第31話 生きたい少年


 五千万Gの賞金を手に入れた俺は、例の少年が囚われていた例の牢屋に訪れていた。


 場所は教会のある中央にある教会騎士団の敷地だった。ハピーさんやジェイソンさん、ミレイユさんたちの名前を出したらあっさり通してくれたのだ。さすがは有名幹部たちといったところだろうか? 


 門番である二人組の兵士に事情を説明し、俺は目的の彼がいる部屋へと向かっていく。



「おい、大丈夫か?」

「う、うぅ……」


 俺が声をかけると少年は小さく呻き声を上げながらゆっくりと目を開けていく。


 まだ意識がはっきりしていないのかボーッとしているが、やがて自分が置かれた状況を理解したのだろう。慌てて飛び起きた。



「――何し来たんですか?」


 鉄格子の向こう側には、相変わらず拘束されたままの彼がいる。


 少年は俺たちの顔を見るなり、目を見開いて驚いていた。


 その言葉に俺とマリィは顔を見合わせた。



「何って……助けにだけど?」

「助ける……? 私をですか? 何故です? 私には絶対に許されない罪を犯した人間なんですよ?」


 心底分からないといった表情で白い長髪を揺らしながら首を傾げる少年。



「いや、だって君は無実なんだろう? だから助けに来たんだよ」

「はぁ、それがどうしたんでしょうか? たとえそうだとして、今の私にそれをする意味が分かりませんね。まず解放するには、五千万Gもの大金が必要なんですよ?」


 やれやれといった感じで首を振る彼。


 そんな俺に対し、彼は言った。



「金? 金って言うのはこれのことか?」


 そう言って俺は懐から金貨の入った袋を取り出した。


 それを見た瞬間、彼の顔色が変わったのが分かった。



「そ、それはまさか……!」

「ああ、お前を解放するための金だよ」


 俺がそう言うと、彼は信じられないといった様子でこちらを見てきた。



「ど、どうやって……?」

「どうって……普通に用意しただけだぞ?」


 俺の言葉に彼は絶句しているようだった。


 いや、実際には賭け事で得た金なんだけどな……。まぁ、説明するのも面倒だしいいか。


 それにしても驚いた顔をしているな……。



「私を助ける? 何を馬鹿なことを仰っているのですか? だ、第一教会を敵に回すつもりですか? 大司教を殺した人間を本当に外へ出すと思ってるんですか!? そんなことはお断りします」


 即答だった。


「……なんで? それが関係あるか??」

「私は罪人ですから。それにもう生きる意味もありません。私は父を殺した大罪人なのです。きっとそのうち処刑されます。そんな私に構う必要はありません」


 淡々と答える彼の言葉に、俺は怒りを覚えた。


 確かにこの子は罪を犯してしまったのだろう。それは事実なのかもしれない。


 けれどだからといって死ぬ必要はないはずだ。生きることを諦めるのは間違っていると思う。



「だいたいさぁ。君は本当に父親を殺したのか? なにか嘘をついているんじゃないのか?」

「……あなたに何が分かるのですか? 何も知らずに勝手なことを言わないでください」


 そう言って睨み付けてくる彼に怯むことなく言葉を続ける。



「確かに俺には君のことなんて分からないよ。でも少なくとも君が死にたいとは思ってないことぐらいは分かる」

「っ……!」


 図星だったのか、言葉に詰まる少年。

 そんな彼を見て俺は続ける。



「本当は死にたいんだったらさぁ! こんなかび臭い場所じゃなくて、俺と同じ死の危険のある旅で一緒に死のうぜ!!」

「えっ?」

「だってそうだろ? 本当に死にたいと思っているなら、とっくに自害することだってできるはずだ。なのにお前はそれをしなかった。つまりまだ生きたいってことだろう?」


 俺の言葉に、ハッとした表情を浮かべる少年。どうやら自分の本当の気持ちに気付いたらしい。



「……」


 黙り込む少女を見て、俺は続ける。



「まぁ、君を助けたいっていうのは俺の自己満足でしかないのかもしれないけどさ……それでも何かできることはあると思うんだ。だからせめて最後まで諦めずに生きようぜ!!」

「……あなたは不思議な人ですね」


 壁の鎖に繋がれていた白い長髪の少年は冷たい声で言う。


 黙り込む少年に向かって、さらに続けた。



「俺だってさ、生きてて辛いって思ったことだっていくらでもあるぜ。でもその度にマリィに助けられたんだよ。だから君も――」

「……そうです。僕は生きたい……生きて人々を助けたい……」


 ぽろぽろと涙を流し始める少年。その姿はまるで小さな子供のように見えた。



「……分かった。それじゃあ俺の仲間になってくれないか? もしかしたら力になれるかもしれない」

「……本当に?」


 そうして少年の父親は彼が殺したのではなく、ある状況証拠として彼が疑われていただけだということが分かった。


 要するに、彼は誰かに嵌められたということだ。

 これは五千万Gを払うだけじゃなく、犯人を断罪する必要があるかもしれないな……。


 だがそのとき、俺たちの邪魔が入った。



 ――ガシャンッ!!


 突然、鉄格子を蹴り付ける音が響く。


 見るとそこには見たことのある人物が立っていた。


 彼はニヤニヤとした笑みを浮かべながら、こちらに近付いてくる。



「やぁ、またあったな少年。“狂炎のベルフェゴール”。ワタシの名を覚えておいでですかナ?」


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