第8話 灼熱と極寒

まずは赤い宝石のはめ込まれた扉を開けてみる。

すると、まるでサウナを開けた時のような感じで、ムワッっと熱気が出てきた。

それと同時に何やらガス臭さを感じ、すぐに扉を閉める。


「シャアアア…(こっちは不味い)」


多分、溶岩地帯だ。

ダンジョンで熱いといえば溶岩地帯。

そんな所に行ったら、熱中症で死ぬわ。


私は赤い宝石の扉を諦め、青い宝石の扉を開ける。

すると、足元に白モヤが発生し、冷気を感じた。

次の瞬間、私の全身を冷気が包み込み、思わず身震いをしてしまう。


「シャアアア!(こっちはもっとダメ!)」


すぐに扉を閉め、少しだけ赤い宝石の扉を開けて温度を調整する。


ついでに状況も整理しよう。

あれほど冷気を感じたって事は、青い宝石の扉は寒冷地帯だ。

おそらく、雪山か雪原だろう。

というか、絶対ただの寒冷地帯じゃない。

間違いなく凍え死ぬレベルの極寒地帯だ。

 

赤を選ぶと灼熱地獄。

青を選ぶと極寒地獄。


うん、詰みかな?

これ進ませる気ある?

だって、溶岩地帯か極寒の雪原を進まされるんでしょ?

生物が生息できない領域セット作るなや。

というか、この先に居るモンスターは何なの?

間違いなく地形を利用してくるタイプのモンスターじゃん。

やってらんないわ〜。


「シャアアア!(マジふざけてるわこれ)」


赤い宝石の扉を開けっ放しにしてたせいでなんか部屋熱くなってきたし…

せっかくだし、青い宝石の扉も開けるか。

もしかしたら、いい感じに中和されて快適になったり…


そんな思考の元、青い宝石の扉をを開けるといきなり冷気がなだれ込んできた。


「シャアアア!?(さっっっっっむ!?)」


風でも吹いているのか、雪も一緒に部屋へ入ってくる。

そのせいで部屋の温度が一気に下がり、かなり居心地が悪くなった。

私は赤い宝石の扉の前に避難すると、まるでストーブの風に当たるように温かい。


あったけぇ〜。

なんか、さっき冷気に当たった時、急に動きにくくなったからヤバイかなと思ったけど……ここまで温かいと逆に体がよく動く!

……そうだ!私ドラゴニュートじゃん!!


私は大切な事を思い出し、意を決して青い宝石の扉を閉める。

しばらくは冷気が部屋を支配していたが、徐々に熱が部屋に充満してきた。


ドラゴニュートもトカゲの一種みたいなものだから、変温動物のはず。

こうなると、寒い場所はNGだ。

だって、寒いと体の動きが悪くなって最終的に凍え死ぬし。

逆に温かいと活発に動けるから、都合がいい。

もちろん、熱すぎると熱中症になりかねないけど……寒いよりはマシだ。


「シャアアアアアア!(よし、赤い宝石の扉の方にしよう!)」


まずは扉を開けっ放しにしてこの部屋の温度を上げる。

そうやって少しずつこれから先の温度に慣れるんだ。

この先は草も生えない溶岩地帯。

少しでも温度に慣れておかないと、大変なことになる。

問題は水をどうするかだけど……なんか、あそこに何かあるよね?


私は、扉の向こうを覗いて、何やら人工物があることに気が付いた。

目を凝らしてよーく見てみると、それは噴水のような何かだった。


「シャアアア?シャアアアアア(水飲み場か?アレがあるなら、かなり楽に攻略できそうだね)」


どのくらいの数あるのかは分からないけど、どうやら水飲み場が有る事が分かった。

定期的に設置されてるなら熱中症や脱水症状を気にせず進める。

とりあえず、どのみち青い宝石の扉には入れないし、こっちに行くしかないね。


私は、ある程度熱に体を慣らすと、灼熱の溶岩地帯へと脚を踏み入れた。







「シャアァァ……(あちぃ〜…)」


溶岩地帯の攻略を始めてから一時間くらい経っただろうか?

あまりの熱さに、冷たい水を頭から被りたい気分になっていた。

しかし、そんな事をすると変温動物である私は非常に不味いことになる。

まあ、多分この熱さならすぐに元に戻るから大丈夫だろうけど。


この環境でも生きていられる生物が居るんだから驚きだよ。

ほら、噂をすれば……


私の探知がモンスターの気配を感じ取り、警鐘を鳴らす。

しかし、私はそのモンスターの位置を考えて少し――というか、かなり驚いた。


「シャアアア?(マグマの中だと?)」


私が感じ取ったモンスターの気配はマグマの中にあり、にわかには信じられなかった。

しかし、実際にマグマの中からモンスターの気配を感じ、それは私を襲うべく飛び出してきた。


「ガアアアアア!!」


マグマの中から現れたのは、魚とトカゲを足したような見た目の謎の赤っぽいモンスター。

正直、魚らしき面影のあるトカゲとか、気持ち悪くてあんまり見たくない。

でも、襲いかかってきてるんだから目を逸らすわけにはいかない。


【名前無し

 ヤトカレ Lv12/30

 スキル 熱無効 遊泳       】


……う〜ん、何コイツ。

レベルは低いし大したスキル持ってないし…雑魚じゃね?

こんなのいくら倒したところで経験値の足しにもなんないわ。


そう思って油断していると、急にヤトカレが突進してきた。

しかも、その速度は二十階層にいたモンスターと何ら変わらない。


「シャア!?(速っ!?)」


私はヤトカレの突進をなんとか回避すると、後ろから剣を突き刺して思いっきり振り下ろす。

腸を引き裂くと、ヤトカレは苦しそうに悶え始めた。


「ガアアアアア!?ガアアアアア!」


めちゃくちゃに荒ぶってるいせいで、私も手を出すことができずただ眺めることしかできない。

やがて、ヤトカレは腸を傷口から出しながら息絶え、動かなくなった。


いや、なんか勝っちゃったんだけど!?

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