第30話 ヤラセ ブレイカー
さぁ、これで賞金を貰える条件は完全に満たしたはずだ。
「さて、そろそろいいか?」
俺はそう言うと、ステージ上にいる司会者の方を見た。
「ひぃぃぃいいいっ!!」
するとその男は情けない声を上げながら、腰を抜かしてしまったようだ。そのまま這いつくばるようにして逃げていく。
それを見て周囲の人々は呆然としていたものの、俺は許しはしない。
ステージの中央に大きく用意された厳重な箱には、今回のイベントで獲得した賞品が入っているはずなのだから。
「この中に報酬があるんだよな?」
「え? あ、ああそれは待ってくれ! それは俺のボスから借りた大事な金で……!!」
「それは俺に関係ないな。じゃあ、貰っていくぞ」
そう言って俺は箱の中に入っていた袋を手に取る。
ずっしりと重たい感触があったことから、中に入っているものが貨幣であることはすぐに分かった。それを俺は持っている収納ポーチの中に詰め込んでいく。
「よし、じゃあ行くぞ」
ステージを振り向き、歩き出そうとする俺だったが、そこで声がかけられた。
「おい、待て小僧。てめぇ、なにやってくれてるんだ??」
その声に反応して振り向くと、そこには一人の大男が立っていた。背丈は二メートル近くありそうで、筋骨隆々という言葉が相応しい体格をしている。そしてその顔は、まるで鬼のような形相をしていた。
「(うげっ、なんかヤバそうな奴が出てきたな……)」
そう心の中で思いつつも、とりあえず話しかけてみることにする。
「えっと、誰ですか?」
「ん? ああ、てめぇに語るような名前はねぇよ! それよりも随分と俺様の商売を邪魔してくれたじゃねぇか。あんな無茶なギャンブル。いったい、どんなイカサマを使いやがったんだ?」
そう言いながら豪快に笑う男を見て、俺は思った。
「(こいつ、このイベントの元締めか? 俺が賞金をゲットしたことでイチャモンをつけに出てきやがったか?)」
ていうか自分で無茶なギャンブルって言っちゃってるじゃねぇか。どれだけ馬鹿なんだこの人……。
「別にイカサマなんて使ってないですよ。ただ単に運が良かっただけです」
「はっ、そうかよ。まぁ、どっちにしろ俺の商売に手を出した落とし前はつけてもらうぜ?」
その言葉と共に男は腰から剣を抜いた。刀身は長く、その刃は鋭い光を放っている。見るからに業物といった雰囲気の剣だった。
だがそれを見た俺の感想はというと――。
「(へぇー、なかなか立派な剣じゃないか……って、いうかこんなお祭りの最中にこんなことして大丈夫なのか?)」
「ふへへ。俺はこのパルティアの豊穣祭ってのはナンデモアリなんだよ。殺しさえしなきゃ、盛り上がる祭りのイベントなら大体のことは許されるんだよ!!」
そんな馬鹿なことがあるか? と思ったが、周囲の観客は歓声を上げて喜んでいるようだ。それにステージ上にいる警備の人間も特に止めるような素振りはない。どうやら本当のことらしい。
「(まったくとんでもない街だなここは……)」
呆れつつも周囲を見回してみる。観客たちは酒を飲んだり、食べ物を食べたりしているようで、誰もステージの上に注目している様子はない。そんな中で俺とマリィだけが取り残されているような状態だった。
「……なぁ、どうする?」
脳内にいるルミナ様に話しかける。
すると彼女は首を横に振った。
《そうですね。さすがにこの状況では逃げることも難しいでしょう》
うーん、だよな。
というかそもそもこの賞金を逃すという選択肢がないわけだし、ここは余興を兼ねてやってみるか?
「(こいつを倒してしまえば、賞金が出るはず……!)」
「はぁ、もういいや……」
俺がそう呟くと同時に男が動き出す。素早い動きで間合いを詰めてくると、剣を振り下ろしてきたのだ。俺はそれを冷静に見切りつつ、一歩後ろに下がって回避する。
「なっ!?」
残念。俺のアビリティである回避速度アップLv.40は伊達じゃない。
具体的なステータスで言うと、回避速度:20(+400)だ。
通常時は20という一般人レベルだが、アビリティを利用すれば一気に俺のスピードは加速する。さらに言うなら今の俺には【賭博師の天秤(ユニーク)】があるのだ。
これはスキル使用時、確率によって発動される効果が変わるというものなのだが、今回であれば『選択した対象の攻撃を回避する確率を上げる』というものだ。つまり相手が攻撃を外したとき、確実に避けることができるのである。
まぁ、今回は相手の動きが鈍かったから避けられたんだけどな。もしこれが速ければ俺も苦戦していただろう。
そんなことを思いながら、相手の攻撃をいなしていく。驚く男の隙を突いて、俺は反撃に出た。素早く踏み込み、拳を突き出す。狙いはもちろん股間だ。
――ドゴォッ!!
「ぐあっ!?」
クリーンヒットした一撃により、男は地面に倒れ伏す。ピクピクと痙攣しているところを見ると気絶しているようだ。手加減したので死んではいないだろうが……。
「(よしっ、これで賞金は俺のものだな!)」
「さて、行くか」
そうしてステージを後にした俺は、マリィと一緒にあの少年を救いに向かうのであった。
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