第5話 見せてやるよ、俺が童貞を卒業する瞬間を
「へっ、お前が俺と戦うだって? スキルも持たねぇハズレ人間が、随分と舐めたこと言うじゃねぇか……」
リゲルはニヤニヤと笑いながら、手にしたナイフをこちらにチラつかせる。
幅広の刃がキラキラと星の光で煌めいている。
ったく、笑っちゃうぐらい分かりやすい奴だよな。
これは普段から俺たち村の人間に対して使っている、リゲルのいつもの手だ。
村長の息子という権力や分かりやすい暴力を使うことで、何度も村の人間を脅して言うことを聞かせてきたんだ。
「な、なんだよ。さっきみてぇに逃げねぇのか?」
「はは、いつもの俺だったらそうしていたかもな。でも残念だったな、リゲル」
――生憎と、今の俺には精神攻撃耐性があるんだよ。
「(まぁ、自分でもちょっと異常だと思うくらいの煽り耐性だけど)」
リゲルの安い挑発なんて、さっきから微塵も効いていなかった。
それにコイツは、俺が授かった『童貞』というジョブの真価をまだ知らない。
「まぁいい。俺の『感覚操作』スキルで、お前にも経験したことの無い苦痛を与えてやる……!!」
っと、油断している場合じゃなかった。
リゲルは完全に俺を殺すつもりだ。
いくら俺が冷静になれるからといって、ロクな戦闘スキルを持っていない。しっかり戦わないと殺されてしまう。
「うああぁあっ!!」
大きな声を上げ、ナイフを振り回しながらこちらに向かって駆けだしてきた。
「(戦闘慣れしていないのがバレバレなんだよ!!)」
今まで脅すためだけに使ってきたから、武器をどう構えるかさえ分かっていない様子。
だからこちらは敢えて向かわない。
木剣一本で迎え撃ってやるよ……!!
アイツがどんなジョブを授かったかは知らないが、戦闘向きじゃないのは明らかだ。
戦士系のジョブなら補正が入って、どんな素人でも多少は動きが良くなるはずだから。
「(ただ、あの『感覚操作』は侮っちゃいけない気がする……)」
こちらは下手に動かずに、相手の動きを見極めることに集中する。
アイツの見え透いた攻撃をいなし、カウンター狙いで動くべきだ。
「おおおりゃああっ!!」
(――きたっ!!)
今までの俺なら、刃物を持った大柄の男が迫ってきただけでビビっていただろう。
だがそれも、スキルのお陰で大丈夫。
木剣を中段に構えたまま、しっかりと目を開いてリゲルの攻撃を冷静に観察する。
リゲルはナイフを両手で握り、大きく振り上げた。
(――上段からの振り下ろしだ! ……って、なにやってんだコイツ!? ナイフは剣と違って刃渡りが短いのに、大振りなんてしてどうするんだよ!!)
だが今は殺し合いの最中だ。馬鹿正直にそのことを指摘をしてやるつもりはない。
自分の間合いにリゲルが入った瞬間。俺は構えていた木剣をスッと前へ突き出した。
「うわっ!?」
急に飛び出してきた木剣にリゲルは驚き、目を瞑ってしまう。
まぁ刃は無いとはいえ、先は尖ってるから怖いだろう。
奴は自ら視界を閉ざし、しかしながら振り下ろしの動作は止められず。
その隙に俺は余裕をもって横へ避け、リゲルのナイフはそのまま空を斬った。
――チャンスだ。
ここぞとばかりに、空振って止まったリゲルの手首を木剣で正確に叩いた。
「くっ……ってぇ!!」
痛みは他人に与えるばかりで、自分は慣れていないのだろう。リゲルは痛みに呻きながら、あっさりとナイフを地面に落としてしまった。
馬鹿だなぁ。戦闘中に武器を手放しちゃ、殺してくれって言うようなモンだぜ?
リゲルは隙だらけとなったが俺は油断せず、一番の脅威であるナイフを素早く遠くへ蹴り飛ばす。
「っと……!!」
「死ねぇええ!!」
意外にもリゲルは切り替えが早かった。ナイフに執着はせず、今度は俺に突進してきた。
咄嗟に木剣でガードをする。……が、俺よりもずっと重いリゲルの質量はどうにもならなかった。
そのまま落ち葉の積もった地面へ、仰向けに押し倒されてしまった。
「喰らえっ、『感度操作』!!」
「……しまった!!」
どうやら奴のスキルは、相手に直接触れていさえすれば発動できるようだ。
マリィには性的な感度を高めたみたいだが――。
「ぐうぅううう!!」
スキル発動と共に、俺の全身を尋常じゃないくらいの痛みが襲った。
どうやら俺の痛覚を操作したみたいだ。
「くははっ。どうだ、痛いだろう!?」
このリゲルのスキルは精神攻撃じゃないから、俺の持つ精神攻撃耐性は役に立たない。
いや、精神耐性もなければ、痛みで発狂していたかもしれない。
それほどまでに強烈な、脳を直接針で刺すような痛みが止め処なくやってくる。
「は、なせ……っ!!」
「誰が放すかよ!! しねっ、しね!!」
強烈な痛みに自分の目や鼻、ありとあらゆる穴から液体が勝手にあふれ出す。
俺に馬乗りになっているリゲルを引き剥がそうとするも、体格差が大きすぎてそれもできない。
苦痛でもがく俺の姿を見下ろしていたリゲルの顔が、愉悦に歪む。
「はははっ!! ざまぁみやがれ!! 俺のスキルがあれば、武器が無くとも、お前なんて簡単にブチ殺せるんだよぉお!!」
「うぐっ、がぁああっあぁ!!!!」
リゲルの奴、スキルの能力に酔ってやがる。痛覚を弱めるどころか、さらに強めてきやがった。
だが――。
「おい、何を笑っていやがる?」
「ク、クク……スキルを使って俺を痛めつけたのは、悪手だったようだぜ……?」
《規定レベル以上の回避行動、痛覚刺激、筋力疲労を初体験しました。アビリティ『回避速度アップLv.40』『剛力Lv.50』、スキル『見切りの極意』『やせ我慢』を習得しました》
突然、脳内で誰かの声が聞こえた。もちろん、リゲルの声ではない。
ということは神様か!?
「(きた……ステータス!!)」
――――――――――――
フェン 16歳 Lv.5
攻撃力:1
防御力:1
筋力:5(+500)
回避速度:3(+400)
魔力:0
魔法防御力:0
称号:初恋を拗らせた童貞/神の観察対象
ジョブ:童貞
スキル:
・見切りの極意
・やせ我慢
アビリティ:
・精神攻撃耐性Lv.qWエrt
・回避速度アップLv.40
・剛力Lv.50
【解説】
・精神攻撃耐性:精神に対するダメージを常に軽減する。
・回避速度アップ:攻撃に対する回避速度を常にアップさせる。(回避速度=アビリティLv.×10)
・剛力:攻撃時に使用する自身の筋力を常にアップさせる。(筋力=アビリティLv.×10)
・見切りの極意:認識できる攻撃に対して、適切な回避行動をとることができる。
・やせ我慢:一時的に防御力を飛躍的にアップさせる。しかしそのあと防御力が大幅ダウン。
――――――――――――
解説だって……?
前はこんな項目なかったはずだよな?
――――――――――――
【解説】
・神の観察対象:すみません、私の手違いでご不便をおかけしております。お詫びと言ってはなんですが、神である私が可能な範囲でスキルなどの説明をさせていただきます。あ、これもある意味では初体験ですね? ふふふ……。
――――――――――――
「……ぶっ飛ばせないかな、この神様?」
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