第6話

見届けられてたまるかよ。

おれは、悩んで、いや憔悴していた。

あのあとゲームの主催者は


「今回の死者は決まりました。このゲームはこれで終了です。特別な贈り物もありますので、みなさんこぞって、あ、まだ。さ、ん、に、ん。ですね!ではおやすみなさい。」

妙に最後をリズミカルというやつで言葉を滑らせながら、本当に。

赤子を寝かしつけるように。


しかし場所はあの、親しみというものを込めておじさんの消えた、トタン屋根のある小さな工場。

あるいは、それだけしか集められないで、集めないで生きている、

そんな


「家」

「ちがうだろ」


おれの呟きにオレが答える。

「こんなところで!どうやって休眠とやらをするんだよっ。カタログってやつで見たレースのカーテンも、ベッドも枕もない!」

「詳しいな」おれは親友に感心する。こんな時でも。

「おまえ、いきよう、としてるんだな」

「ばっ」

親友が面食らう。そして恥じるのではなく自信と共に首をかきながら

「ばかじゃねえの」

「ばかというのはひどい言葉だ」

「そんなの知ってる」

お釈迦様やキリストに近い、しかしたゆたう文字列の中で生きるような、機械語のような俺たち。

字数を稼ごうとしてるんじゃない。本当に生まれたばかりで、もっとリハビリテーションだか、矯正がいるような魂のなか、俺たちは孤独というものを感じているのかもしれない。孤立ではなかった。おれとオレ。高校生と、その親友。二人がいれば孤、なんてものは数学の円錐とか。はるか昔に習った何かだ。

親友はねむる、をしない気だ。

「次のデスゲーム、はやくこないかなッ」

「はつ」

おれは「はっ?!」とやらを言いたくて、発音が詰まった。身体はころんだり、つんのめったり、……病気にもなるらしい。


「寝てみよう、一緒に」おれがいう。

「なんだろう、キケンな物言いだ」オレがいう。

そんなんじゃない。

「どうしてデスゲームに早く来て欲しい?」

はてなのイントネーションが得意だ。

親友は、


「はやくやれば、はやくおわる。」

言い淀む。そう思うのだと。

「わかった。だから、おやすみなさい、ってやつをやるんだ。ようするに、」

つかれて、やすむ。


親友は何も言わずに感じ取ってくれた。


もとはデータのような、魂みたいな存在だ。身体の特徴をもっと詳しく説明したいが。

「眠気だ」朝日だ、とでもいうようにおれはひとりごちる。親友はとなりで、砂というさらさらとした身体につくが気持ちは悪くない、という感触の。

硬い地面で寝ていた。

順応早すぎだろう。


一方女性は、狂いそうになっていた。

形容ばかりだが、何しろ全部はじめてだ。言い表すしかない。言うことも発声もまだ成長途中だ。


女性は、身体を腕で抱きしめて、お気に入りなのだろう。大きな毛のたくさん生えた分厚い布で身体を包んで、


わたしがけした、私が消した。わたしがデリートした。わたしが、わたし。わたし?いや、触らないで。さわらないで。いや、わたし。


唱えるように、頭の中で思っているに違いない。


着メロが鳴った。こんな音だったのか。


明日2023/02/24。デスゲーム、開催予定。


ふざけんなよ!そんなこと!


予定、スケジュールは大事だ。この電子世界。あるいは今生の別れを誰かとし、魂として生きているような自分達に!

死の遊戯、デスゲーム!そんなの何回死んで何回生まれ変わって!

生命の湖のような場所で、となりで寝ているコイツと出会えたか。ヒトビトはいっぱいいる。しかし。


こっちは、さんにんだぞ。


生き残るのは、なんにんだ?

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