第32話 マオウのインシ
「お、お前は……!!」
後ろを振り返ると、そこに立っていたのは燃えるような赤髪の魔人、そして顔の半分を白い仮面で覆いかぶせた“狂炎のベルフェゴール”だった。
コイツは以前、俺とマリィが生まれ育ったラッグの村を壊滅させた相手だ。
そして手も足も出なかったバケモノでもある。
「お前……何しにここへやってきやがった!?」
俺は警戒心を最大限にして余裕綽々の魔人に問いかける。俺の隣にいるマリィも顔を青褪めさせている。
《注意してくださいフェンさん。魔人が白昼堂々、こんな街の重要建物にやってくるなんて、絶対に何かを企んでますよ!!》
ルミナ様の言うとおりだ。こいつの目的は一体何なんだ……?
警戒しながら相手を見据えていると、奴はニヤリと笑って口を開いた。
「そんなに身構えないでくださいヨ! 別に危害を加えるつもりなんてないんですからァ」
そう言ってヘラヘラと笑うベルフェゴール。相変わらず何を考えているのかよく分からない奴だな……。
そんな奴に対して、俺は尋ねた。
「それで一体何の用なんだよ?」
するとベルフェゴールはニヤリと笑い、とんでもないことを口にした。
「いやね、ちょっとそちらの方に用がありましてェ。実はうちのボスがその少年のことを気に入っちゃったみたいでしテ? ぜひ仲間にしたいみたいなんでス」
「はぁ? 少年ってこのアンジェのことか!?」
思わず大声を出してしまったが、ベルフェゴールの様子は変わらないままだった。
「(おいおい、冗談じゃないぞ!? なんでよりによってこいつがここに現れるんだ……)」
しかもよりにもよって俺が彼を助けようとした瞬間に……!
「……おい、その話詳しく聞かせろよ」
「おや、興味を持ってくれましたカ?」
「いいからさっさと話せ」
「やれやれ、せっかちですネェ」
呆れたように肩をすくめるベルフェゴール。
「まぁいいでしょう。まずは彼のジョブ。貴方はそれを御存じですか?」
「あぁ、もちろん知ってるよ」
俺が聞いている彼のジョブ、それは【殺人鬼】というふざけたものだった。
神が人々にジョブを選んでいるとしたら、この拳で殴ってやりたいぐらいだ。
何をもって人間を殺すためのジョブを人間に与えたんだと怒りしか湧いてこない。
「たしかに世間では嫌われるジョブではあるでしょウ。しかし我々にとっては喉から手が出るほど欲しい人材なのですヨ」
「……それはつまり、彼を人殺しの道具に使うつもりってことなのか?」
怪訝な顔をする俺に、彼は説明を始めた。
「それは当然でしょう。彼ほどの逸材は滅多にいませんカラ。人間であることすら勿体ない! 我々と同じ魔人となり、殺戮の限りを尽くしましょウ!」
「そんなことをさせるわけが――」
ベルフェゴールを止めるべく、動こうとする。隣にいるマリィもそうだ。
ステータスの速度を全開にし、奴に近付こうとする。だが――。
「残念ながラ、単純なスピードはワタシには関係ありませン。さぁ、アンジェさン。ワタシの魔王因子を得て、我々と共に素晴らしい世界を創り上げましょウ」
ベルフェゴールはいつの間にか転移し、鎖につながれたアンジェの目の前に現れていた。
そして胸元から取り出したガラス瓶に入った液体をアンジェに無理やり飲ませていく。
「や、やめろぉおおお!!!」
俺は叫び、助けようとするが間に合わない。
やがてすべて飲み干したところで、変化が起こった。
「これは……私の本当の力……??」
《個体名:アンジェ・クレッセの魔王因子への適合率が100%になりました》
誰だ!? 無機質な音声が鳴り響く。
《これより“神殺し”システムを発動します》
次の瞬間、爆発が起きたかのように地面が大きく揺れ動く。同時に凄まじい衝撃波が発生した。
「ぐわあああああ!!!!」
壁に叩きつけられる俺。必死に目を開けて状況を確認する。どうやら街中で騒ぎが起きているようだ。
「くそ、いったい何が起こってるんだ……?」
「これは……まさか!?」
困惑する俺とは反対に何かに気付いた様子のマリィ。
「大変、パルティアの街で何かが起きてみたい! この建物も壊れかけてる!!」
彼女は慌てて俺の手を引き、外へと走り出した。
廃墟と化した牢獄から抜け出した俺たちは教会の中に逃げ込んだ。
どうやら堅牢な造りの建物のようで、あの魔人たちの襲撃にも耐えてくれたみたいだ。
ひとまず安心する俺たちだったが、外の様子を確認しようと教会の扉を開けると、そこには信じられない光景が広がっていた。
「なんだこれ……」
思わず声が漏れてしまう。それも仕方ないだろう。だってそこには見たことのないような景色が広がっているのだから。
辺り一面に広がる焼け野原。建物は崩壊し、地面には大きな亀裂がいくつも走っている。まるで巨大な生物が暴れ回った後のようだった。
しかもラキィ様の化身であるハピーさんが教会の神像の前で胸を剣で刺されて絶命している。
「そんな……こんなことって……!」
隣ではマリィが顔面蒼白になっている。俺は彼女を安心させようと声をかけることにした。
「大丈夫だ、きっとなんとかなる」
根拠のない言葉ではあるが、今はそうとしか言えない。
すると俺たちの背後から声が聞こえてきた。
「おや、ここまでとは思いませんでしタ。素晴らしい成果ですよ、彼ハ」
振り返ると、そこにいたのはアンジェを魔人化させた張本人である、ベルフェゴールだった。
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