第29話 勝利への方程式


「残念んんんっ!! 当たったのは低級ポーションの十個セット! しっかし、冒険には必需品! おめでとうございまぁあああすっ!!」


 そう言って司会者が大げさに拍手をする。それにつられて周囲の観客たちも惜しみない喝采を浴びせていた。もちろん、彼らが本当の意味で祝福しているわけではないのだが……。


 挑戦者である貧乏魔術師である少年は、ステージ上で膝をついて愕然としてしまっている。



「そんな!! 僕の全財産をはたいてチャレンジしたのにぃいいいっ!!」


 そんな彼に向かって、司会者はニヤニヤしながら話しかける。一刻も早く出て行けと言わんばかりである。



「さあさあ、次に挑戦したい人はいませんか!? いないなら次の人に移りますよ!」


 その言葉に何人かの客が名乗りを上げる。どうやら皆、賞金目当てのようだ。



「よっしゃあ、俺やるぜ!!」

「私もよ!!」

「私もだ!!」


 次々とステージ上に上がってくる挑戦者たち。そのたびに、観衆たちのテンションは上がっていく。


 男女問わず、様々な人が挑戦していく。


 失敗する者、数万Gをゲットする成功する者、様々であったが、誰一人として特賞である五千万の賞金を手にすることなく、悔しそうに去っていった。



「さぁ、次は誰が出るんだ!?」

「次はどんなチャレンジャーが現れるのか楽しみだぜッ!!」


 観衆たちは熱狂していた。誰もが新たなチャレンジャーの登場を待ち望んでいる。


「よし、俺も試してみよう……」

「ちょ、ちょっとフェン!? あんなの当たるわけがないよ!? せっかくモンスター狩りで貰ったお金が無駄になっちゃうって!!」


 俺の行動を止めようとするマリィ。そんな彼女に対して、俺は優しく語りかけた。


「いや、大丈夫。俺には賞賛があるんだって、きっとうまくいくさ」

「え、でも……」


 不安そうな表情を浮かべる彼女だったが、俺が心配しないでと言うと渋々引き下がってくれた。


 そして、ついにその時は来た!



「さーて、お次は誰が行くんだい? 今ならまだ間に合うぞぉ?」


 司会者の男がステージ上に立って、周囲を見渡す。



「じゃあ行ってくる」

「……分かった」


 俺がそういうと、マリィは少し不安そうな表情になったものの、すぐに頷いた。


 俺は覚悟を決めて、前へと進むことにしたのだった。



「おおっと、ここでまた挑戦者が現れましたぁ~!! 今度は一体どんな幸運の持ち主が出てくるのでしょうか? それではどうぞ~!」


 司会者の声と共に、俺の名前が呼ばれる。すると周囲がざわつき始めるのが分かった。明らかに歓迎されていない雰囲気だ。



「(まぁ、当然の反応だよな)」


 そう思いながらも前へ進み出ると、司会者の男が意気揚々と声を上げる。



「さぁさぁ、皆さん注目してくれ! ここに現れたのはなんとまだ若い少年だぁ~! しかも職業は……なんだ? 農民か何かでしょうか。一攫千金を求めて挑戦する心意気! ここは是非とも成功してほしいところです!!」


「いや、俺はあくまでも剣士で……」


「なんと!! 剣士!! いやぁー羨ましいねぇ! これからの成長に期待したいところだよ! でも彼の場合、安全に畑でも耕してほしいところだね! あ、ちなみに剣の腕前の方はどうなの?」


 そう問いかけてきた司会者に対し、俺は正直に答えた。



「……剣術なんて習ってませんけど?」


 それを聞いて周囲から笑い声が上がった。



「あははははははっ!」

「おいおい、マジかよこいつ!」

「こりゃあ無理だな!」


 などと言われてしまう始末だった。だがそれでも俺は諦めずに食い下がる。


「いや、だから本当に……!」


 だがそんな俺の言葉を遮り、司会者は言う。



「はいはい、わかったから早く進んでくれ」


 まるで聞く耳を持たないといった様子で俺をステージの中央へと誘導してくる。


 仕方なくそれに従い、参加料である千Gを払う。



「さぁって、今回彼にやってもらうアトラクションは、いたって単純。二択の問題を連続で二十問答えてもらう。それだけだ!!」


 司会者のでっぷりとした男はいやらしい笑みを浮かべて言う。



「ただし、間違えれば賞金は没収だ。そして正解すれば、豪華景品が待っている! では早速始めようか!!」


 だが俺はその言葉を聞いて、内心でほくそ笑んだ。


 これは俺の勝利が間違いなくなった瞬間だ――!!





「ま、まて……どうして? なぜこうなってしまったんだ!?!?!?」


 頭を抱えながら絶叫する司会者の男。彼は地面に膝を突き、絶望に満ちた表情で項垂れている。そんな彼のことを俺たちは見下ろしていた。


 ステージで起きていた光景を見ていた観客たちも唖然としてしまっている。




 もちろん、用意されていた問題は、すべてが簡単なものではなかった。


 たしかに最初の数問は小さな子供でも答えられるようなものだったが、五問目あたりを超えたあたりから明らかに難易度がおかしくなっていた。


 そして今現在、六回目の問題が出題されたのだが、その問題というのが『魔王を倒すために勇者たちが旅立った場所は?』というものだったのだ。


 普通に考えれば分かるはずのないような問題なのだが、なぜか俺にはそれが分かってしまった。



「ど、どうして……」


 ふふふ、それのネタばらしをするつもりはない。


《フェンさん、貴方も中々のあくどいことを思いつきますね……》


 ふふふ、ルミナ様。ものは使いようというものなのですよ。



 そう、俺が今回使ったのはアビリティの【幸運Lv.2】とスキル【賭博師の天秤(ユニーク)】だ。


【幸運Lv.2】アイテム習得確率が少しだけアップする。(成功率=30%+アビリティLv.×10)

 つまり、現在俺のアイテム習得確率はレベル2なので50%。


 そして【賭博師の天秤(ユニーク)】二者択一のときに正解を引くことができる。


 これら二つが合わさったことで起きる現象――!!



「俺は二択の問題なら、絶対に正解を選ぶことができるんだよ」

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