第6話 さよなら、マリィ
……えっと、つまり俺に『童貞』というフザけたジョブを与えた挙句、増える経験値倍率の上限をミスった神様が解説してくれているってこと??
《……随分とトゲのある言い方ですが、おおむねその通りです》
「あ、返事はしてくれるんだ」
《本来は解説以外は干渉しないつもりだったんですけどね。さすがにアフターケアぐらいはしてやれと先輩からの御達しですので》
なんだろう、この腑に落ちない感じ。
俺ってこの神様のせいで死に掛けたんだよなぁ?
なのに全然反省している様子が見えないぞ?
《そんな些細なことを気にしている場合ですか? 今は戦闘中なのでは?》
おっと、そうだった。
突然の神様登場にビックリして、リゲルを放置してしまっていた。
ただお前、俺の命を“些細なこと”って言ったことは絶対に忘れないからな!!
「お前、なにを一人でブツブツと……痛みで頭がおかしくなっちまったのか?」
「……そうかもね」
神様が頭の中で語りかけてきているだなんて、どう考えたっておかしい。自分でも、こんなことになってしまったことを呪いたくなるよ。
「悪いな、リゲル。今からちょっと八つ当たりさせてくれ」
「はあっ? ……うおおっ!?」
俺がリゲルの胸に両手を当てると、馬乗りになっていたリゲルのデカい図体がふわりと浮かんだ。
リゲルは一瞬何をされたのか分からず、キョトンと間抜けな顔をしている。
そしてその表情のまま、奴は森の奥へ弧を描きながら勢いよく吹き飛んでいった。
「うわああああっ!!」
――ドォオン!!
ロクに受け身を取ることもできないまま、リゲルは木に背中から直撃。
そのままズルズルと音を立てながら地面にずり落ちていった。
「あ~、ちょっとやり過ぎたかな……?」
俺はよっこいしょと立ち上がると、服に付いた落ち葉や土を払いながらリゲルの所へ歩いていく。
どうやらアイツは衝撃で気を失ったようだ。
ちょっと手加減を間違えたかな……?
ちなみにリゲルが吹き飛んだのは俺が原因だけど、特に何かのスキルを使ったわけじゃない。
馬乗りになっていたリゲルの胸部をただ、トンと軽く押しただけだ。
それだけでリゲルはまるで矢のように吹き飛んだ。
「ハハハッ、これは凄いな。身体から力が湧いてくる。まるで生まれ変わったみたいだ」
全身が万能感に満ちている。だけど、それだけじゃない。
リゲルの『感覚操作』でやられた痛みがすっかり和らいでいる。
さっきのタイミングで大量のスキルやアビリティを覚えたみたいだけど、やっぱりそれのお陰なのかな?
習得のキッカケはたぶん、リゲルの攻撃を避けたり耐えたりしたこと。
精神攻撃耐性の時と一緒で、俺の『童貞』が発動したんだろう。
まぁ、今回は頭痛も無かったし、おかしなことにはならなかったみたいだけど。
「でも発動条件がすごく曖昧だな……呼吸や歩くだけじゃスキルを覚えないのか?」
ジョブを得てから初めての行動が全て『童貞』の対象になるんなら、こうして生きているのも条件に当て嵌まる気がするんだけど……。
《それは横着し過ぎですよ。そんな事で何でもかんでもスキルが目覚めていたら、フェンさんの脳があっという間に処理能力を超えてショック死します》
神様……天の声さんからそんなツッコミをされてしまった。
さすがに俺もあの頭の痛みはもう味わいたくないしなぁ……。
「こうして教えてくれるってことは、神様はこれからも俺をサポートしてくれるんですか? ……ところで貴方様のことはなんて呼べばいいでしょう?」
俺が前回会った神様とはまた違う、別の神様なんだっけ?
神様だって名前があるだろうし、それならそっちの方が呼びやすいよね。
《私のことはルミナで良いですよ》
「女性だったんだ……」
《ふふ。そうですよ? 美人でセクシーな女神様です。見てみたいですか?》
「いや……なんだか凄く面倒なことになりそうなんでいいです……」
なんか急に馴れ馴れしくなったぞ?
いや、冷たいよりかは良いけれどさ。
俺は地面に落ちていたロープを拾い、リゲルをグルグル巻きにしていく。
たぶんこれ、マリィを連れ去る時に使ったロープなんだろうな。
「うぅ、クソが……」
「……黙れリゲル、この外道野郎が」
か弱くて優しいマリィを弄んだ罪は絶対に償ってもらう。
だがここで簡単に殺しはしない。
死よりも辛い苦痛をとことん味わってもらうからな……。
「ゴメンな、マリィ……助けてやれなかった……」
今度はマリィの弔いだ。
力任せに掘った地面の穴に優しく、マリィの亡骸を納めていく。
俺がもっと強ければ、こんなことにはならなかったはずなのに……。
《フェンさん、ひと言私から申し上げたいことが……》
「……すまない、もう少しで終わるから祈らせてくれ。願わくば、マリィの魂が神の
祈りの言葉を捧げながら、最期の別れを惜しむ。
マリィの顔を見ていると、これまでの思い出たちがフラッシュバックする。
「もう、涙なんて流すことなんて無いと思ったんだけどな……」
精神攻撃耐性のスキルを得てから、あまり心が動かなくなるんじゃないかって……でも、そんなことはなかった。
《あくまでもストレスに対する耐性ですからね。フェンさんが人の心を持ち続けている限り、感情が死ぬことはありません。他人の為の涙はなにより、優しさの証ですから……》
「そうか……」
駄目だ……これ以上ここにいたら、一生離れられなくなりそうだ。
「また、逢いに来るからね。それまでさよならだ、マリィ」
いつまでも泣いていられない。
未だ意識を失ったままのリゲルを引き摺りながら、俺は村へと戻っていく。
リゲルを拘束しているロープを握り、さぁ帰ろうとしたところでおかしなことに気が付いた。
「なんだ?……村から煙が上がっている?」
誰かが外でたき火でもしているのか?
いや、そんな小さな煙じゃない。
村のあちこちから、狼煙のような黒煙が上がっている。
「クソ、次から次へと何なんだよ……!!」
リゲルをその場に置き捨て、足場が悪い森の中を俺は全速力で駆ける。
剛力のアビリティのおかげで、行きの時とは比べ物にならないぐらいの速度で村に着いた。
――いや、そこはもう村ではなかった。
「そんな、いったい誰がこんなことを……!!」
俺が生まれ育った村は、炎で焼け落ちた廃墟と化していた。
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