第40話 打ち上げ会での一幕


「ああ、これはすまない。僕は【蒼穹の剣】のリーダーをしているロランというものだ。よろしく」


 そう言って手を差し出してくる。俺は反射的に握り返した。



「あ、どうもご丁寧にありがとうございます。私はフェンといいます」

「うん、こちらこそよろしく頼むぜ」


 そう言って握手をする俺たち。お互い笑顔ではあるが、内心は探り合っているような状態だった。


 そんな俺たちの様子を見て、周囲の人間たちは呆れたようにため息をつく。


 ほぼ貸し切り状態となっていた酒場のテーブルに現れたのは、五人組の若い男たちだった。彼らの誰もが旅人風の身なりをしている。中には帯剣している者もおり、そして全員が酒に酔っているような赤ら顔だった。



「(あれはたしか、職センで俺のマリィを聖処理目的の人形扱いしたクソ野郎たちだったよな……)」


 あのときに受けた侮辱は今でも鮮明に覚えている。たしかに何も知らないような新人が無節操に魔法使いマジックユーザーを探していたのも悪いのだが……。



 それにしても彼らはなぜこんなところにいるのだろうか? 不思議に思っていると、隣にいた教会騎士団の団長のエルフリーダさんが俺の耳元に口を近づけてきた。



「アレはフェン君の知り合いなのか? 随分と剣呑な雰囲気のようだが……」

「はい。前にちょっとありまして……」



 簡単に以前あったことをエルフリーダさんに説明をする。


 見るからに温厚そうで、しかも教会の属している彼女が何か問題を起こすとは思わなかったので、包み隠さずに伝えたのだが……。



「え、ちょっとエルフリーダさん? どこへ行くんですか!?」


 急にニッコリと微笑んだエルフリーダさん。あれ、ちょっと様子がおかしいなと思ったのだが、急に険しい顔なったかと思えば席から立ち上がり、彼ら五人組に近づいていく。



 不安になっていると、副団長であるジェイソンさんが苦笑いを浮かべながら魚の串焼きを食べ始めた。



「あー、これはやっちまったなぁ」

「え? どういうことですかジェイソンさん」

「さっきも団長の趣味嗜好を言ったと思うのだが……まぁ見てれば分かるさ」


 ジェイソンさんはそう言うと肩をすくめた。


 どうしよう、なんだかマズい予感がする。俺は慌てて席から立ち上がると、彼女の後を追いかけたのだった。そして事態は急変することになる。



「ほう、マリィちゃんを好きなようにしたいと? へぇ~? いや、たしかに? 彼女を愛でたいと思う感情は私も同じ気持ちだが」


 エルフリーダさんは彼らに近づくと、そんなことを言い出したのだ。



「(えぇー!? なんでいきなり喧嘩売ってるのあの人!!)」


 まさかの展開に驚いてしまう。俺が言うのもなんだが、彼女の立場上、教会騎士団の団長というのは最上位に位置するほどの実力者集団なのだ。そんな人物がこんな場所で問題を起こせば、間違いなく面倒事になるのは目に見えている。


 いきなり近付いてきたエルフリーダさんに対して、男たちは訝しげな表情で彼女を見ていた。



「なんだ姉ちゃん? 俺らに何か用かよ?」


 リーダー格と思しき男がそう言って凄む。しかしエルフリーダさんはまったく動じることなく言葉を返した。



「いやなに、君たちがとても素晴らしい提案をしてくれたものでな。是非とも私にも協力させて欲しいと思ったんだ」

「はぁ? 何言ってんだこのアマ」

「おいおいおい、なんだよ姉ちゃん! 俺らに何か用でもあるのかよ?」

「それともなんだぁ? その綺麗な体で俺たちの相手でもしてくれんのか?」

「へへっ、いいねぇ~!」


 男どもが下品な笑いを浮かべながら口々に言う。それに対して、エルフリーダさんもまたニヤリと笑ってみせた。



「……いいだろう。ただし、後悔しない程度にしておけよ?」

「ふむ、その反応を見るにやはり私のことを知らないようだな」


 男たちの反応を見てニヤリと笑うエルフリーダさん。すると彼女は徐ろに胸元を緩めると、そこから谷間を見せつけるようにしながらこう言った。



「私はエルフリーダ・エヴァン。【審判者】のジョブを持つ者だ」


 そして彼女はそう言って拳を構えたのだった――。



 っていやいや、なんでそっち側なのこの人!? どうしてそうなった!? 完全に予想外だった展開に、頭が混乱してしまう。すると――。



「……ま、まずいぞフェン君……!今すぐ止めないと!」

「分かってます! というか、ジェイソンさんは早く止めてくださいよ!!」

「いや無理だ! 私では力不足だ!」

「そんな自信満々に言うことじゃないでしょ!?」


 なんてことだ、このおっさん役に立たないぞ!


 というか、ジェイソンさんは一体何者なのだろうか。騎士としての実力はあるのだろうが、性格的に戦闘向きではない気がするし……。


 俺たちが揉めている間にも状況は悪化していく。ついには男たちの一人が我慢の限界に達したのか、腰に差していた長剣を引き抜いてしまったのだ。



「あぁん? ふざけてんじゃねぇぞテメェ!」

「ふん、それはこちらのセリフだな」


 エルフリーダさんの挑発的な言葉に激昂する男。怒りに任せて剣を振り上げるが、それを軽く躱してカウンター気味にエルフリーダさんが拳を繰り出した。


 男の顎に綺麗にヒットした一撃により、男は白目を剥いて崩れ落ちてしまう。どうやら脳震盪を起こしたようで、ピクピクと痙攣したまま起き上がることはなかった。


 それを見て残りの男たちが殺気立つ。もはや話し合いの余地など無いといった雰囲気であり、それぞれが武器を手にして身構えていた。



「ちっ、こうなったら仕方ねぇ! おめぇら、やっちまえ!」


 リーダー格の男がそう叫ぶと同時に、他の三人が同時に動き出す。

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