第37話 アンジェを救う為に
「なんでしょうか? 私にできることならなんでもします!」
職業コミュニティセンターにて。街が氷漬けとなり、怪我をした人々や壊れた建物が出てしまった。
とはいえ、破壊の半分近くは魔人“狂炎のベルフェゴール”なのではあるのだが。
そして回復アイテムが足りないという状況において、職センの受付嬢であるモモさんは土下座する勢いで回復アイテムの提供を求めてきたのである。
「分かりました。でも条件があります」
俺の言葉を聞いた瞬間、彼女が受付の台から身を乗り出してくる。その瞳には期待の色があった。
俺は彼女のそんな様子に苦笑しつつ、言った。
「そんなに大したことじゃないですよ。ただ、アンジェさんを俺の仲間にさせてほしいんです」
◇
パルティアの街の商業区である南、大聖堂のある中央区などを凍結の魔導で破壊をしたアンジェ。
俺が提案した「アンジェを仲間にしたい」という発言はかなりの物議をもたらしてしまった。
そう。結果的に言えば、俺の提案は通らなかったのである。
「私としてはなぁ……人命が失われなかったし、状況が状況だからアリだとは思うんだがなァ……」
そう告げたのは、教会騎士団の副団長であるジェイソンさんだ。
今俺たちは大聖堂にある大会議室に関係者が全員集められている。
その中には職業コミュニティセンターの代表者である男性、そしてほぼ俺の担当となっているモモ&グリン姉妹。そして『銀翼の天使団』の団長、剣聖であるミレイユさんの姿もある。彼女が所属している『銀翼の天使団』は国の中でもトップクラスの傭兵団で、街の被害を抑えた功労者だからという理由もあるらしい。
そしてパルティアの街を治める領主や教会騎士団の団長であるエルフリーダという女性の他、街の有力者と思われる人たちが大勢いた。
そんな彼らの視線が一斉に俺たちに注がれているのだが、誰も彼も訝しげな表情を浮かべていた。
それもそうだろう。何しろ今の俺たちは何の実績や名声もない、ただの田舎の二人組にしか見えないのだから。
「ここまで我がパルティアに甚大な被害をもたらし、しかも魔人との関与も疑われる女。さらに言えば大司教アーサー様を殺めた大罪人なのですぞ! 何を迷っている必要があるのですか。即刻、処刑すべきです!!」
最初に声を上げたのは教会の最高権力者でもある司祭長だった。彼は怒りの形相でこちらを睨みつけながら叫ぶように言い放つ。その言葉に他の教会関係者たちからも賛同の声が上がるのだが……。
「(いや……あんたらこそ何なんだよ……)」
俺は心の中で悪態をつく。そもそもアンジェがああなった原因を作ったのはお前らだろうが、と。
彼が十六歳で得たのは【殺人者】というジョブ。たったそれだけの理由で、アンジェは親も人生も……なにもかも奪われたのだ。
たしかに教会にとって必要だった大司教が殺され、怪しい人物だったのがアンジェだったのかもしれない。
だからといって何も殺すことはなかったはずだ。日の当たらない牢獄に閉じ込める必要は本当にあったのだろうか。
……いや、違うか。
きっと彼らは怖いのだ。自分たちの権力を脅かす存在が、いつか自分たちを害するかもしれないことが。
だからこそ恐れるのだ。たとえそれが冤罪であったとしても。
結局、俺たちがいくら説明しても無駄に終わった。というか、途中から聞く耳を持たなくなったと言った方が正しいのかもしれない。
「おい! 聞いておるのか!」
「え? ああ、すいません。ちょっと考え事をしてました」
怒鳴る司祭長に対して、俺は軽く会釈をして謝る。
すると彼は顔を真っ赤にして怒鳴り返してきた。
「貴様ァ!! 誰に向かって口を聞いているつもりだ!?この無礼者がッ!!」
「……いえ、一応謝っておこうと思いましてね。なにせ貴方は俺たちの話を聞いてくれないじゃないですか」
俺が淡々と告げると、司祭長は顔を真っ赤にしたまま固まってしまった。どうやら予想外の返答だったらしい。
まあ無理もないよな。相手は司教とはいえ、たかだか都市一つの教会を任されているだけの男だし。
そんな彼よりも位が高い俺が頭を下げれば、面子丸つぶれだもんなあ。
「ふ、ふざけるなよ小僧! たかだか旅人風情が、教会内で大きな顔をするんじゃない!」
そう言って喚き散らす。
いや、旅人かどうかは今は関係ないでしょうよ。そんなことよりも――。
「すみませんけど、アンジェを仲間にするのはすでに俺の中で確定事項なので。何を言われたところでお断りします」
「なっ!? 貴様っ!! 自分が何を言っているのか分かっているのか!?」
俺が断ったことに激昂する司祭長。その目には殺意にも似た色が宿っているように見えた。
それでも俺は冷静に返す。
「分かっていますよ。ですが、俺には彼女を仲間にする理由があるんです」
「理由とはなんだ?」
俺の言葉に疑問を投げかけてくる。他の者たちも興味深そうにこちらを見つめてきた。
だけど別に俺も頭がおかしくなった訳じゃない。
理由を言えば、神を信じる彼らならきっと分かるはず。
なので、俺は言葉を続けた。
「それはですね――」
俺が話を続けようとしたとき、この会議室に訪れた人物が現れた。
「はて、これだけの顔ぶれが集まっておきながら、神の教えを理解できる者は一人もいないのですかな?」
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