第9話 溶岩地獄

あっっっっついわ〜

マジで熱い。

ホント、所々に冷水が湧き出す泉があって良かった。

アレが無かったら脱水症状で死んでる。


「ガアアアアア!」


【名前無し

 ヤトカレ Lv8/30

 スキル 熱無効 遊泳 】


レベル低いなぁ…

これじゃあ貰える経験値も少なそうだね。


溶岩の中から飛びかかってきたヤトカレの体当たりを躱すと、横に飛んで脳天に剣を突き刺す。


「ガアッ!?」


硬いものを砕く感触の後に感じた、なんとも言えないモノを感じた直後、ヤトカレは体をピクピク痙攣させながら息絶えた。


やっぱり、積極的に急所を狙った攻撃をしたほうがいいね。

今の私は、昔とは比べ物にならないくらい筋力があるんだから、力に物を言わせた攻撃だってできる。

しっかり技術習得もしたいけど、レベルアップしてもっと強くなりたい。


【名前無し

 ドラゴニュート Lv10/80

 スキル 鑑定 槍術 再生 威圧 怪力 剣術 空間収納 探知 魔力操作 火魔法 魔力鎧 竜鱗 思考加速        】


いつの間にかレベルが10になってる。

まあ、ここに来るまでにヤトカレを十数体は倒してるから、それくらい上がるか。

にしても、ヤトカレの熱無効のスキルが羨ましい。

私も熱無効――欲張らないなら、熱耐性でいいから少しは熱に強くなるスキルがほしい。

強敵との戦闘中にバテて倒れるなんて事になったら目も当てられな――不味い!!


探知が強大な力を持ったモンスターの気配を捉え、ソレが私に向かって攻撃しようとしている事を感じ取った私はすぐに回避行動を取る。

そして、たまたま溶岩の溜まっていないくぼみを見つけ、そこに飛び込んだ直後…


「シャアアア!?(マジか!?)」


マグマと同等かそれ以上の熱を帯びた炎が私の頭上を駆ける。

幸いなことに、炎はくぼみの中に入ってくることはなく、むしろ入り口が少し登り坂になっていることも相まって炎は弾かれていた。


やがて雪崩のように押しかけていた炎が止まると、私はすぐにくぼみから飛び出してこの惨状を生み出した張本人を睨む。


「シャアアア…(ドラゴンか…)」


炎の津波を発生させた張本人は、ファンタジー最強生物でお馴染みの翼を持った四足歩行するトカゲ――ドラゴンだった。

果実のような鮮やかな赤の鱗を身に纏い、比較的小さいながらも立派な角と、巨体を支えるのに必要な強靭な四肢。

そして、空を飛ぶための大きな翼を羽ばたかせ、私の事を見下ろしていた。


「ガアアアアァァァァ!!!」

「――ッ!?」


ドラゴンが雄叫びを上げた瞬間、私の体はまるで金縛りにでもあったかのように動かなくなった。


スタン状態!?

威圧系スキルを使ったか!


【名前無し

 ドラゴン(下位竜) Lv40/120

 スキル 熱耐性 怪力 鋭爪 飛翔 竜鱗 咆哮 威圧            】


マジか…

上限レベルが120?

上限レベルが高い=格上だからなぁ。

というか、威圧系スキルが通じる時点で同格か格上って事は確定してる。

そして、この硬直時間の長さから考えると…今の私じゃ勝てないね。


「シャア(よし、逃げよう)」


私はドラゴンに背を向けるとスタコラサッサと全力疾走で逃げた。

そんな私を見て興が冷めたのか、ドラゴンは私を一瞥して飛び去って行ってくれた。


ドラゴンが誇り高い種族で良かったぁ〜。

普通に逃げる相手にも容赦なくブレスぶっ放すヤバい奴だったら、私は死んでた。

…もちろん、ただで死ぬつもりは無いし、殺されるなら最後まで抗ってやるけどね?


飛び去っていくドラゴンの背中を見つめ、思わず身震いをした。

で下位竜。

あんなに強いのに、アレでまだレベルが三分の一しか上がってない。

つまり、アレよりも強いドラゴンが世界には山ほど居るってこと。

流石は最強の種族。

強さの桁が違う。

私はその事に感服し、感極まってしまった。

世界には、今まで苦戦らしい苦戦をしてこなかった私でさえ、容易く殺せるような化け物が沢山いると。

そして、そんな化け物さえ蚊を潰すかのごとく殺せるさらなる化け物がいる。

更に、そんなやつでさえ赤子の手をひねるように殺せる、常識外れな力を持った怪物がいるはずだ。

人はそれを『神』と呼ぶ。


神、かぁ…

別に居ないとは思ってなかったけど…いざこうやって考えてみると恐ろしい。

だって、神がどのくらい強いのか想像したら、私なんて砂粒レベルのちっぽけな存在。

お話にならない存在だ。

だからこそ、昔の人は自然を神にたとえ、畏敬の念を込めて崇め奉ったんだろう。


「シャアアアアア、シャアア?(私がリザードマンになれたのも、神様のおかげなのかな?)」


天井を見上げ、もしかしたら私を転生させてくれたのかもしれない神様に祈りを捧げる。

『こんな私を転生させてくれてありがとう』と。


……でも、もしこのダンジョンを作ったのも神様なら、少し文句を言わせてほしい。

この尋常じゃない熱さの階層、どこまで続くの?

これ、攻略させる気ある?

難易度設定おかしくない?

何より……


「シャアアア!シャアアアアアアア!!!(転生させるなら!せめてもう少し人間に近い生き物にしてほしかった〜!!!)」


何故にモンスター?

何故にリザードマン?

私前世でなにかした?

別に、ある意味地獄に落とされるようなことした覚えないよ?

…確かに、倉庫に湧いたネズミを百匹以上ぶっ殺ジェノサイドしたよ?

畑を荒らすヌートリアとかいう外来種のげっ歯類を鍬で始末したよ?

畑に入ってきたアライグマを同じように鍬で脳天かち割ったよ?

でも、ちゃんと供養もしたし(自分流)、埋葬もしたよ?(自分流)

私こんな目に遭うような罪を犯したことないもん!


……確かに、中学校の時に授業を真面目に受けないカスの親の車に細工して事故を起こさせたよ?

でも誰も死んでないじゃん。

…そのカスの親は大怪我したけど。

確かに小学生の頃、暴力の振りすぎて、いじめの領域に片足突っ込んでると言っても過言じゃないことしたよ?

でもちゃんと謝ったじゃん。

…その子学校来なくなったけど。

確かに、幼稚園で飼ってた鯉に捕まえた虫食べさせてたよ?

でも、鯉死ななかったもん。

…虫は減ったけど。


……あれ?意外と因果応報では?

そっかぁ…これ罰なのかぁ…

の割にはモンスター殺しまくってるけどね?

法律に縛られてないから殺りまくってるけどね?

むしろ今、楽しんでるまであるけどね?


「シャアアア?(反省したほうがいいのかな?)」


う〜ん……反省できる気しないし、別にいっか。

第二の生を楽しめって好意的に受け取ろう。

…都合のいい解釈してるだけかも知れないけどね。


私は、自分が何故転生したのかは深く考えるのを止め、ドラゴンとは反対方向に歩き出す。

もしかしたら、ここはあのドラゴンの縄張りなのかもしれない。

その可能性を考慮して、ドラゴンとは反対方向に行くことにした。


「シャアアア!(にしても熱すぎ!)」


いつか丸焼きトカゲになるんじゃないか?

そんな不安を抱えながら上に私は攻略を進めることにした。

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