第28話 一発逆転のチャンス


 俺は目的を達成するため、北区のある大聖堂から巡礼者通りから豊穣祭のやっている南の商業区、その大通りへとやって来ていた。


 ここはパルティアで開催されている祭りの中でも最も活気のある場所で、露店が立ち並び、多くの人たちで賑わっていた。



 すでに太陽は空高くに浮かび、豊穣祭による賑わいが最高潮に達していた。


 そこかしこから漂ってくる屋台料理の匂いにさっき軽食を食べたばかりなのに、俺の腹の虫が鳴る。食事の店だけではなく、工芸品を売っていたり、大道芸を披露して小銭を稼いだりしていたりする人もいて、活気に満ち溢れているのが分かる。


 そんな通りの中を歩きながらも、俺は周りの屋台をキョロキョロとしていた。



「ねぇ、フェン。さっきから何を探しているの?」


 俺の胸の中に抱きかかえられたコボルト人形のマリィは、俺の顔を見上げながら聞いてきた。もちろん周りからは奇異な目で見られたが、今はそんなことは気にしていられない。



「……それはもちろん、お金を稼ぐ方法を探しているんだ」

「お金を探す方法……?」


 ますます意味が分からないといった様子で首を傾げるマリィ。まあそうだろうな。いきなりそんなことを言われても困るに決まっている。


 そもそも俺自身だってよく分からないんだから、当然といえば当然だ。

 でも、それでも探さなければならない理由がある。


 なぜなら俺たちは早急にお金を手に入れなければならないからだ。


 理由は簡単だ。あのアンジェという少年を一刻も早く救う必要があるのだ。

 聞けば、彼の身代金である五千万Gが払えなければ、数日中に処刑されるという話らしいのだ。

 それも衆目監視の中で、惨たらしい形で。



「それで? こんな屋台の中を歩いてもお金を稼ぐ方法なんて――」

「あ、みてよマリィ!! あれだよあれ!」


 俺が歩いていた先にあったのは、中央広場にあった大ステージ。そこでは今、一人の司会者が大声で観客を集めていた。


 そしてその周囲にはたくさんの人だかりができており、皆一様にして耳を傾けている様子だった。そんな中、司会者の男が高らかに宣言した。



『さあ皆様! おまたせいたしました! 本日のメインイベント! 【豊穣祭オークション】を開始します!!』


 途端に湧き上がる歓声。どうやらこの催し物が今回の目玉だったようだ。



「さぁ、寄ってらっしゃい見てらしゃい! パルティア豊穣祭名物、トレジャーチャンスだよ!」


 とある街の大通りにある広場にて、一人の恰幅の良いオジサンが大きな声で客引きをしていた。男性は頭に三角帽子を被り、手にはメガホンを持っていた。



「さぁ、みなさん! このめでたい豊穣祭という機会に、一回運試しをやってみないかい?」


 そう言ってニッコリと笑う男性の前には、多くの人たちが集まっていた。というのもこの彼に声を掛けられると不思議と足を止めてしまう不思議な魅力があるようだ。



「おい、俺はやってみるぞ! 何をすればいいんだ!?」

「私も参加するわ!!」

「お、俺もだッ!!!」


 すると我先にと競うように声を上げる人々。その様子を見て嬉しそうにする男性。そして彼は集まった人たちに説明を始めた。



「はいはーい、よく聞いてね~。まず参加費として一人につき千G頂くんだがな? たった千Gで夢のあるゲームに参加することができるんだ!! ってことで、それじゃあ次はルールを説明するぜ」


 そうして男はステージの上にあった大きな看板に書かれている内容を読み上げていく。そこにはこう書かれていた。



「まずは参加費! これは一人当たり、千Gを払ってもらうぜ! 参加者は順番に並んでもらい、ステージに用意された厳重な箱に入れてもらう!」


 そこで一旦区切る男。観衆たちは息を飲んで続きを待つ。



「次に賞金について説明するぜ!!」


 ここで再び男が声を張り上げた。その言葉に反応し、観衆たちがざわつき始める。



「今から出すお題をこなしてもらうごとに、各賞に応じた賞金を贈呈させてもらうぜ! 何と驚くなかれ! 集まった金額によっては、一千万G以上になることもある!!」


 おおおお!! という観客の歓声があがる。

 庶民であれば、それだけあれば大抵のものは買えのだから当然である。



「ただし、失敗すればそれまで獲得した賞金は全て没収だぜ!! さらに失敗した回数によってもペナルティーが発生するから注意してくれよな!! さて、では最初の挑戦者に登場してもらいましょう!! どうぞ!!」


 その言葉を合図にして、一人の男が出てきた。


 その男は見るからに貧相で、服もボロボロで汚らしかった。まるで乞食のような恰好をしており、とてもじゃないが裕福そうには見えなかった。



「えー……どうも、皆さんこんにちは……」


 そんなみすぼらしい格好をした男が自信なさげに話し始めたのを見て、会場にいる人たちはあからさまにガッカリした様子であった。だがそんな彼らの態度などお構いなしに、男は話を続けた。



「えーとですね……僕のジョブは一応魔術師なのですが……ご覧の通り魔法の才能はなくてですね……ですからその、魔法を使うための触媒や道具を買いたくてですね……」


 そう語る男に、周囲からは嘲りの声が上がる。やれ『使えもしない魔法使いが』だの、やれ『そんな奴に参加費用が出せるのか?』だの言いたい放題だった。



「……分かりました」


 そう言うと男は懐から一枚の金貨を取り出した。それは純金でできた綺麗なコインであり、かなりの価値がありそうだった。それを手に持ちながら、男は語り始めた。



「僕は今現在、手持ちがありませんので……このお金を担保として預けたいと思います……」


 そういうと、男は手に持っていた金のコインをステージ上のテーブルに置いてしまった。


 それを見ていた司会の男がニヤりとした表情で受け取った。それも素早い動作で。おそらくは参加費用以上の価値があったのだろう。



「さぁ、この夢のある男性が夢のある挑戦してくれるぞ!! みんな応援してあげようぜぇええー!」


 そういって煽ってくる司会者の男の言葉に、観衆たちも大いに盛り上がる。彼らは口々に声を上げ、声援を送っていた。



「がんばれよー!」

「期待してるぞー!」

「一発逆転だー!」


 などと無責任な言葉を投げかけてくる彼らに、俺は少しだけイラっとした。


 その魔術師の男性は震える手で、最初のステージに挑もうと果敢にアトラクションの設置されたステージの真中へと進んでいった。

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