第43話 それは致命的なミステイク
「フェン様は……私を受け止めてくれた、救世主様なんです」
場所をアンジェが投獄されていた牢屋から、今度はミレイユさんとエルフリーダさんの二人が安全だという東区にある職業コミュニティセンター内にある特別会議室へとやってきていた。
どちらもこの聖都パルティアでは有名人であるので、顔パスで部屋を借りることができた。
そしてその部屋でアンジェの話を聞いていたのだが――。
「いや、たしかに俺はアンジェを助けようとは思ったけどさ? でもそれは
そう俺が謙遜していると、隣に座っているアンジェが頬をぷくっと膨らませながら言ってきた。
「……それでもです。私はフェン様に救われたんです」
そう言って彼は俺の腕に抱きついてくる。想像していたよりもその柔らかい感触にドキッとするが、あくまでも彼は俺と同じ男であって、そういった趣味嗜好もない。
だが会議室のテーブルの上で腕を組んでいたマリィは、なぜかギロッとした目で俺を睨んでいた。
どうしてだよ……と文句を言おうと口を開きかけたところで、エルフリーダさんが「まさか……気が付いとかないよな?」と言い、その隣でミレイユさんが「いや、さすがにそんな初心な……いやたしか彼のジョブは――」と余計なことを口走りそうになっていた。
「ちょ、ちょっと待ってくれよみんな。俺が何か勘違いをしているなら――」
そのとき。――バタン、と会議室の扉が勢いよく開かれた。
「おっそくなりましたー!!」
「お姉ちゃんとアンジェちゃんに似合いそうな、良い感じの服をやっと見つけてきましたー!!」
そう言いながら部屋に飛び込んできたのは、職センの職員であるモモ&グリン姉妹だった。二人はそれぞれ袋を抱えている。
モモさんは部屋に入るなり、テーブルに置かれている菓子類や飲み物を見て「あっ! お菓子食べちゃってますね!?」とか「あ~!!マリィちゃんたちだけズルいですよ!」などと喚いていたが、すぐにハッと我に返り慌てて俺の方へ向き直った。
「ご、ごめんなさいフェンさん! 私ったらつい……」
「まったく、相変わらずモモお姉ちゃんは食い意地が張っているんだから……」
二人とも申し訳なさそうに謝罪してくるので、俺も気にしないようにとフォローする。
「いいよ別に。それよりも、アンジェに服を見つけてきてくれたんだろ? ……でも、どうして二人とも、アンジェに女物の服を?」
するとグリンちゃんが持っていた袋をテーブルの上に置いてから話し始めた。
「えっ、まさかフェンさん。貴方もしかして、アンジェちゃんのこと……男だと思っていたんですか!?」
「……え?」
グリンちゃんのその言葉に、室内の時間が止まったかのように静寂が訪れる。そして――。
「えぇぇぇええええええええええっっっっ!???」
驚きの声を上げたのは俺ではなく、何故かアンジェ本人だった。
そんな俺たちのやり取りを、椅子に座って静かに見守っていたミレイユさんが口を開く。
「ククッ……クククク!! ――なるほど。そういうことだったのか……」
彼女は顎に手を当てて何かを考えているようだったが、やがてポンッと手を叩いたあと、俺を見て言った。
「これでようやく分かったぞ。フェン殿よ。君は牢屋で余りに酷い扱いを受けていたものだから、女性らしくない恰好だと勘違いしたのだな?」
「――うぐっ」
確かに彼女の指摘通りなのだが、こうもストレートに言われてしまうと流石に堪えるものがある。
「そもそもだな、彼女の本名はアンジェリカだ。どう考えたって女の子の名前だろうが」
――はい、その通りですね。すみませんでした。
「あのですねフェンさん? 私たちだって年頃の女の子なんですよ?本人がそう望んでいたのなら別ですけれど、それを男だと勘違いされてしまうのは、ちょっと可哀想すぎませんか?」
グリンちゃんはそう言って、俺を責めるようにジト目を向けてくる。その視線に耐えられず思わず顔を背けると、今度はミレイユさんからも同じような視線を向けられてしまった。
どうやら二人揃って、俺のことを怒ってくれているらしい。
「……面目ない」
俺は素直に二人に謝ることにした。これは全面的に俺に非があるからだ。
しかしそこで意外な人物から助け船が出された。それは教会騎士団のエルフリーダさんであった。
「まぁ彼はそういう乙女心に関しては無頓着そうだしな、仕方ないだろう。――しかし、まぁあれだな。私も最初見たときは男だと思っていたが、こうしてみるとなかなか可愛らしい顔をしているじゃないか」
彼女が言って笑うた瞬間、場の空気が凍り付いたような気がした。
そういえばこの人、マリィみたいに可愛い人形とかそういうのが好きな人なんだったっけ……。
「と、ともかく! 実はですね、私とモモお姉ちゃんで南区の洋服屋さんに行ってきたんですけど、そこでアンジェちゃんの姿を見て気に入ったものがあったんですよ~」
そしてグリンちゃんは袋の中から一着の女性用の衣服を取り出して、それをアンジェの前に掲げる。
「これなんですけど、どうですか? サイズもぴったりだと思うんですよね!」
彼女の手元に、会議室に集まっていた人たちの視線が集まる。
それはどうみても普段使いの服ではなく、女性が男性を誘うような扇情的なデザインをしたドレスのような代物だった。
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