第39話 祝勝会にて


「いやぁ、私は見直したよフェン殿。最初、職センで雑魚男に絡まれていたキミを見たときは、可愛いぬいぐるみが好きな、ただの少年なのかと思ったのだが……」


 巨大な木製ジョッキに注がれたエールを飲み干しながら、『銀翼の天使団』の団長ミレイユさんは大笑いを上げていた。相変わらず大酒飲みである上に、肌の露出の多いシャツや短パンを着ているので目のやり場に困ってしまう。


 膝の上に乗せているマリィが鋭い爪で俺の太ももを刺そうとするので、俺は慌てて目を逸らす。




 ちなみにパルティア襲撃が起きてから、すでに三日が経っている。


 ある程度の復旧工事も終わり、そして無事にアンジェが解放されることが決定された。


 それらのことで俺たちは、打ち上げを兼ねて、前回も訪れた『銀翼の天使団』行きつけの酒場へとやって来ていた。



 この場に集まったメンバーは俺とマリィ。そして『銀翼の天使団』のメンバーと職センでお世話になっているモモ&グリン姉妹。そして教会騎士団の団長をしているエルフリーダさんと副団長のジェイソンさんだ。

 本当はハピーさんも呼びたかったのだが、彼に関してはさすがに固辞されてしまった。



 ……というより、胸を刺されたことによる負担が大きかったらしい。怪我そのものはキチンと修復されたそうなのだが。



 ルミナ様いわく、


《本来ならば我々神たちは神域の外に対して、大きな力を及ぼすことが禁じられているのです。それに反し、ハピーという仮にも外部の人間に手を出してしまったことで、ラキィの体には大きな負荷がかかってしまったようです》


  ということらしかった。



 その影響でハピーさんそのものを動かすことすら難しくなってしまったらしく、あの会議の場に連れてきただけで相当な無茶をしてしまったようだ。



《そもそも、私の上司……上神の一部が中々にお怒りでして。魔人の脅威について未だに理解しようとしない楽観的な神もいるのですよ。フェンさんが神域で会ったあの方はまだマシなのですが……》

「(そうだったんですか……)」


 どうやら今回はかなり危うい橋を渡っていたらしい。まぁそのおかげで、アンジェを救うことができたわけで、ラキィ様には感謝しかない。


 そんなこともあり、とりあえずの魔法使いマジックユーザーを仲間に入れるという目標を達成することができた。



「じー……っ」


 達成感に浸っていると、隣の席にいた教会騎士団団長のエルフリーダさんが俺のことを見つめていた。



「……な、なんでしょうか? エルフリーダさん」

「いやなんでもありませんよ? ただ、素晴らしい御方だなと思いまして」


 そう言ってにこりと笑うエルフリーダさん。彼女は現在教会から支給された修道服(特殊性能付き)を着ており、体のラインが分かるぴっちりとした白いインナーにミニスカートといった出で立ちだった。そのため普段よりも彼女の胸が強調されており、ついそちらに目が行ってしまいそうになる。


 透き通るような白い肌に、サファイアのような青い瞳。肩まで伸びた銀髪はまるで絹のように滑らかで、触り心地がいい。



 すぐに抱擁をしたがるジェイソンさんも中々に濃い性格の人物だったが、この人も相当だと思う。


 というか――



「あの、さっきから何を見ているんですか?」


 先ほどからずっと俺ではなく、膝の上のマリィのことを見ていたのだ。それに気づいて問いかけると、副団長のジェイソンさんは少しバツが悪そうに口を開いた。



「……すまないな。実は彼女は無類の可愛いもの好きでな。特に犬や猫といった獣人に近いものにたいして、滅法に弱いんだ」


 それはまたなんというか……意外すぎる弱点だ。


 いやでもそういえば、初めて会ったときもマリィを見て興奮していたような気がしないでもないな。


 まさか本当にそういう趣味があったとは……教会騎士団の団長というお堅そうな人なのだが、見かけにはよらないものだ。



 ちなみに今現在の会話中も、彼はずっとマリィのことをチラチラ見ていた。本人は隠しているつもりかもしれないがバレバレである。


 そして当のマリィはと言うと、俺の足の上で美味しそうにキラーバードのローストチキンを食べていた。



 火を吹くキラーバードのジューシーな肉を、ローズマリーやガーリックなどのハーブで味付けしてローストした一品。独特の風味があり、赤ワインと一緒に食べると最高の一品だ。



「なぁマリィ。それ美味しいのか……?」


 そう尋ねると、マリィはこちらを向いてにっこりと笑った。どうやらお腹がまだまだいっぱいにならないのか、ご機嫌のようだ。そんな様子を見ていると、思わず笑みがこぼれてしまう。


 人形の身でありながら、美味しそうにフォークを使って会話には混ざらずモグモグと食べている。


 その様子をエルフリーダさんは頬を染めながらじっと見つめていた。



「――あぁもう、食べちゃいたいです……」


 ぽつりと呟いた言葉に、俺たちは揃ってギョッとする。見ればエルフリーダさんの瞳はまるで獲物を狙う肉食獣のようにギラギラとしていた。



「(もしかしてこの人は、とんでもない変態なのでは……?)」


 そんな疑念を抱いた瞬間、酒場の入り口から見知った顔が現れた。


「ここにいたか! ようやく探したぞ!」


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