第22話 職センの修練場にて


 魔法使いを探し求め、受付のお姉さんに教えられた場所をさっそく訪れたのだが――。



「はぁ? どうして俺がお前みたいな童貞野郎の仲間にならなきゃなんねぇんだよ!」


 案の定というかなんというか。仲間になってくれるどころか、まともに話を聞いてくれる人すら見つけられなかった。


 それどころか、何人かの男たちはあからさまにバカにした様子でニヤニヤと笑っており、そのうちの一人がこんなことを言ってきたのだ。



「あー、でもあれだな。もしお前が誠意を見せてくれるってんなら、考えてやってもいいぜ?」

「……どういう意味だよ?」


 嫌な予感を覚えながらも聞き返すと、男はニヤリと笑ってこう答えた。



「簡単な話だ。俺たちにその珍しい喋る人形を貸してくれよ。そうしたらお前の願いを聞いてやるし、なんなら金だって払ってやるよ。どうだ?」

「なっ……!?」


 絶句する俺を尻目に、仲間たちはゲラゲラと笑う。そんな男たちに、マリィは宝石のような青い瞳で鋭い視線を向けた。



「悪いけど、アンタたちの玩具になるなんてお断りよ!」

「……へぇ? いいのかぁ、そんなことを言ってよぉ」

「たしかに体は人形だけど、私には心があるんだから! そんな酷いことを言うような人たちと一緒に戦えるわけがないでしょ!」


 そう言ってマリィがそっぽを向くと、男たちが途端に不機嫌そうな顔になる。



「はっ、これだから何も知らねぇガキは嫌なんだよ」

「なによ、歳は関係ないでしょ!」

「本気で分かってねぇようだから言っておくが、この街の先には魔法しか効かねぇモンスターがいるんだぜ?」

「えっ……」


 それを聞いて驚いた声を上げるマリィを見て、男が勝ち誇ったように笑う。



「だから俺たちがわざわざ親切心でアドバイスしてやってんだ。お前らみたいな田舎の弱っちい奴にそれが分かってんのか、あぁん?」


 凄む男に負けじと睨み返すマリィだったが、すぐに悔しげに俯いてしまった。



「おいおい、どうした? 正論過ぎて声も出なくなっちまったのか?」

「仕方ねぇなぁ、特別に金を払えば俺たちのパーティに入れてやってもいいぞ?」

「もちろんその人形女は俺たちの好きにさせてもらうけどな!!」

「くひひ、アッチの方も人形みたいに大人しいのか、俺たちが試してやるぜ」


 ニタニタと笑う男たちの言葉に、周りからは笑い声が響く。

 駄目だ、我慢していたけどもう限界だ……!



「お前ら……こっちが大人しくしていれば、調子に乗りやがって――」

「待って、フェン。ここで問題を起こしたら、私たちの方が追い出されちゃうわ」


 食って掛かろうとする俺を制止したマリィは、俺にだけ聞こえる声でそっと囁いた。



「私のために怒ってくれてありがとう。でもね、今は我慢して」

「だけどっ……!!」


 俺は怒りのままに一歩踏み出そうとしたのだが――その時だった。



「――おい、そこのお前たち! 何をやってるんだ!」


 凛とした声が響き渡り、俺は思わず足を止めて振り返る。するとそこには数人の男女が立っていた。


 彼らは豪華な鎧や装備をして、歴戦の戦士感がある。皆一様にこちらを見ており、どうやらこの騒ぎを聞きつけて駆けつけてきたらしい。



 その中でも一際目立つ長い黒髪を後ろで一つにまとめたポニーテールの高身長女が、カツカツと靴音を立てながらこちらに歩いてくる。背中には身長よりも大きな剣を担ぎ、腰にも二振りの剣を差していた。


 なんだろう、いろいろとデカい。あの大きな胴鎧チェストプレートなんて、武器屋の特注なんじゃなかろうか。



「いてっ!? 何するんだよマリィ!」

「――ふんっ。知らない!」


 思わず胸部に見とれていると、隣のマリィから足に肘鉄を喰らった。


 そんな事をしている間に、ポニーテールの女性は俺たちの目の前まで来ると立ち止まり、こちらを見下ろしながらこう言った。



「お前たち、そこで何をしている? そっちの彼は初めて見る顔だが、まさか喧嘩でもしているのか?」


 高圧的な口調でそう問いかけてくる女性に対し、俺たちを取り囲んでいた男たちが舌打ちをする。



「ちっ、いいところだったのに邪魔しやがって……」

「別になんでもねぇよ」


 そう吐き捨てると、男たちはそそくさとその場から立ち去ってしまった。それを見て女性は呆れたようにため息をつく。



「まったく……。すまない、ウチの者が迷惑をかけてしまったようだな」

「ウチの者……ですか?」


 そうたずねると、彼女は苦笑いしながら頷いた。



「ああ、いや。彼らは最近このパルティアにやってきた冒険者でね。私がこの街で先輩面を吹かせているのが気に入らないるのだろう」

「あー、なるほど……」


 この人の年齢は二十代前半くらいに見える。


 さっきの魔法使いたちの方が年上のようだし、自分より若い人が仕切っていることが気に喰わないみたいだ。



「アイツらにはあとで注意しておく。だからここはどうか私の顔を立てて、許してやってほしい」


 そう言って頭を下げる女性に、俺とマリィは慌てて首を振る。彼女の背後では、残りのメンバーがやれやれといった様子で肩をすくめるのが見えた。


「い、いえ! 頭を上げてください! むしろ助けていただいてありがとうございました!」

「そうよ! それに私も言い過ぎちゃったし……」


 お互いに顔を見合わせながらそう言うと、女性がクスリと笑みをこぼした。

 その笑顔は美しく、思わず見惚れそうになってしまう。



「そうか。そう言ってもらえると助かる。……あぁ、すまない。そういえば自己紹介がまだだったな」


 彼女は小さく頷いてから自己紹介を始めた。



「私の名はミレイユ・アーシャリア。『銀翼の天使団』というパーティのリーダーを務めている。そして――」



 ミレイユと名乗った彼女は背中の大剣を引き抜き、剣先を天高く掲げてからこう名乗った。



「剣士系最強、【剣聖】のジョブを持つものだ」


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