44話 女子二人とのお買い物デート
「そういうことで。今日はアンジェちゃんと私たちの装備を買おうと思います」
朝陽が昇ってからすぐ、俺は鼻息を荒く興奮したマリィにたたき起こされた。
「……フェン様とお出かけ……アンジェ嬉しい……」
腰まで伸びた白い長髪をなびかせながら、アンジェリカあらためアンジェは俺の左手を握りながら嬉しそうに隣を歩いている。
ちなみにマリィは相変わらず俺の右腕の中に収まっている。
まだ早朝で人がまばらだとは言え、豊穣祭の余韻もあって人の数はそれなりに多い。
一方俺の格好はいつもと変わらない軽装であり、一応腰に木製のショートソードを下げてはいるが、防具の類は簡単な物しか身に着けていない。
理由は簡単で、魔人ベルフェゴールとの戦闘でほとんど破壊されてしまtったからだ。
「取り合えず、西区に向かおうか。みんなに紹介してもらったってこともあるし」
本来ならば商業区である南や、多くのジョブ持ちがひしめく西の方が武具を扱った店が多いのだが――。
『ふむ。これからパルティアを出て旅をするのならば、私がオススメの職人を紹介してやろう』
と【剣聖】のミレイユさんが言い出し、それに対し教会騎士団の団長であるエルフリーダさんが対抗するかのように、
『いやいや。騎士団員も御用達である防具屋に紹介状を書いてやるぞ? なにせ可愛い二人と、パルティアを守った英雄のためだしな』
と返したのだ。……若干、エルフリーダさんは俺に対して冷たい気はするが、それでも二人の好意はありがたい。
なので俺たちはひとまず職人の多い東区へと向かうことになったのだった。
「フェン様……アンジェのお洋服選んでくれる?」
アンジェが俺の顔を覗き込みながら尋ねてきた。彼女のその紫色をした瞳には、期待するような感情が映っていた。
「ああ、もちろんだよ。せっかくだからとびっきり可愛いやつを選んであげようかな?」
俺がそう答えると、彼女は嬉しそうな表情をしてぎゅっと腕にしがみついてくる。
ずっと外に出られず、何の楽しみも与えられてこなかったアンジェ。そんな彼女の様子を見て、俺もなんだか嬉しくなってしまった。
そしてそんな俺たちの様子を見ていたマリィが、不機嫌そうに頬を膨らませているのが見えたので、俺は空いている方の手でそっと頭を撫でてやる。するとすぐに機嫌を直してくれたのか、頬を赤らめながらも目を細めてくれた。
そんなやり取りをしているうちに、俺はまずミレイユさんが紹介してくれた武器屋へと到着していた。
そこは大通りに面した大きな店舗で、中には数多くの種類の武器が並べられており、店内には戦闘職を持った旅人と思しき人たちが何人もいた。
彼らは俺たちに気づくと軽く会釈をしてきたので、俺もそれに倣うように頭を下げた。
「――いらっしゃい! おっ、こりゃあもしかして、パルティアの英雄様御一行なんじゃねぇのか?」
すると奥から現れたのはスキンヘッドにサングラスをかけたガタイの良いおじさんだった。
彼は人好きする笑みを浮かべながらこちらへとやってくると、俺の前に立って手を差し出してきた。どうやら握手を求めているらしい。
「えっと……どうも」
俺は戸惑いつつも彼の手を取ると、ギュッと力強く握られてしまう。
「いや~先日は大活躍だったらしいじゃねぇか! あのミレイユが褒めるなんて、珍しすぎて剣の雨が降るかと思ったぜ!」
そう言って豪快に笑う彼だったが、俺と目が合うと急に真面目な顔になって小声で話しかけてくる。
「……なぁあんた。あの女の子の保護者なんだろ? 悪いこたぁ言わねぇから、装備を整えたら早めに別の街に逃げた方がいいぞ」
「え……?」
いきなり何を言い出すのかと戸惑っていると、店主らしき男はさらに続けた。
「やっぱり街を破壊したってのと、魔人っていう肩書き。そしてジョブのことも街の連中にバレ始めちまってるんだ。それで恐怖を感じちまってる奴らがいる。……それに本当に汚い大人って奴ァ、何をしてくるか分からねぇ」
それは初耳だったので思わず目を見開いてしまう。
しかしそれが本当だとしたら由々しき事態である。
確かにこの街にはまだベルフェゴールによって家族を失った者も多いだろうし、なにより中央区に近いこの場所に暮らす人たちは、アンジェを見ただけで恐怖を覚える人もいるだろう。
「分かりました。ご忠告ありがとうございます。分かりました。なるべく早く、移動したいと思います」
そう言って笑ってみせると、彼も「わりぃな。その分、俺もサービスすっからよ」と言ってくれた。
そうして次に俺たちは防具屋へと向かったのだが――その前に衣服を整えることにした。
なんとこの店では女性ものしか取り扱っていないというのだ。そのため俺は入店を拒み、外で待つことにしてしまったのである。
――そして十数分後。
そこには白を基調としたシンプルなデザインのワンピース姿をしたアンジェの姿があった。
スカートの部分にはフリルがついており、胸元は少し開いていてセクシーさもあるのだが、決して下品には見えない絶妙なバランスのデザインである。
「どう、かな。フェン様、気に入ってくれた?」
少し恥ずかしそうにはにかむ俺は、初めてマリィ以外の女性を可愛らしいと思ってしまっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます