第21話 魔法使いになりたいんです!


「すみませんが、フェンさんに魔法使いの適正は無いようです」


 職業コミュニティセンターにある魔法課のお姉さんから告げられた言葉に、俺は目の前が真っ暗になった。



「……え? あ、あの適性が無いってことはつまり、それはどういう……?」


 なんとか絞り出した声は、自分でも情けないくらいに震えていた。


 それでも必死に喉を震わせて、どうにか質問を口にすることができた。



「――お、俺には魔法の才能が無いってことですか……?」


 俺の問いかけに、目の前の綺麗な女性は困ったように微笑むだけで何も答えてくれなかった。


 ああ、そうか――そういうことなのか。


 恥を忍んで「童貞っていうジョブでも魔法が使えるか、確認してもらえませんか?」とお願いしたのは、完全に無駄だったってことだ! クソッ、所詮俺は無能な存在でしかないのか……ッ!!



「……うぐっ」


 その事実を認識した途端、俺の視界がぐにゃりと歪んだ。そして堪えきれずに涙がこぼれ落ちる。



「(くそっ、くそぉ……!!)」


 どれだけ歯を食い縛っても、目から溢れる涙を止めることはできなかった。


 悔しい……! どうして俺がこんな目に遭わなくちゃいけないんだ!


 才能のある人間ばかりが優遇されるこの世界は絶対に間違ってる!



「ねぇ、フェン。なにやってるの? 受付のお姉さんが困ってるじゃない……」

「放っておいてくれマリィ。俺はどうせ魔法の一つも使えない、役立たずなんだ……!」

《気にしないで良いですよ、マリィさん。彼は『実は隠された魔法の才能が開花して無双できちゃうかも?』とかこじらせた妄想が叶わなくて、ただショックを受けているだけですから》

「ちょっとルミナ様!? いきなり出てきて何言ってくれちゃってんの!?」


 唐突に現れた相棒の暴言に思わずツッコミを入れてしまう。


 いや確かにそういう展開を妄想したけどさ! いくらマリィにはルミナ様の声が聞こえてないからって、そんなこと言わなくても良くないかな!? しかもその発言、妙に具体的だしさぁ……。



「あ、あの……そんなに落ち込まないでください。このパルティアにはありませんが、ダンジョンで得られる魔法のスクロールを使用すれば、専門職でなくとも魔法を覚えることはできますので」

「その話、本当ですかっ!?」


 ガバッと勢いよく顔を上げる俺に、受付の女性は少し驚いたような表情を見せたものの、すぐに笑顔で頷いてくれた。



「はい。ですが、習得できるのは初級までです。中級以上の魔法を習得するには、専門の学校で学ぶ必要があります」

「……なるほど」


 まぁ、そうだよな。そう簡単に誰でも覚えられるなら苦労はしないよな。


 しかし、そうなると別の問題が浮上してくる。学校に通うためには金がかかるのだ。今の俺たちにそんな余裕があるとは思えないし……。



「ちなみに、どちらの学校に通えば良いのでしょうか?」


 俺の代わりにマリィが尋ねてくれる。さすがは頼りになるパートナーだ。



「そうですね……。ここから一番近いのは、魔法都市ミネルヴァですね。あそこの魔法学園であれば、素質のある人ならだれでも入学できるはずですよ」


 そう言って女性が提示してくれたパンフレットを受け取りながら、俺は内心でガッツポーズを取っていた。


 よし! これなら俺たちでもいけるかもしれないぞ! なにせ俺のジョブは“童貞”!!

 名前こそ最悪だけど、最初の体験さえしてしまえば爆発的な経験値が貰えるはずだからな! そうすれば強力な魔法だって使えるようになるはず!!


 とはいえ、問題はどうやって最初の魔法を覚えるかなんだけど……。



「念のためにお伝えしておきますが、魔法を覚えても魔力が無ければ発動できません。失礼ながらフェンさんに魔力は……?」

「………………」



 ――――――――――――

 フェン 16歳 Lv.10



 攻撃力:30(木剣+10)

 防御力:20

 筋力:35(+500)

 回避速度:20(+400)

 魔力:“0”

 魔法防御力:15



 スキル:

 ・見切りの極意

 ・やせ我慢

 ・ワンフォーオール

 ・覗き見(New!)



【解説】

 ・覗き見:対象のステータスを覗き見することができる。ただし相手とのレベル差や関係によって見れる内容が異なる。


 ――――――――――――


「魔力ゼロ……終わった……俺の魔法使い人生は、ここで終わりを向かえたんだ……」


 そう呟いた瞬間、全身から力が抜けていくのを感じた。そのままフラフラとした足取りで壁際へと向かい、力なく壁に寄りかかるようにして座り込む。


 すると隣に寄り添うように座ったマリィが、慰めるように背中を撫でてくれた。うぅ、ありがとうなマリィ。お前だけが頼りだよ……。



《まったく、まだ諦めるのは早いでしょうに。だいたい、レベルを上げればどうにかなるんですから、悲観するのは早すぎますよ》

「……いや、だってさ。最初に見たときよりレベルが5も上がったのに、魔力だけはちっとも上がってないんですよ? これってもう、俺には適性が無いってことじゃん……いや、待てよ?」


 呆れ顔のルミナ様に反論している途中で、俺はふと気が付いた。そういえば俺、“ワンフォーオール”っていう仲間とステータスを共有できるスキルがあったよな?



「もしかして仲間が魔力を持っていたら、俺にも共有されるんじゃないか?」


 思い立ったが吉日とばかりに、早速試してみることにした。



「(まずはマリィに魔力があるかを確かめよう……“覗き見”!!)」


 マリィの肩を掴んで意識を集中しながら念じてみると、視界の隅に自分のものではないステータスが表示される。


 昨晩覚えたばかりの覗き見スキル。コレを使うことで対象のステータスを覗き見ることができるのだ。



「おぉ、ちゃんと表示されている!」

「ど、どうしたの急に……?」


 驚くマリィを無視して、俺は表示されたステータスを確認し始める。

 まずは一番気になっていた魔力だが……。


 ――――――――――――

 マリィ 16歳 Lv.15


 攻撃力:50

 防御力:40

 筋力:50

 回避速度:50

 魔力:1

 魔法防御力:15



 称号:死を乗り越えし者

 ジョブ:人形術師


 スキル:魔狼牙爪撃


 ――――――――――――


「ちょっと、どうしてガッカリした顔をしてるの!?

「――マリィ。残念だが、お前には魔力がイチしかないみたいだ……」

「い、イチ……? そ、それでもフェンよりあるじゃん!」


 一だって十分凄いんだからね、と頬を膨らませるマリィの頭を撫でる。それにまぁ、俺よりもレベルが上なだけあって他の能力値も高い。素の戦闘能力で言えば、マリィの方が優秀だと言えるだろう。凄いな、人形術師なのに……。


 しかしこれは残念な結果になってしまったな……俺たちでは魔法を使うことはできなさそうだ。



「えっと、もしも魔法を使える方をお探しでしたら、当センターの隣にある修練場へ行かれるといいですよ」


 落ち込む俺たちを見かねたのか、受付の女性がそう提案してくれた。



「修練所、ですか?」

「えぇ。そちらでは職業ごとに合わせた戦闘訓練や、狩人ハンターの方たちによる狩りの練習なども行っています。そちらにはきっと、まだ仲間のいないフリーの魔法使いの方がおられるかもしれません」

「なるほど、その手があったか……」


 それは確かに良いかもしれない。俺とマリィが駄目なら、他の魔力持ちを仲間にすればいい。

 今の俺たちは圧倒的に人手不足だし、旅の連れができれば夜の番も楽になる。いいことづくめだ。


 できればマリィを大事にしてくれるような仲間が欲しいところだが……。



「……よしっ! じゃあとりあえず行ってみるか!」

「うん!」


 元気よく頷いたマリィに頷き返しながら立ち上がる。そして二人で仲良く手を繋いで受付の女性に礼を言ってから、俺たちは教えてもらった場所へと歩き出したのだった。

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