第27話 救う為の値段
「残念ながら、“背神者”であるアンジェを贖罪のために外へ出すためには、五千万G(ゴッド)が必要になるな」
「なっ……五千万だって!?」
背神者たちが収容されていた牢獄から一度外へ戻ってきた俺たちは、アンジェを引き取るべく、教会騎士団の副団長であるジェイソンさんの元へとやってきていた。
ちなみにミレイユさんの仲間は飲み直すと言って再び酒場へと消えていった。さっきもあれだけ飲んでいたのに、とんでもない酒豪たちである。
そんなわけで今この場にいるのは、俺とマリィ。そして団長のミレイユさんと教会騎士団の副団長、ジェイソンさんの四人だけだ。
それにしても五千万Gか……今の俺たちにはとてもじゃないが払えそうにない金額だ。このパルティアで買えるような普通のパンが一個で二百Gぐらいだといえば、それがどれほど途方もない額なのだかは分かってもらえるだろう。
「アイツはそれほどまでの罪を犯したんだ。このジェイソンでも、かの者の罪を抱き寄せることは難しい」
「そ、そうですか……」
副団長のよく分からない例えに曖昧な返事を返しつつも、やはりダメだったかと肩を落とす俺。
「……しかも彼女にはあまり時間が残されていない」
「えっ!?それはどういうことですかっ!!」
俺はガバッと顔を上げるとジェイソンさんに掴みかかる勢いで詰め寄った。
「お、落ち着け!」
「あ……す、すみません」
我に返って慌てて離れる俺に、やれやれといった様子で肩をすくめるジェイソンさん。そして彼は説明を始めた。
「実は彼女の父親は大司教だったと言ったろう? その父親を殺めてしまったことで、教会が彼女に対して怒り狂ったんだ。ましてや大司教は孤児院を経営したりスラム街の住人の働き口を作ったりと、民からの信頼も厚かったからな」
なるほど、それで責任を感じた父親が亡くなった後、彼女が幽閉されることになったのか。
「だが、そんな状況にも関わらず教会は彼女を裁くことにしたらしい。なんでも、父親の死によってもたらされた混乱を収めるためとか……なんとか理由をつけてはいるが、実際は違う。ただ単に自分たちにとって都合の悪い存在を消したいだけなんだろうさ」
そう吐き捨てるように言うジェイソンさんは苦虫を噛み潰したような顔をしていた。神に忠誠を誓っている彼ですら、どうやら彼も教会のやり方に不満を持っているようだ。
「そんな……じゃあこのまま放っておくんですか?」
「私だって助けたいさ! だが相手は腐っても大司教の子だぞ!? 一介の冒険者に過ぎない私ではどうすることもできないんだよ……!」
そう言って悔しそうに唇を噛むジェイソンさん。
「(確かにこの人の立場じゃ難しいよな……)」
「だが、まったくのチャンスがないわけではないんだ」
俺が同情していると、ジェイソンさんがそんなことを言い始めた。
「え、本当ですか!?」
「ああ、本当だとも」
思わず身を乗り出した俺にニヤリと笑うジェイソンさん。なんかちょっと悪人っぽい笑い方だなと思ったことは内緒だ。
「先ほども言った通り、彼女は今や教会にとっては目の上のたんこぶだ。だが神を信奉する教会といえども、務めている者や信者がいる限り、金銭が必要となる。つまり、金が無ければ生きてはいけぬのだ」
「それは……」
たしかにその通りだと思う。生きていく上でお金は絶対に必要になるものだし、何より人間はご飯を食べなければ死んでしまう。当たり前のことではあるが、それを改めて突き付けられると心にくるものがあるな。
「そこで教会は一つの案を考えたわけだ」
「案……?」
「そうだ。すなわち『寄付』だよ」
「……寄付ですか」
「ねぇ、フェン……可哀想だよ。どうにかできないかな?」
「……うーん」
俺もそうしてあげたいのはやまやまなんだよなぁ。
だけど俺の財布の中身は十万Gしかない。これは先ほど職センでモンスターのドロップ品を換金したことで得た全財産だ。とてもじゃないが、五千万には到達することができない。
もし残りの素材が売れたとしても、到底その額は超えないだろう。
俺が腕を組んで悩んでいると、その様子を見ていたミレイユさんが声を掛けてきた。
「やはり難しいか? いや、君を責めているわけじゃないんだ。ただ私もできることなら助けてあげたいところなのだが……」
「そうですよね。すべての人を助けようとしたら、手が足りなさすぎるし……」
彼女の気持ちは痛いほど分かる。俺だってできるならどうにかしてやりたいところだが、いかんせん金がないのだから仕方がないのだ。
「(せめてもう少し手元にお金があればなぁ……ん?)」
そこでふと閃くものがあった。確かこの前ギルドの依頼を受けた時に報酬として受け取ったものがあるはずだ。
そして俺には新しく手に入れた力がある――!!
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